用務員

僕が通された部屋は用務員室というより資料室といった感じだった。中にはロッカーが二つとパイプ椅子が端に追いやられ密接していた。

「部屋がないからって言って用務員の部屋を資料室におくなよな」

杉という男は小さく舌打ちをした。

「まぁ狭いけど適当なとこ座ってくれや。」

そういって二つあるうちの一つのパイプ椅子をすすめてきた。扇風機などあるわけがなく、ただ額から吹き出る汗をハンドタオルで拭うしかなかった。家に帰って冷たいビールを流し込みたい。そう考えるのは今日で二回目だ。パイプ椅子に腰を下ろしてしばらくすると、杉が五年前の卒業アルバムを持ってきた。

「ほんとうは用務員の俺が触っていいものじゃないが、こんな狭い部屋に押し込まれた腹いせだ」

そういうと、銀歯だらけの歯を見せてにやっと笑った。

「あぁ、そうですか、、。ところで、何故卒業アルバムなんかを」

「そんなの決まってるだろ。ここにあんたが探している少女がいるからだ」

当たり前の事を聞くなというような、少し強い口調で杉は答えた。そう言うと杉は3年4組の個人写真のページを広げた。

「ほら。この子だ。」

そういうとこ杉は一人の少女を指さした。美しい少女だった。しっかり通った鼻筋。焦げ茶色の瞳。綺麗な二重幅。Mの形をした薄い唇。そして、美しく長い黒髪がツヤツヤとした光沢を帯びていた。中学生にしては大人びている。大人びすぎてる。そんな少女だった。

「この子は、、」

僕は咄嗟に口を抑えた。そうだ。この少女こそが2年前に出会った少女なのだ。

「殺されたんだよ。ちょうど卒業式の前日だった。」

貧乏揺すりをしながら無愛想に杉がそう答えた。

「殺された、?しかし、そんな記事はどこにも、、」

中学生が殺害されたとなれば、新聞や地方ニュースに載ることは確実だろう。僕は職業柄そういったものを毎日確認していたため、見落としたとは考えずらかった。

「誰かがもみ消したんだよ。」

杉はそう言って鼻を鳴らした。

「もみ消した?誰がそんなことを、、」

「知られたらまずかったんだろ。中学校に名前にも傷がつくしな。」

そう言うと杉は、立ち上がり僕の方に背を向けた。

「では、何故貴方が彼女が死んだと断定できるのですか?」

彼はこの中学校の一用務員。自身の勤務地で殺人事件が起こったことくらいは知っているだろうが誰が被害にあったとまで把握しているのは少々腑に落ちない。

「、、、その子はいじめられてたんだよ。」

数秒の沈黙ののちおもむろに杉が口を開いた。僕の方に背を向けたまま。

「いじめ、、?しかし、だからといって貴方と関係があるとは考えにくいのですが?

にくいのですが?」

『いじめ』というワードに少々驚きつつも僕は質問を投げかけた。

「あんた、何もわかっちゃいねぇな。あんたの仕事記事を書くことなんだろ?もっと察しを良くしなきゃ駄目だな。」

ため息をつきながらこちらを振り返ってきた。腕を組みながら初対面の人間に傲慢な態度をとるあんたに言われたくないと腹が立ったが、ここで怒っても仕方がないと、ここは我慢することにした。

「すみません。職業柄こういったことはしっかり記事に書きたいので、詳しくお聞かせ願いますか?」

渾身の営業スマイルを向け。穏やかな口調でそう問いかけた。

「そうか?まぁいい。教えてやるよ。」

先ほどの様子とは打って変わって、口調も穏やかになり、口元も緩んでいた。僕の事を下にみているのだろう。そう思い腹が立ったが、今は少女の事が先だ。僕は鞄の中から使い古した万年筆とつい三日前に買い替えた黒い手帳を取り出した。

杉は軋むパイプ椅子に腰を下ろし、足を組みながら口を開いた。

「そうだなぁ、どこから話そうか。まず、俺とその子が初めて出会ったのは夏休み明けてしばらくたった頃だったかなぁ」

天井を見ながら杉は語り始めた。先ほどの蒸されるような暑さは気にならなかった。今はただ、その少女のことが切実に知りたかった。そう思い杉の話に耳を傾けた。




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写真の中の少女 かにみを @kanedashi

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