ピピピ――ピピピ――
6時30分に設定したスマホのアラームが鳴った。
手探りでスマホを手に取りアラームを停める。
んっと毛布の中で伸びをした後――僕、北崎千尋(きたざき ちひろ)はベッドの上から起き上がった。
とある日の昼休み、体育館内で問題を起こした僕の愚兄は、生徒会執行部の元、連日奉仕活動に勤しんでいる。
本日が挨拶運動最終日らしい。
ふわぁ、欠伸交じりにリビングへと足を進める。
がちゃ。ドアノブに手を掛けて、開口一番に愚兄こと――北崎|霞(きたざき かすみ)の姿が目に入った。
「おはよう兄(にい)さん」
早朝から奉仕活動の一つ、挨拶運動を控えている兄さん。見慣れたグレーのブレザーをソファに掛けて、ワイシャツ姿のまま、首元へネクタイを結ぶ最中だった。
「おはよう千尋(ちひろ)。悪い、すぐ出るわ。最後の戸締まりよろしく!」
「はーい」
「くれぐれも田中(たなか)某氏には気を付けろ!」
「……某氏必要なくね?」
きゅっと、ネクタイを結び終えると兄さんはブレザーに袖を通す。
「いってきます」
玄関先でローファーを履き、鞄を持って兄さんは家を出る。
「いってらっしゃい」
軽く手を振りながら、僕は兄さんを見送った。……顔洗おう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝の身支度を済ませ、僕は鍵を締めて家を出た。
「千尋(ちひろ)おはよう」
手で口を覆いながらナオちゃんは小さな欠伸を一つ。
「ナオちゃんおはよう。眠そうだね」
「うん……私……朝弱い」
「うん、知ってる」
ナオちゃんは柔和な笑みを浮かべて、そうだね――言葉を返した。
浅倉生が多くなってきた私立浅倉学園の通学路を歩く。ナオちゃんは友達と楽しそうに談笑している。
「北崎(きたざき)〜」
不意に後方から声を掛けられた。立ち止まり、半身振り向き声のした方へ視線を移す。
「やあ、田中(たなか)君」
「おっす」
「おっす」
微笑交じりに僕は田中君と挨拶を交わす。兄に田中某氏と言われる男子生徒。
兄さんが挨拶運動に行ってる間、僕は最近同じクラスメイトの田中君に声を掛けられることが増えた。
生徒会の人達と並んで校門前に立つ兄さんと目が合う。
「……なんか、俺、北崎兄(あに)にめちゃくちゃ睨まれてない?」
「……気にしたら負けだよ」
「気のせいじゃなくて!?」
ため息交じりに、こめかみをおさえて瞑目する僕。……うちの愚兄がなんかごめんね。
昇降口にて、田中君は口を開く。
「なあ、北崎」
「ん?」
「来週は北崎兄と一緒に登校するのか?」
「……まあ、そうだね」
不本意ながら。苦笑気味に言う僕に、田中君は意を決した眼差しと共に言う。
「その、来週も俺と一緒に登校しないか?」
何故か顔が赤い田中君。
あははっ――と、苦微笑を浮かべつつ、小さく頭を振った。
「それは無理」
「……そうかぁ、無理かぁ」
言って、田中君はがっくり項垂れた。ごめんね。
「ちなみに無理な理由を聞いても良いか?」
「んー、特に理由はないけど。強いて言うなら、――こう見えて僕はお兄ちゃんっ子なんだ」
はにかんだ笑みを浮かべながら、僕は、はっきりと言った。
――兄さんには秘密だよ?
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『俺の幼馴染は外では澄ましているが――家ではだらしない。』番外編なんでノートの方に投稿しました。
よろしければ是非〜( ╹▽╹ )