鬱乙女ゲーム世界に転生したので漫才コンビ「悪役令嬢」で婚約解消いたします!

春風悠里

漫才コンビ「悪役令嬢」

「皆様、ご注目ください」


 乙女ゲームの世界に転生してしまった私、二ノ宮雛子――ここでは公爵令嬢のロゼリア・ビバリーが、学園の卒業記念パーティーの開始早々、会場中に声を響かせた。


 先手必勝だ。


 今日はこのまま何もしなければ、そこにいるおバカ王子、エリク・オズワルド様に婚約破棄を言い渡される。その隣にいる男爵令嬢リリナに惚れて、真実の愛に生きるのだと宣言されるのだ。


 そんな乙女ゲームは普通、存在しない。皆が幸せでないと後味が悪いからだ。


 が、鬱ゲーは別だ。この乙女ゲームメーカーは鬱ゲーを量産している。婚約破棄される私も幸せになれないし、そこのおバカ王子も責任を問われて平民に落ちる……ものの、今日までの選択肢次第では平民として幸せに二人で慎ましく暮らしてはいけるので、この鬱ゲーの中ではもっともマシなエンドだろう。


 ……ヒロインにとってはね。


 私もヒロインをいじめただのなんだの言われるので印象が悪くなり、ろくな婚姻は今後望めなくなる。


 ――というわけで、私は考えた。


 彼らを引き剥がすことはできないし、引き剥がして私との婚約が継続するのも嫌だ。せめてもう少しマシな男と結婚したい。


 全てをどうにかする――私は彼に婚約破棄を言い渡せなくさせ、そのうえこの場で円満に婚約解消をする方法を思いついた。


 というか、ない頭ではこれしか思いつかなかった。これまでのロゼリアの努力によって知識量は半端ないけれど、発想力は前世のままだ。


 私は今、隣にいる幼馴染のラベンダー色の髪と瞳の引っ込み思案で私の言うことにはなぜかなんでも従ってくれる情けない性格のアダム・ヴァートンに相談し……もとい、無理矢理に事情を話して協力させたという経緯だ。


「この卒業記念パーティーにて、私はある決意を皆様に発表したく存じます。陛下にも許可は得ています」


 会場中がざわつく。


 私は先にお父様を通して陛下へと根回しをしていた。エリク様がこのようなことを企んでいるので、その前に私のこの余興を披露することをお許しくださいと。最初は半信半疑ではあったものの、そこはおバカ王子。あちこちに「こんなことをやるぜ」と言い触らしていたので、すぐに信じてもらえた。


「私はこの世界に『お笑い』という文化を発祥させ、広め、発展させることを宣言します。今から行うのは漫才、コンビ名は『悪役令嬢』。皆様は、新たな文化の目撃者となりましょう」


 そうして、私は手提げからラベンダー色の縦巻きロールなカツラを取り出し、アダムの頭にポンッと乗っけた。女の子のように可憐な顔をしているから、とてもよく似合う。背も私よりは多少高いとはいえ男の子としては低めだ。


 ――よし、彼のスイッチも入った。顔つきが変わったわね。


「はい、こんにちは〜。『悪役令嬢』です!」


 軽快に私が皆へと挨拶する。皆ドン引きしているけど、気にしない。

 

