半妖のスーズゥ

うたかた あひる

プロローグ

 山々に囲まれ、ひっそりと佇むリーシャ村。ここでは毎年、秋になると収穫祭が行われる。山の神の恵みに感謝し、寒い冬の加護を祈るのだ。

 収穫祭には村人だけでなく、語り部や旅芸人も招かれ、その旅人たちにも豪勢な酒と飯が振る舞われる。そのおかげか、収穫祭のリーシャ村はどの街よりも賑わっている。


 収穫祭にはひとつ変わったしきたりがある。

 大人も子供も、村人も旅人もみな、日が沈んだ後は動物を模した仮面を被らなければならない。

 それは魔除けの仮面である。収穫祭には祭囃子まつりばやしに誘われた人食い妖魔が、旅人に混じって現れるという。妖魔は夜になると人を喰らう。だが仮面を被っていれば、妖魔は人を動物だと思い、襲わないそうだ。


 三日三晩続く祭りの目玉は、最終日の大鍋炊きと踊りだ。村で採れた作物を大鍋で炊き、その周りを皆で囲って踊る。村人、旅人に妖魔――誰もが仮面の下にその素顔を隠して。

 どんな者でも最後まで楽しめるのが、この村の収穫祭だ。


 だがこの収穫祭、最終日の踊りの後――必ず誰か一人が忽然といなくなる。

 それも村人ではない、旅の者が一人。

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