境界に佇む者たちの孤独、邂逅、そして渇望。――古代和風契約婚姻譚
- ★★★ Excellent!!!
※本レビューは第一節までの内容です※
【こんな方向け】
☑艶やかな和風ファンタジーを読みたい方
☑陰のある美貌の貴公子と人ならざる存在の血を引く神巫との恋物語に心惹かれる方
☑政と呪、愛と宿命が交錯する物語を好む方
【あらすじ】
飛鳥時代末。
鬼神の血を継ぐ神巫・夜鳴媛は、斎院に幽閉され祈りの日々を送っていた。
ある夜、村が一夜で滅び、聖なる「神威の銅鏡」が砕け散る。
人神――「ジン」の存在により、結界が乱れ、国が揺らぐなか、夜鳴媛は、「冷酷無慈悲」と噂される若君・天祥との「契約の契り」を命じられる。
義務と使命のために取り交わされる――「契約結婚」と。
運命に抗うべく逃げようとするも不首尾に終わった夜鳴媛。
だが、天祥の瞳に宿る虚無と孤独を知ったとき、彼女の心はわずかに揺らぎ始め……。
においやかな文と物語に酔う――長編・和風契約婚姻譚です。
【おすすめポイント】
(1)異質な者同士の惹かれ合い
天祥と夜鳴媛は、それぞれに「異質さ」と「孤独」を抱える存在。
血や能力、宿命の異質さ。身の置きどころの無さゆえの孤独。
そんな二人が惹かれ合うのは、ある意味自然なことかもしれません。
本作は、そんな「境界」に立たされた者達と、彼らが抱える孤独。
それ故の痛切な渇望――を描いた物語として読みました。
しかしながら、二人には過酷な試練が立ちはだかります。
天祥の葛藤。夜鳴に忍び寄る「ジン」の誘惑。
最後に彼女の傍らにいるのは果たして――?
今後も目が離せません。
(2)夜鳴媛とナカテの軽やかな語り&小姑・秋桜花の存在
斎院で幽閉されて生きてきた夜鳴媛。
彼女は人の本質を見抜くに長けてはいるものの、世間知らずな御方。
そんな夜鳴媛にあれこれとアドバイスするナカテ。
このやり取りが、最高です。
また、天祥を大好きな異母妹・秋桜花の存在も、素敵なスパイス。
彼女が出てくると、夜鳴媛が大分面白い行動をしてくれます。
本作は、なかなかに「重さ」のあるお話。
しかし、ナカテとのやりとりや、秋桜花の存在が中和剤として、
ほっと息をつくような、軽やかな空気を物語に生み出してくれています。
(3)舞台描写の妙味
舞台は飛鳥末期――政治と信仰、人と“異なるもの”の境界があいまいな時代。
古代の空気、祈りと呪、そこへ絡む畏怖と羨望、そして人の欲が複雑に溶け合う世界。
――飛鳥の香気漂う世界に遊び、物語と繊細な心理描写を味わい、磨かれた言葉に酔う。
そんな、上質の読書体験が待っています。
是非ご一読ください。おすすめです。