「待て待て待て、悪役令嬢ってまずなんですか! みんな何が起きたのかってポカンとしてますよ」


 アダムが突っ込む。


「え、あんた、コンビ名知らないの。よくそれで私の隣に立ってるわね」

「知ってますよ」

「知ってんのかーい!」

「ここはね、皆さんに教えるためにね。わざと知らないふりをしてと言いますかね。もうええですよ。私が説明します、まずは――」

「あー、そういう小難しい話いらない。難しい難しい」

「あんた、公爵令嬢やろが!」


 田舎の方言を混ぜて進行する。そこらの貴族も興味深くこちらを見ている。ま、あのロゼリア様がどうなっちゃってんのという興味が大きいかもしれないけど。


「私はね、公爵令嬢だけあって最近のトレンドには敏感なのよ」

「あ〜、なるほどね。トレンドを知ることで社交の話題にもなる、さすが公爵令嬢!」

「次に来るトレンドは婚約破棄! 間違いないわ!」

「婚約破棄!? それ流行っちゃうの!? 駄目でしょう、止めないと。公爵令嬢さん、止めてくださいよ」

「ふふん、駄目かどうかはまず婚約破棄の基本パターンについて聞いてからでお願いするわ」

「ほう、基本パターンがあるんですか。ま、聞きましょう聞きましょう」


 バカ王子とリリナがドキッとした顔をしているわね。でも……なぜかリリナは期待しているような面持ちだ。


「まず、王子様がいるわ」

「はいはい、大体イケメンだと決まっているキラキラした人ですね」

「仮にジャスタウェイ王国のジャスタウェイ様だとしましょう」

「お、目の前に本物の王子様がおりますからね。保身に走る、まさに公爵令嬢!」

「うるさいわ! そしてそのジャスタウェイ様、婚約者がいるのに浮気をします」

「全然キラキラしていませんね! ギラギラです」

「そこで、浮気相手と結ばれたい! 親の決めた相手と結婚したくない! そう思った王子様は――」

「はい、分かりますよ。好きな人と一緒にいたい! それはね、人間なので分かりますよ」

「婚約者を悪役に仕立てあげます」

「なんでや! 全然分からんわ!」


 学園でのエリク様とリリナのイチャイチャを知っている人たちが、チラチラと彼らを見ているわね。


「まず、婚約者を悪役にする小道具があります」

「ほうほう。何もないのに悪役にはできませんからね」

「はい、これが悪役令嬢に汚されたハンカチでございます」


 手提げ鞄から汚れたようにデザインしてもらったハンカチを取り出した。


「知らんわ! 自分で汚したんやろ!」

「そしてこれが、水をかけられたノートでございます」


 濡れて乾いたあとの、しわしわのノートを取り出した。

 

「自分で水をかけたんやろ!」

「歩いてたら足を引っかけられましたと証言があり」

「言うだけなら誰でもできるわ!」

「とまぁ、証拠がたくさん出揃い――」

「いや、全部自前で用意できるやろ。全然証拠ちゃうわ!」


 バカ王子の目が泳いでいる。もう持ってきた証拠の品は使えないわね?


「無事、学園卒業記念パーティーで婚約破棄を宣言します。あんたはイジワルな悪役令嬢や! 僕は浮気相手と幸せになるんやと!」

「あー、なるほどなるほど。悪役令嬢の意味は分かりましたよ。なんでそんなコンビ名にしたのかは分からないけど、意味は分かりました。知ってたけど分かりました」

「で、結果どうなったかというと――」

「あー、聞きたくない。気になるけど聞きたくないわー」

「婚約を勝手に破棄したうえに浮気。これでは貴族の支持も国民の支持も得られない、ときたらもう分かるわね。継承権の剥奪と王族からの除籍。平民として愛する浮気相手と暮らすことになり、めでたしめでたしと」


 バカ王子は顔色真っ青だけど、リリナはなにやらウンウンと頷いているわね。

 

「え……めでたしなんか?」

「めでたしでしょう」

「悪役令嬢はどうなったん?」

「そんなの決まってるわ」

「え、決まっとるんか?」

「突然現れたイケメンに求婚されるのよ」

「なんでや!」

「だから私は『悪役令嬢』として生きようと思うの」

「いや、いい話にしようとしてるけど『悪役令嬢』って私らのコンビ名やん? 悪役令嬢二人いるけど、突然現れるイケメンも二人なん?」

「は? 突然現れるイケメンはあんたでしょ」

「え、私?」

「だってあんたは――」


 頭に乗っかってるカツラを剥ぎ取る。


「男やろがい!」


 オチがついたところで、陛下が拍手をしてくれる。つられたように、貴族の皆も拍手してくれる。


「ありがとうございました〜」


 ……まぁ、前世でお笑いを目指していたわけではないから上手いわけではないけど……打ち合わせはすごく楽しかった。この世界にお笑いはないし、これからその文化を発生させるのだからまだ荒削りで問題ないだろう。


