第9話 もう1人の家族と事件の陰

数週間後、健一と山田は探偵業を続けながら、互いに支え合い成長していた。ある晴れた日の午後、健一の事務所に一通の手紙が届く。それは、長年音信不通だった母親からのもので、封を開ける手が震えた。


「これをどうするつもりなんだ?」

山田は興味深げに尋ねる。


健一は手紙をじっと見つめた。文面には、母が過去の出来事に触れ、再会を希望する思いが綴られていた。

「正直、まだ心の整理がついていない。彼女と会うことが本当に正しいのか分からない。」


「でも、過去を受け入れることで新たな道が開けるかもしれませんよ。会ってみる価値はあると思います。」

山田は真剣な眼差しで言った。


その夜、健一は自分の人生を振り返りながら、母との再会を考えた。過去の影がどれほど自分の人生に影響を与えているのか、そして今、どのように前に進むべきかを深く考えた。


健一は、母との別れの記憶を思い出した。子供のころ、彼女がどれほど愛情深かったか、またその後の疎外感と孤独感。彼は小さな頃、母に愛されていた記憶が薄れてしまっていた。しかし、彼女が自分を捨てたという事実は、心の奥に深く刻まれていた。


数日後、健一は決心し、母親に会うことにした。指定されたカフェでの再会は、緊張と期待が入り混じる瞬間だった。カフェに着くと、健一の心臓は早鐘のように打っていた。彼は一度深呼吸をし、扉を押し開けた。


カフェの中は、柔らかな光に包まれた温かい雰囲気だった。人々の笑い声やコーヒーを淹れる音が心地よく響いている。母親を見つけると、彼女は少し震えながらも微笑み、「健一、会えて嬉しい。」と返した。


その瞬間、健一は過去の思いがけない波に襲われた。彼女の笑顔の裏には、どれほどの葛藤と苦悩があったのか、そして自分の心の奥底にある未練が溢れ出しそうになった。


二人はカフェの隅のテーブルに着き、少しずつ言葉を交わし始めた。最初はお互いに気を使いながらも、徐々に過去の誤解や傷を乗り越えるための会話が始まった。母は、自分の選択がどれほど子供に影響を与えたかを反省している様子だった。


「私があなたを捨てたのは、自分の弱さからでした。あなたを傷つけるつもりはなかった。」彼女の涙が頬を伝い、健一の心に重く響いた。


その言葉を受け止めながら、健一は母の苦しみを理解することができた。

「母さん、私も色々な思いを抱えてきた。あなたの選択がどれほど私を傷つけたかは分かっている。でも、私ももう大人になった。今の私にできることは、過去を受け入れて前に進むこと。」


母は驚いた表情で彼を見つめた。

「あなたがそんな風に思ってくれるなんて、想像もしていなかった。本当にごめんなさい。」


「謝らないで。私たちの間には、時間が必要だったんだ。」健一は優しく微笑んだ。「お母さん、私たちが再び関係を築いていくために、どんなことをしていけばいいのか、一緒に考えませんか?」


会話は徐々に和らぎ、彼らは互いの人生について語り合うことができた。母は、自分の選択がどのように彼女の人生を形作ったのかを話し、健一は自分がどのように過ごしてきたのかを語った。


「私も、自分の人生でたくさんの間違いを犯してきた。でも、あなたと再会できたことで、少しずつでも良い方向に進んでいきたいと思えるようになった。」健一は真剣な表情で言った。


母は彼の言葉に涙を流しながら頷いた。「私も、あなたと一緒に歩んでいきたい。どうか、もう一度チャンスをください。」


その瞬間、健一は心の奥底に温かい感情が広がるのを感じた。過去の影が少しずつ薄れていき、未来への希望が芽生えてきた。


再会を果たした二人は、これからの関係を築くための第一歩を踏み出した。過去の傷を抱えつつも、新しい出発を信じ、少しずつ歩んでいくことを決意した。

会話が終わる頃、カフェの外は夕暮れに染まり、健一は心の中に明るい光を感じていた。母との再会が、過去を乗り越えるきっかけになることを信じ、未来への道を歩んでいくのだった。

数週間後、健一と山田は探偵業を続けながらも、母との関係が少しずつ深まっていた。健一は母親と時折連絡を取り合い、共に過ごす時間を大切にしていた。しかし、過去の影は完全には消え去らず、彼の心の奥底には、解決されていないいくつかの問題が残っていた。

