Ep.x+6 -「だから…今すぐ、は無理かもしれないけど…」-

 …。…なんか、結華の距離が妙に近い。

 どうしたんだろ、なんかあったのかな。

「…結華」

「…なに?」

「今日なんかすごく距離が近いと思うんだけどさ…なんかあったの?」

 そう聞くと、結華は少し迷ったような顔をして、コクリと小さく頷く。

「…笑わ、ない?」

「まあ、努力はしてみる」

「…あのね…夢…見たの、響谷くんが遠くに行っちゃうような夢…」

「そうなんだ」

「…うん…。…だから…怖いの。目を離したら…響谷くんがどこかに行ってしまいそうで…」

「…そっか」

 …『大丈夫、俺はここにいる』って、そう言うのはできるんだろうけど…、現状それが起こり得ないという訳でもない。可能性は十二分にあるんだ。結華を置いて…どこかに…。

 そんな事は…そんなのは…俺も嫌だ。だけど可能性として、俺と結華が離れ離れになることだってあるかもしれない。

「…そんじゃあ、俺はどうすればいい?」

「ずっと、ずっとずっとずっと、私の傍にいて。ずっと私だけを見てて、ずっと…ずっと、響谷くんに甘えさせて」

「あはは…我が儘だな」

「…ぁ、その…嫌?」

「そんなわけないじゃん」

「ひゃっ…!?」

 結華の頬にそっとキスをする。

「…だから…不意打ちは…ずるい」

「でも嬉しいんでしょ?」

「…それは…そうだけど…むぅ、響谷くんのバカ…」

「…まあ、さ。俺が何時までも結華の傍にいられるって、そんな保証はできないよ。もしかしたら、どこか遠くに行ってしまうかもしれない」

「…ん…」

「…だけど、さ」

「だけど?」

「俺も、ずっと結華の傍にいたい。だから…今すぐ、は無理かもしれないけど…高校卒業してさ、仕事して、安定して稼げるようになったら…」

 ―――結婚しよう、結華。



 開いた口が塞がらない。…それって、………。私と…結婚してくれるの…?

「…プロポーズはまた改めてするからさ」

「…ふふっ…。うん、楽しみにしてるね」

 どんなプロポーズをされるのかな。そんな事を脳内で少し妄想してみる。レストランにデートに行って…いい感じの雰囲気になって…。ふふふ…。

「………えへへ…」

「ん、結華、どうかした?」

「あ、ううん、なんでもない」

 …高校卒業、して…結婚したら、私が仕事をして、響谷くんは専業主夫になってもらおうかな…?それとも私が専業主婦になろうかな?それとも…共働き?

 ―――いいや、それは駄目だ。響谷くんは絶対に人気者になる、悪い虫がつくに決まってる。そうなったら響谷くんの事が気が気でなくて仕事に手が付かない。

「…響谷くん」

「ん?」

「結婚したら専業主夫になって」

「え、俺普通に共働き―――」

「ダメ。絶対にダメ。何があってもダメ」

「…えぇ…そんなに?」

「そんなに。響谷くんの事が心配で仕事に手が付かないと思うから」

「はは…そう…」

「それに…仕事で疲れた私を、響谷くんが癒してほしい」

「そっか、分かったよ」

 あとは…子供…。

「子供は、何人くらいほしい?」

「…それは…また追々でいいんじゃないかな。今急いで決めるような事でもないだろうし…結華だけが働くってなると、お金の面でも色々心配だしさ」

「そうだね」


 ■


「…梨帆、来たぞ」

 月守家の墓の前に立って、そう呟く。

「近況報告…って言えばいいんだかな。ま、響谷は幸せそうだよ。彼女と仲良くやってる。…けど、最近ちょっと無茶してるような気もするがな」

 墓を掃除し、花や水を換えながらそう呟く。

「………」

 時々、というかずっと。疑問に思ってんだ、お前はそれでよかったのかって。あいつの幸せそうな顔、成長してく姿、そんなのを見ずに死んでも…さ。

 あいつは私の息子じゃないし…私と養子縁組を組んでるわけでもない。…けどさ、きっと、あいつにも母親がいたら、多分あいつはもっと幸せな顔を見せてくれると思ってんだ。なんとなく、そんな気がする。

 お前だけでも生きてたら、響谷はもっと幸せになれて、響谷はもっと、お前に笑顔だとか、成長した姿を見せてくれたんじゃねえのかな。

「…次は、響谷も連れて来てやろうか?」

 当然、私の質問に答えてくれるような奴はいない。

「…そんじゃあな、また…いつか」

 息子の晴れ舞台結婚式には出席してやれよ?…なんてな。

 私は多分、響谷を引き取らなかったら…適当な誰かと恋人になって、結婚して…そんな事もなくつまらない人生だったんだろうな。

 最初は面倒だったさ、それこそ、後悔した時もあった…気がする。けど、あいつの成長する姿とか…色々見てるとさ…なんかもう、それだけでいいやって思えるんだ。

 だから…お前にもそれを味わってほしかったな。



「…それじゃあ、今日はとりあえず帰るね」

「おう、またな」

「うん、またね。…あっ、そうだ響谷くん、ちょっと」

「ん?」

 手招きをする結華に近付く。すると、頬に柔らかい感覚が降れて離れる、

「…またね」

「あぁ、またな」

 結華が家を出るのと入れ替わるように、葵が帰ってくる。

「お、おかえり」

「おう、珍しく出迎えてくれるとは思わなんだわ」

「まあ、結華見送った瞬間に帰ってきたからな」

「なんだよついでかよ」

「ついでじゃないと出迎えには行かねぇって。なんでわざわざ出迎えに行かなくちゃならねぇんだよ」

「ま、それもそうか。とりあえずただいま、響谷」

「あぁ。おかえり、葵」


――――――――

作者's つぶやき:姫ほほ番外編もこれで完結…ですね。

あれやこれやと思いついてはおりますが、最早シーズン3になりそうなので止めておきます。

…さて、次回作は何にしましょう。GSMワールドも一旦完結させねばなりませんしね。

――――――――

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『クラスの姫(通称)は俺にだけ微笑む』~姫ほほ特別編SS:お姫様の仰せのままに~ ますぱにーず/ユース @uminori00

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