 アダムも照れくさそうに私を見て頷いてくれる。最初にその話をした時は、心配そうだった。


『僕にできるかな……でもやらないとロゼリアが婚約破棄されちゃうんだよね。う……ん、ロゼリアは破棄されるのが嫌なの? えっと、破棄されても僕なら……えっと……』 

『破棄されるくらいなら、こっちから破棄してやるのよ。とはいえ、陛下に話をつけて婚約解消かしらね。私たちの頑張りにかかっているわ』

『よかった。ああ……でもプレッシャーだなぁ』

『アダムも私があのバカ王子に嫁ぐのは可哀想だと思ってくれていたのね』

『え……あ、う……ん、そうだね。してほしくないなとは……』

『ありがとう。絶対に成功させるわよ!』 


 アダムも頑張ってくれて助かったわ。


「皆様、今ご覧いただいたお笑いを私たちは広め、極めたいと思っているのです。私たちの夢は大きく、陛下にも許可をいただきましたわ! まずは隣国デリカ王国でゼロからのスタートを切りたいと思っていますの。私とエリク様は今、この場で! 円満に婚約解消をいたします! よろしいですね、エリク様!」 

「あ、ああ……」


 呆気にとられたような顔をしながら、バカ王子が頷いた。最終的な望みはそれだものね。断る理由がないわよね。


 ――パチパチパチパチ。


 やや遅れた拍手が鳴り響く。


「やはり君たちのお笑い、漫才なるものは最高だな」


 ひっそりと後ろの方にいた隣国の第二王子が拍手をしながら前に出てきた。少し前からこの国に外遊に来ていて、陛下に紹介してもらった。彼の前でも漫才を披露して、隣国での生活の保証と舞台の手配まで約束してもらった。


 正直、こんな騒動のあとにこの国で活躍するのは、精神的にちと厳しい。渡りに船だ。


「観ていただき、光栄ですわ。フランシス殿下」

「ああ、最高だったよ」


 私の言葉にまた会場がざわつく。なかには「突然現れたイケメンに求婚!?」なんて声もある。私たちの漫才の印象は強烈だったってことね。


「君が僕の国に来てくれるのを首を長くして待っていよう」

「もう学園は卒業しましたし婚約も解消しました。すぐにでも参りますわ。ただ、私たちはコンビ。私だけでなく、私たちをお待ちくださいね」

「失礼。もちろんだとも。あまりに君が綺麗でついね」


 ちょっと軽薄そうなのが玉に瑕よね。


「あのっ」


 アダムが一歩前に出た。

 どうしたの? すごく震えているわよ?


「フランシス様はそのっ――」


 なんだか緊張がこちらにまで伝染してきたけど、何を言い出すの?


「ロゼリアのっ――」


 私の?


「そ、その……ロゼリアのこと、ど、どう思っているんですか?」


 男なのにぷるぷるしながら涙目で聞く様子が可憐だ。可憐すぎて内容が頭に入ってこない。私のこと? そんなの分かりきっているわよね?


「ふっ……、お笑いという文化を広めようとしている可愛いお嬢さんだな」


 そうよね?

 

「……っ、譲りませんから」


 え?


「あ、相方の座は、譲りませんから!」


 強く言ったあとにどよーんとしているわね。そう……そんなことを心配していたの。お笑いに理解があるだけで、フランシス様はやりたいわけじゃないと思うわよ? やさしいから、きっとフランシス様が相方になりたいのに自分が障害になると考えたのね。


 ほら、彼もクックと笑っているじゃない。でも嬉しいわ。そんなにお笑いにはまってくれたなんて。ほとんど無理矢理だったから罪悪感はあったのよね。


「心配いらないよ。そのつもりはない」

「は、はい……あの、打ち合わせにも時間かかるので、あんまりその……」

「大丈夫だ、デートに誘うのはたまににしておこう」

「!?」

 

 デートってまた軽薄な……。それより、打ち合わせにそんなに本気で取り組もうと思ってくれているなんて、やっぱりアダムに頼んでよかったわ。やる気がもりもりと湧いてきた!


「皆様! 私、お笑いでトップをとりますわ! 応援よろしくお願いします!」


 そんな文化はないから、オンリーワンで既にトップだけどね!


