第35話 女鹿田清子あらわる

 日曜日のまだ早い時間、アミーこともう惟秀これひでは、RPG村の狩猟チームの皆さんに山道さんどうまで送ってもらうことになった。まだ山から出られてもいないのだ。


「おおっ! 貴方あなたが三代目のあみ呪師ずしなのですね。我らがマンマディフィクが選ばれた新たな御方おかたよ。今後ともどうぞよしなにお願いいたします」


 アミーの目の前には、この一行についてきてくれるという怪しい存在もいた。

 イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくあやしくはあるのだが、呈云ティウン呈云ティウンと呼ばれる彼らは、より土俗どぞくてきにおいのする奉仕ほうし種族に見えた。


 呈云ティウンとは『ささげる』という意味のようで、彼らはイクちゃんを神としてあがめているらしい。


 鳥のような声のさえずりは、首からげた箱から日本語になって、呆然ぼうぜんとするアミーに先ほど届いたというわけだ。


「いや、その……俺も術とか使えるわけじゃないから。今日はよろしくお願いします」


 アミーは彼らに、へどもどとそう返した。


 フクロウとペンギンを足して、少しは長い手足をつけて、羽根を黒とか茶色とか緑色にしたらこんな感じという彼らは、不思議なことにうやうやしくアミーに接した。


 アミーにとっては、彼らがイクちゃんのことを『マンマディフィク』というのが少し気になったものの「鳥だしまぁ良いや」という風に済ませたのである。


呈云ティウン呈云ティウンの皆んなは魔法が使えるの。危険生物よけとかケガを治したりするヤツね。それでかりについてきてもらってるわけ」


 村の若い狩人であり、わけありの家出少女でもあるリノリノは、そんなバカなと言いたい感じの説明をアミーにしてくれた。


「それって……いや、昔はそういうことが出来る人がいたんだ。不思議でも何でもない。ここの村の人は、もっと昔の生活に戻ろうとしているんだね」


 アミーは、自分が見た村のことをそのように解釈かいしゃくした。


「そろそろ山道さんどうですぞ、あみ呪師ずしよ。お気をつけて行かれよ。どうかお役目を果たされんことを」


 ここでアミーたちは彼らと別れた。アミーにはやらなくてはいけないことがあるのだ。


 それにしても、とアミーは先ほどの台詞セリフについて疑問に思うことがあった。


「イクちゃん、2代目のあみ呪師ずしは室町時代ぐらいの人だったんだよね。何で今まで3代目がいなかったんだい?」


 考えてみればこれはおかしな話だ、という風にアミーには感じられたのである。


「アミー、それはな、戦乱期せんらんきはやはり盗んできた方が早かったのだ。カネはらっても相手が滅びるのも早かった。それでは継続的けいぞくてきな取り引きというのが難しいのだ」


 それでも、大名の中には、そういう関係の者たちも多少はいたようである。彼らは先祖せんぞから続くコネとしてイクちゃんと付き合い、そして太平たいへいという長い停滞期ていたいきに入ってしまった。


「それより、アミー。何か近付いてきているのだ。それによく知っておる人の気配もあるな。当人あてんと教授ではないぞ。女性だ」


 イクちゃんの方はそう教えてくれているのだが、常識の範囲内にいる現代人のアミーとしては「そう言われても、こちらは何も感じませんがどうしろと?」と返したいところだった。


「イクちゃん、今はダンボールも着てるからだと思うんだけど、これ本当に動きづらいっていうか大丈夫なのかい? これで素早く動けって無理だと思うな」


 アミーとしては、顔ですらある角度から下に向けられないことに、今やっと気がついたところだった。


「これは呑舞どんまいワニではないかと思うのだ。あやつら普段は地中におるからな。りにしたら、あの術のことが分かるようにならないだろうか? 

 いつもは皮と肉になって終わりなのだ。たまにアイテムを落とすが、相手が12歳以下でないと、アイテムを落とす確率かくりつの方がクソ以下でな」


 そう言ってイクちゃんは、先を急ぐ様にアミーの前の方をフワフワと飛んで進んだ。


「イクちゃん、ちょっと待ってくれ。これ着てると足元がよく見えないし、何だか黒くて長い生き物が前の方にいるようなんだけど、このまま行っても大丈夫なんだよね?」


 アミーとしては、つられて歩く速度は上がったものの、元来がんらいのヘタレがたたって怖いことこの上ない状態なのである。

 その上、進行方向にはあやしげな生き物の姿までが見えてきていた。


「そうも言っておれんのだ、アミー。あれは呑舞どんまいワニで間違いないが、アレにねらわれておるのは清子せいこのようだぞ! あの娘がどうしてここにおるのか知らんがな」


 そのイクちゃんの台詞セリフには、さすがのアミーも前方をガン見してしまう威力いりょくがあった。


 そこには確かに、スポーティというにはいささか可憐かれんさがまさ女鹿田めかだ清子せいこ(21歳・女子大生)が、ジャージと防寒ぼうかんジャケットを着て後ろへ身を引いた姿勢しせいで立っていたのである。





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俺が吹き飛ぶと桶屋がもうかる お前の水夫 @omaenosuihu

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