第一章
第一章1 『寛大な心は恋愛に関係ないのかもしれない。』
学園に中庭というリア充ボットリスポーン地点があってもよいものだろうか。
青春を謳歌したような、付き合っているのか付き合っていないのか、はたまた突き合っているのかどうかもわからない男女たちがこぞって告白し、イチャコラする場。言わばカップルの聖地。
そのカップルの聖地が、学校の真ん中にあるというだけでその価値というのが俺の中で色々と問われるのだが。
青々とした芝生の広がった中庭にあるベンチでその中庭の価値について考える。
本来、中庭というのは皆の憩いの場。休憩スペースであるべきではないだろうか。皆和気あいあいと弁当を突き合いながら友達同士仲良くするのが本来の用途だろう。
それがなんだ、この中庭を埋め尽くす大量のカップル。騒ぐヨウキャという我々陰キャとは違う人種の人たち。
ほらみろ、友達同士で来たガールが気まずそうに場所を変えているではないか。
所詮は心の中でしか言えない愚痴を心の中でしっかりと吐き、本題に移る。
「さてと、どこに行ったっけか……」
四時限終わりの昼休憩。鞄のチャックを大きく開けて、目当ての物を探す。
さて、今日こそは中庭で三日ほど前に借りた本でも読んでやろう。二時限目の眠い時間から決めていた今日の昼の過ごし方。至高のひと時。
しかし気になることが1つ。新しい本を読むたびに毎回思うが、本の導入とはつまらないものが多すぎる。そしてそれは長いとダレるのだ。
そんなことを考えながら、本の目次を飛ばし、導入部分を読み始めた。
本を開いて数ページ。『寛大な心と恋愛の関係性』
……どうやらこの本は俺には必要ないのかもしれない。
そのまた数ページ飛ばして読み始める。エッセイくさい文章は好きじゃない。
寛大な心とは何か、よくわからないのだから理解しようもないだろう。あれか、みんな仲良くしましょうみたいなやつか。そういうのはクラスの自己紹介の一言とかで十分だろ。
「ナツキくん? ナツキくーん。ねえ、あの、ちょっと無視しなくてもいいんじゃない?」
気づけば何か珍しく名前を呼ばれたようなそんな気がした。愚痴はここまでとしよう。
風になびく金髪。その風に流れて香る流行りのシャンプーのにおい。そしてどこか聞き覚えのある声。そう、多分。いや間違いなく陽キャ。何処にでも現れますね。このヨウキャっていう人種は。
そして突然の陽キャの襲撃に陰キャとしての防衛本能が働く。あんたがサメなら鼻をこうしてこうだった。……え?あ、なぜ女子に流行っているシャンプーのにおいを知っているのかは触れないでください。別に通りすがりにそのにおいを嗅いでたりとかはしてない。シテナイ。ナツキ、ウソツカナイ。
「ねえなんか顔キモイ」
金髪から発せられる痛烈な一打でふと我に返る。別にいいだろ顔見るな。
「あ、はい。なんでしょう」
「妹さんが一年C組で呼んでるって。さっさと行ってあげなよ」
そうか、妹のことなら仕方がない。脳内のあらゆる場所を駆使し、昨日まで覚えていた大事なことについて思い出す。そうかもうそんな時間か。
「……おう」
金髪ビッチは用件だけを伝えると、足早に消え去った。
まあ鼻から自分に恋愛小説のような展開は期待してない。妹ラブ。妹天使。ビッチはムキムキマッチョのチャラチャラ男と一緒に帰ってくれ。
鞄を整理し、大きく開いたチャックを閉め、ベンチを後にする。
結果的には天気予報に裏切られた形だが、新聞でも雨予報だった昼はこのようにすっかり晴れたので、いつもよりカップルの少ない中庭を歩き俺は本館へと向かった。
うちの悪役令嬢《義妹》はスローライフ主義 汐川ナギサ @shiokawa_nagisa
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