 諸々の手続きが終わったらすぐにこの国を出よう。そう思いながら、皆の拍手に心地よい開放感を感じた。


 まるで私の新しい人生へのファンファーレのようだ。


 ◆


「ロゼリア……もしかして、フランシス様が好きなの?」

「え、そりゃ好きに決まってるでしょう」


 なんでそんなにこの世の終わりのような顔をするのよ。


 今は隣国に向かう馬車の中だ。フランシス様が派遣してくれた護衛さんと一緒に、要人の宿泊用の施設のある場所や馬車の乗換所を点々としながら向かう。この馬車には二人だけだ。


「だって、こんなにまで色々と手配してくれているのよ」

「違うよ……えっと、結婚したいかって聞いてるんだよ」

「なんだ。婚約とか結婚とかはしばらくいいわ」


 というか、こんなイロモノの隣国の公爵令嬢なんて迷惑極まりないでしょう。

 

「で、でもフランシス様ってかっこいいよね」


 かっこよさなら、エリク様もプラチナブランドの髪に青い瞳の整った顔で負けず劣らずだったわよね。フランシス様は濃紺の髪と瞳でエリク様より落ち着いた雰囲気がある。実際に話すと軽薄だけど。


「かっこよさなんてどうでもいいわ。それより……本当に一緒についてきてもらってよかったの?」


 さすがに婚約解消のために付き合わせたけれど、気が変わって来なくても大丈夫だと伝えてはあった。これからの人生が大きく変わってしまう。フランシス様を介して新たな相方も見つけられないことはないかなと……できればアダムと一緒がよかったけど。


「そんなこと聞かないでよ。ショックだな。僕は弱っちくてさ、兄上ほど優秀でもないしずっと劣等感をもっていた。でも、ロゼリアと一緒にいる時だけ全部忘れられたんだ。めちゃくちゃだったからさ」


 私は転生者だ。木登りや虫とりに付き合わせたのは私になる前のロゼリア。でも、記憶はある。見つかっても、アダムのする遊びが面白そうだったからと言って逃げた。迷惑極まりない。アダムは穏やかに過ごすのが好きな子だったのに。


 でも、本気で嫌がっていたならロゼリアもやめただろう。すごく楽しかった。互いにたくさん笑い合って大切な時間だったという記憶がある。


「だから頼ってくれて嬉しかったんだ。やっと僕も恩を返せるって。それに……エリク様と結婚しないでくれるんだって」

「ま、あんなバカ王子の婚約者になっちゃったら心配するわよね」

「…………」


 なんでそんなに不満そうなのよ。


「でも、あなたの人生だし、恩だけで選ばないでよ」

「当然だよ。だって僕はその……君と、君と……!」

「私と?」

「どうしても……!」

「どうしても?」

「………………コンビでいたいんだ」

「やっぱり漫才が相当気に入ったのね」


 前世のお笑い番組を見せてあげたいわ……って、そこでどうしてどよーんとするのよ。


「ね、ロゼリアは僕のことどう思ってる?」


 なんで泣きそうな顔で聞くの。


「大切な幼馴染よ。側にいてくれると心強い大事な人」

「……ロゼリアは綺麗だ。いつも前向きで明るくて頭もよくて、それにいざって時にはすごく気品がある」


 ……それも、転生前の彼女だ。今も前の彼女と同様、いざという時には気品があるように見せかけているだけだし、いずれ王妃になるからと知識も詰め込まれただけだ。綺麗かどうかは……転生前の私よりかは綺麗ね。でも、薄紫の髪と瞳でパッとしないとはロゼリアがいつも思っていた影響で私までそう感じてしまう。


 それに、アダムが綺麗すぎるのよ。


「君の横に並ぶ自信がないんだ」

「大丈夫よ、今日のあなたも堂々としていた。演じている時のあなたは別人よ。むしろコンビとして釣り合いがとれていないのは私の方よ。令嬢らしいのはむしろあなたよ」

「…………」


 どうして目が死んだように……。


「君のね、僕への印象は分かってた、分かってたよ……」

「ど、どうしたの……?」

「もういい。あのね、これから文化をつくっていくのなら、生半可な覚悟じゃ駄目だと思うんだ」

「え、ええ……」


 どうしたの?