「手伝いに来ました〜」直樹が来た。すっかり直樹とは仲が良くなり今では2人目のとなっていた。


そんなある日、健一の事務所に新しい依頼が舞い込む。依頼者は若い女性で、彼女の兄が失踪したというのだ。彼女は兄の友人たちに話を聞いても、手がかりが掴めないと困っていた。


「失踪?これは調査しないといけないな。」健一は直樹に向かって言った。「君の意見も聞かせてくれ。」


直樹はうなずき、「行動を起こす前に、まずその兄の周囲の人を調べてみるべきですね。彼がどんな人だったのか、何があったのかを知ることが大事です。」


二人は依頼者から話を聞いた後、失踪した兄の友人たちに接触を試みた。友人たちの証言を集める中で、兄が最近、特定の女性と親しくしていたことが分かった。その女性の名前は「美咲」で、どうやら彼女が兄に何かしらの影響を与えていたらしい。


「美咲さんに会って、詳しく話を聞く必要がありそうだ。」健一は決意を固めた。


次の日、二人は美咲の居所を探り当て、彼女のアパートに向かった。インターホンを鳴らすと、美咲は少し驚いた表情でドアを開けた。


「何か御用ですか?」彼女は警戒心を隠しきれない様子だった。


健一は自己紹介し、失踪した兄について尋ねた。「あなたの名前を聞きました。彼のことについて何か知っていることがあれば教えてほしい。」


美咲はしばらく沈黙し、思案顔になった後、

「彼は最近、変わってしまった。以前は明るくて優しい人だったのに、何かに悩んでいるように見えた。私も彼に何があったのか聞いてみたけど、彼はあまり話したがらなかった。」と語り始めた。


「具体的に何が彼を悩ませていたのか、心当たりはありますか?」健一はさらに踏み込んで聞いた。


「多分、仕事のこととか、将来のことが不安だったんだと思います。彼はいつもプレッシャーを感じていたみたい。」美咲は言葉を選びながら続けた。

「それに、最近は誰かと連絡を取っている様子があって、その人が影響を与えているのかも。」


健一は興味を引かれた。

「その人のことを知っていますか?」


美咲は首を振った。

「いえ、名前も分からないし、顔も知らない。でも、何か変わった気がする。」


調査を進める中で、健一と直樹は兄が最近付き合っていた友人たちと連絡を取り、兄の周囲にいた人々の証言を集めることにした。兄が悩んでいたことは、友人たちの証言からも確認できた。仕事のプレッシャーに加え、特定の人間関係に悩んでいたようだ。


数日後、健一はその人物に関する情報を突き止めた。それは、兄が仕事でのライバル関係にあった「長瀬」という男だった。彼は兄の上司と親しかったが、兄のキャリアを妨害しようとしていたとの噂が立っていた。


「これが彼の失踪に何か関係しているのかもしれない。」健一は思った。


彼らは長瀬に接触しようと決め、オフィスに乗り込んだ。長瀬は出入りの多いビジネスマンで、会うことは簡単ではなかったが、彼のスケジュールを調べて、接触のチャンスを待った。


そして、ついにチャンスが訪れる。長瀬が同僚と一緒に外に出てくるところを見つけ、健一は勇気を振り絞って声をかけた。「長瀬さん、少しお話があるのですが。」


長瀬は振り返り、冷ややかな表情を浮かべた。「何の用だ?」


「あなたの友人である兄が失踪した件についてお話したいんです。彼が最近悩んでいたことに、あなたが関係しているのではないかと考えています。」健一は真剣な目で訴えた。


長瀬の表情は一瞬硬くなったが、すぐに冷笑に変わった。

「俺が何か関係していると思っているのか?お前はバカじゃないのか。」


健一は気持ちを抑え、冷静に続けた。

「彼が抱えていたプレッシャーや問題について、あなたが少しでも知っていることがあれば教えてください。」


長瀬はしばらく黙り込んだ後、

「知らないね。彼のことなんてどうでもいい。俺には関係ない。」と無関心を装った。


その言葉に、健一は嫌な予感がした。直樹も隣で冷静に様子を見ていた。

「あなたが本当に関係ないのなら、なぜ彼が悩んでいるのを知っているのですか?彼が不安を抱えていたことを知っていたのであれば、少しでも助けようとするのが普通ではありませんか?」


長瀬は一瞬、動揺した表情を見せたが、すぐに平静を装った。「俺には関係ない。彼がどうなろうが、俺には何の得にもならない。」


その瞬間、健一の直感が働いた。何か隠している。この男には何かある。兄の失踪に関する真実を突き止めなければならない、と。

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追憶の探偵〜失われた真実〜 現役学生@アストラル @iwanamisubal

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