第2話 ……は?

 おたまで鍋に入ったカレールーをくるくる回しながら、彩花さいかはぽつりと言う。


「……そういえば、昼休み一緒に弁当を食べてる後輩こうはいって……女の子だったりする?」

「する」


 彩花の言葉に頷いたタイミングで、ピピピッと、炊飯器から米が炊けた合図を告げた。


 ぱかっと炊飯器を開けてしゃもじを片手に大皿へと米をよそう。


「ほい」

「……ふーん。いつも一緒に弁当食べてる後輩って女の子なんだ」


 言って、彩花は俺から受け取った大皿にカレールーをよそった。ちょっと彩花さん、俺の皿人参多くない?


 彩花は、俺の心を見透かしたような強張った笑みを浮かべて言う。


「好きでしょう人参」 

「好きか嫌いかで言うなら嫌いだよ人参」

「好き嫌いするな。ばか」

「……はい」


 テーブルにカレーとサラダを置いて、コップに麦茶を注いだ。


「「いただきます」」


 ――――――――――

 ――――――

 ――夕食を終えて。


「――ねぇ、雄助ゆうすけと一緒に弁当を食べてる後輩女子って、私の知ってる人?」


 シンクに溜まった食器類を洗う俺に対して、テーブルを拭きながら彩花は問うた。


 まだ、その話続いてたんだ。というか、


「……俺が後輩と弁当食べてることがそんなに気になる?」

「……一応、気になるから教えて」


 まじか。けど、どうだろ。


 あいつ、やたら告られアピールしながら愚痴を挟んでくるし。自他共に「かわいい」女子生徒として、彩花の言う「知ってる人」に含まれているのだろうか。


 ……いや、待てよ? 一色ひとしきは基本一人だ。本人曰く、可愛過ぎる美少女が故、一匹狼を気取っているらしい。


 気取るなら最後まで気取れよと一色に言ったら、強張った笑みと共に往復ビンタを叩き込まれたどうも俺です。


 途中、痛みが快感に変わる瞬間があった気がした。……が、俺はMじゃない。


「雄助?」


 怪訝に満ちた表情を浮かべて、彩花は俺を呼んだ。


「……いや、彩花はあいつと同じクラスじゃないから……知らないんじゃない?」

「……何で、後輩のクラスを把握してるの? 気持ち悪い」

「……彩花ちゃん、気持ち悪いはやめて? シンプルにお兄ちゃん泣いちゃう」

「ごめん、つい本音が。……というか、お兄ちゃんって言うな」


 こほんっ。小さな咳払いを一つした後、俺の従姉妹は口を捲し立てた。


「雄助、最後に一つだけ。これだけは確認させて」

「何?」

「その後輩女子って――まさか、一色ひとしきさんってことはないよね?」


「えっ?」


「……は?」


 俺の反応から瞬時に相手を察した彩花は、あまり聞き慣れない低い声音を放つ。続けて彼女はゴミを見るような目で此方を睨んだ。


「何で、雄助と一色さんが一緒に弁当を食べてるの?」


 にこっと口角を吊り上げながら、問うた彼女の言葉に冷や汗を浮かべたことは言うまでもない。……助けて神様。


 従姉妹からの軽い詰問を受けた昨日。


 旧校舎の非常階段にて、一色と弁当を食べるようになった経緯を説明して事なきを得た俺は、昼休み、いつも通り弁当を片手に旧校舎の方へと足を進めた。


 開口一番ふわりと肌を撫でる心地良い穏やかな風と共に、非常階段へと辿り着いた俺に対して、先に来ていた後輩はぷくっと小さく頬を膨らませ口を開く。


先輩せんぱい、遅い」


 俺は内心小さなため息をいた。


「うるせぇ」

「そんな……ひどい。先輩のかわいい後輩なのに……およよよ」

「あー、はいはい」

「かわいい後輩を蔑ろにすると、そのうち天罰が下りますよ先輩」

「くだらんくだらん……えっ」


 一色の言葉を軽く聞き流しながら、彩花の手作り弁当をぱかっと開けた瞬間、驚きのあまり大きく目が見開いた。


「白米に梅干し……えっ、なにこの見事な日の丸弁当」


 若干引き気味に言った一色の言葉通り、弁当の中身は白米と梅干しだけだった。あっ、ミニサイズのふりかけがある。


 恐らく、味変用に入っていた未開封の海苔卵ふりかけ。


 又、そのふりかけにはマジックペンで大きく、ばーか――と可愛らしい文字が添えられていた。……なるほど。


 ――彩花ちゃーーーーーーん!!?


 俺は心の中で従姉妹の名を叫んだ。


「先輩、わたしのアスパラベーコン食べます?」

「……ありがとう。食べる」


 一色からのお恵みを感謝と共に噛み締めながら、ぱくりっとアスパラベーコンを口に運んだ。……塩胡椒が染みるぅ。


 隣に腰掛ける後輩から可哀想な目を向けられている様な気がするけれど……多分それは気のせいじゃない。

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最近、小生意気な後輩と話すようになった。 桜井日高 @yoake27

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