 こんなにやる気を見せるアダムなんて……おかしいわね、さっきまで死んだ魚のような目をしていたわよ?


「フランシス様とデートをする時間があるのなら、ネタを考えるべきだ! 自由になる時間を他に費やすなんてもってのほかだ!」

「…………」

「考えることはたくさんある。最初に観客の心を掴むためのネタ、飽きさせないテンポ、なるほどと思わず納得してしまうネタに、そんな馬鹿なと笑わせるネタ、その配分。自由な時間は僕とネタや進行について考えることに使うべきなんだ!」

「そ……そうね……」


 こんなに漫才にやる気を持っているなんてと言いたいところだけど……そこまでフランシス様にこだわるなんて……もしかして? いや……もしかして?


 あまりに可愛い顔をしているから気づかなかったけど……。


「僕はカツラまでかぶるんだよ? 女の子という印象になっちゃうじゃないか。たぶん一生結婚とかできないよ。ロゼリアだけ自由に楽しむなんて、ずるいんだからね!」


 言ってることは威勢がいいものの、泣きそうだ。罪悪感に苛まれながら話してるような……よしよししたくなってきた。


 私になる前のロゼリアと結ばれてほしかったな。別人の私となんて……ね。でも、他の誰にもこんなに可愛い子をあげたくないのも事実。


「確かに、私のせいで結婚できなかったら可哀想ね」

「う……いや、そこは責任を感じなくてもいいんだけど……」

「この道に誘った責任をとって、そうね……結婚適齢期を過ぎてもあなたに素敵な女の子が現れなければ、私が結婚してあげるわ」

「!?」


 それまで五年以上はある。私になってしまったロゼリアを好きでい続けてくれるのなら――。


「あ、あとで……念書にして……」


 これ、結構執着してない? 今まで私の言うことを拒否したことがないのってそのせい? そういえば男なのに女のカツラをかぶること自体、普通は相当抵抗があるわよね。全部、私を好きだったからか。


 それならもう少し口説くなりなんなりとかあってもよかったんじゃない? 既に私への口説き文句の回数はフランシス様のが上よ?


 ……女の子のような見た目というのも、コンプレックスだったのかな。

  

「わかったわよ」

「僕、頑張るよ。完璧な『悪役令嬢』になる。女の子にしか見えなくて、他の誰とも結婚できないような『悪役令嬢』らしい僕になるよ」

「そ、そう……」


 しばらくは、このままでいよう。

 でも――。


「出会いくらい考えてあげるわ。どんな女の子が好きなの?」


 あ、しまった。ショックを受けた顔になっちゃったわ。それはそうか。好きな女の子に出会いを推奨されるのはキツイか。好みの女の子のタイプが知りたくて考えなかった。具体的には私のどこが好きなのかをもう少し知りたい。


「……悪役令嬢かな」


 ネタに逃げたわね。


「そう。婚約破棄されて突然現れたイケメンに求婚される人ってことね」

「……フランシス様に求婚されたら、どうするの?」


 不安そう。

 

 気づかせようとしているのか。

 自信がないだけなのか。


「その前に、違うイケメンに求婚されるかもしれないじゃない」

「……ロゼリア、綺麗だしね……」

「あんたは男やろがいってね!」

「!?!?!?」


 さっきの漫才のオチだ。突然現れるイケメンの男はあんたでしょと暗に匂わせてみる。


 もう少し時間はほしい。ロゼリアでなかった私がまだ彼の気持ちに応じてはいけない気がする。……でも、こんなに可愛い男の子に求婚されちゃったら、断れるわけがない。


 いつか、そんな日が来たらいいなと思う。


 ――このあと、もっともマシなエンドを選ぶしかないと諦めていた私に希望を与えてくれましたと、自分も転生者だと言うリリナまで弟子入り志願してきたり、フランシス様が茶々を入れきたりで色々と面倒くさくなり――私たちの婚姻が早まるのは、もう少し先の話だ。


〈完〉

 

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