第1話 発症
第4話
<大学入学と同時に行われるオリエンテーションで、いきなり総いじめに遭った>
<こんな話、信じられますか?>
<第1話 発症>
■都内大学構内。
<4月。オリエンテーションの行われるその日、わたしは極度に緊張していました>
<親元を離れて初の一人暮らし>
<家事も電車の乗り方を調べることすら、きちんと自分でやったことがない私が、田舎から都心で一人、生活しなければならない>
<友達をつくらなくては。授業の履修登録を無事済ませなくては>
<頭は様々なことでいっぱいになり、パンク寸前>
■大学の教室。他の新入生や先生たちの前でほかが自己紹介をしている。
ほか「えー、ほかです。静岡出身です。高校時代は音楽科でした。ミュージカル音楽が好きです。よろしくお願いします」
学生の女の子A「音楽科だったなんて。お嬢様なんだねー」
ほか「ううんっ、ぜんぜんっ、お嬢様でもなんでもないよっ。田舎者でっ。それに……○×△」
<極度の緊張のため、自分のことをしゃべりすぎていました>
<ほどなくして、それは起こりました>
女の子B「その鞄ブランドものー? 高そう。すごいな」
女の子C「えー? そうかな」
女の子Cの顔が暗く悪意のあるものにがらりと切り替わる。
女の子C「わたしなんて、お嬢様でもなんでもないよ」
女の子Dの顔も同じく悪意のあるものへと変貌している。
女の子D「わたし、ミュージカルが大好きなんだ~」
<初対面のはずの他の学生のみんなが、故意にわたしの口真似をしてからかいはじめたのです>
ほかの背景には絶望の黒い渦が渦巻き、焦りに身を縮めている。
ほか「ど、どうしよう……!」
<さっそく失敗した、いじめられちゃったと、絶望したわたしは、実家の両親に電話>
ほか「今の状況って絶望的で! もしママがきいたら悲しくて自殺しちゃうかもで!」
(→この吹き出しにツッコミ:動揺のあまり、まったく要領を得ない報告)
電話からの母の声「は? あんたなに言ってんの?」
<そのうちにいじめはどんどんエスカレートし、ついに道行く人までいじめの輪に加担するようになりました>
■東京の大学の外の道。ほかの周りを怖い顔をした人々が通り過ぎていく。
通行人A「あいつキモイー」
通行人B「死んじゃえばいいのに」
<みんながわたしのことをわざと聞こえよがしに悪く言ったり、通りすがりに舌打ちしてきたり>
<しまいにはテレビまで、わたしの悪口を言うようになりました>
テレビからの声「だっさいー。あはははは」
(→この吹き出しにツッコミ:みんな自分のこと)
<ある時確信しました>
ほか「これは、中学のときわたしのことをひどくいじめてきた同級生の仕業だ。ネットでわたしのことを拡散して仲間をつくって、みんなでわたしを攻撃しているんだ!!」
<そのうちに携帯も操作され出します>
■静岡の実家の部屋。ほかが血相を変えて携帯を耳にあて喋っている。
ほか「自分が書いた覚えのないメールが、何者かによって書かれ、送信されてるんです! 助けてーっ」
(→この吹き出しにツッコミ:携帯会社に訴えている)
母「そんなはずないよ」
父「ほかの気のせいだよ」
ほか「違うんだよみんな。みんなにはわからないように、巧妙に攻撃されてるんだよ~っ」
<様子がおかしいと思った家族、親族に連れられ、精神科を受診。薬を処方されるも――>
■実家。ほかが血走った目で家族に訴えている。家族は困惑の表情。
ほか「家族までわたしを殺そうとしてる! これは死ぬ薬だ! ぜったい飲まないからねっ!!」
<ほどなくして診断された病名は統合失調症>
<世間が自分を総攻撃しているというのは、病気がそう思わせていたことだったのでした>
<プロローグを読んでくれたみなさん、ちょっと怖い冒頭ですみません>
<この漫画はホラーでも、ぞくっとする話でも、もちろんサスペンスでもありません。気楽に読めるエッセイ漫画、のはずです。怖いものが苦手という方でもこの先はご安心ください>
<先走りになりますが、統合失調症という心の病に教えられたことがわたしにはたくさんあります>
<それはなんでも根性論で片付けがちな今の社会に欠けている考え方、価値観のような気がしていて>
<手に取ってくれたあなたが統合失調症の方でも、ご家族にご病気の方がいるという方でも、そしてそんな病気知らなかった! という方であっても、知らず知らずのうちにその心を厳しく縛っているいくつかの糸の一本でも緩めることができたらと、そんな想いから生まれた本です>
<統合失調症という病気をまとめると、こんな感じです>
■黒板のイラストに文字が書かれている。
その前に博士のコスプレをしたほかが指示棒を片手に立っている。
<統合失調症
・100人に1人がなる珍しくない病
・妄想、幻覚などの陽性症状、意欲の低下、感情の鈍りなどの陰性症状がある
・大半の人が十代の若い時期に発症する
・急性期(妄想・幻覚などが現れる時期)→消耗期(オーバーワークだった脳が疲弊し、意欲の減退が起こる。やたら眠い)→回復期(徐々に体力が戻り社会活動に復帰できるように)
という過程をたどり、回復までに十年以上かかるケースもある。
・薬物療法が主流
・かかる理由としてストレス、遺伝的要因が考えられる>
<がんばり屋だった人が急になにもできなくなったり、仕事などの社会的活動どころらふつうに生活することすら困難になったり、なによりも周りの心ない誤解・無責任な言葉、偏見があったりと、ちょっとやっかいな病気です>
<ところが、こんなふうに著書に書いていらっしゃる先生もいます>
■本のイラストの中に、言葉が書かれている。
<統合失調症は、高度な精神をもつ人間だけがかかる病である。その病には、人間であることの本質的な苦悩や矛盾が顕れているとも言える。統合失調症の世界を知ることは、人間という存在の本質を、一つの極限の世界で発見することでもあるだろう。
岡田尊司さん著『統合失調症――その新たなる真実』より>
<そうなんです。この病気が教えてくれるものもあるんじゃないかとわたしは思います>
<もし、あなたやご家族がこの病気を発症してしまっていたら>
■ほかが不満顔でぶつくさ言っている。
ほか「なんであたしが? ジョーダンんじゃないよっ」
<という困った心境に大いに頷きつつ>
<もしかしたら今の世の中に足りないもの、新しい生き方を統合失調症は示してくれているんじゃないか>
<真っ暗闇のただ中にいる病気の方、ご家族の方に、統合失調症の人は人並みの人生を送れないどころか、普通の人にはない青春がこれから待っているのかもとか>
<自分にあった生き方をしていいんじゃないかとか>
<そんなふうに提案したくて、この漫画を描きました>
■ほかが扉を開けている。その向こうには花や蝶、草木、野原などのどかな景色がちらりと見える。
<もし興味を持ってくれたならちょっとだけ、おつきあいください>
ほか「はじまるよ!」
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