第8話 次の案件

ある日の午後、健一は事務所で新しい依頼が舞い込むのを待っていた。直樹との関係も順調で、探偵業にも自信がついてきた矢先だった。その時、電話が鳴った。


「真田法律相談事務所です。」健一は受話器を取り上げた。


「私、佐藤と言います。事件について相談したいことがあるのですが…」


声のトーンには不安がにじんでいた。詳細を聞くと、佐藤は最近、彼女の兄が不審な死を遂げたことに疑念を抱いているという。彼女は、警察の捜査が進む中で兄の死が自殺として片付けられようとしていることに納得がいかず、真相を知りたいと切実に訴えた。


「詳しいお話をお聞きするためにお伺いします。」健一は即答した。心の中には直樹との経験が生きており、他者を助ける意義を強く感じていた。


数日後、健一は佐藤と会うために指定された喫茶店に向かった。彼女は落ち着かない様子で、健一を待っていた。彼女の兄、健太は会社員で、同僚からも信頼されていた人物だった。しかし、ある日突然、彼の死が報告された。


「兄は、自殺するような人じゃなかったんです…」佐藤は涙を浮かべながら言った。「死の前に、彼から変わった様子はありませんでした。何かが隠されていると思うんです。」


健一は彼女の言葉に真剣に耳を傾け、

「まずは兄さんの死について詳しく教えてください。」と促した。


佐藤は、健太の最後のメッセージについて話し始めた。

「死の数日前、彼が何かに悩んでいるようなことを言っていました。でも具体的には教えてくれなかった…最後のメールには『助けてほしい』とだけ書いてあったんです。」


その言葉を聞いた健一は、事件の背後に何か重大な秘密が潜んでいる予感を覚えた。「それは重要な手がかりですね。何か他に思い出せることはありませんか?」


佐藤は思い悩むように考え込み、

「彼が最近、仕事で関わっていたプロジェクトがあったはずです。そのプロジェクトには大きな秘密があると言われていました…」


健一はその情報に強く反応した。

「そのプロジェクトについて調べてみましょう。兄さんの死がこのプロジェクトに関連しているかもしれません。」


その後、健一は佐藤からの情報を元に、健太が働いていた会社にコンタクトを取った。彼は同僚や上司と話をし、健太の最期の仕事に関する詳細を探り始めた。周囲の人々からの話を集めていくうちに、健太がプロジェクトに関与していたことは明らかになった。しかし、彼が取り組んでいた内容は、どうやら企業秘密にあたるようで、話を聞こうとすると皆口をつぐんだ。


ある晩、健一は事務所で調べ物をしていると、突然直樹からの電話がかかってきた。「真田さん、どうしたんですか?何か進展があったの?」


「実は、新しい依頼が来て、依頼人が関わっていたプロジェクトに何かありそうなんだ。だけど、詳細が掴めない。もし良ければ、君の手伝いをお願いできるか?」


直樹は快く引き受けた。「もちろんです。僕も手伝いたいですから。」


二人は翌日、健太が勤務していた会社に再び足を運んだ。直樹は情報を集めるためのアイデアを提案した。

「社員の中には、健太の同僚で何か知っている人がいるかもしれません。一緒に話を聞いてみませんか?」


健一は頷き、直樹と共に健太の旧友にコンタクトを取った。友人の名前は山崎と言い、彼は健太の親友で、二人は以前から非常に仲が良かった。


山崎は、健一たちの訪問に驚いた様子だったが、彼らの真剣な態度に心を動かされ、話を聞いてくれることになった。

「健太は本当に優秀だった。最近、彼が何かに悩んでいたのは感じていたけど…何か大きな問題があるとは思っていなかった。」


「どんなことを悩んでいたと思いますか?」健一はさらに尋ねた。


山崎は少し考え込み、

「実は、プロジェクトの内容に関して、何か不正があることを気にしていた様子だった。彼が仕事のストレスを抱えていたのは、そのせいかもしれない。」と話し始めた。


「不正ですか?」健一は驚いた。

「その件について具体的に何か知っていますか?」


「直接的な証拠はないけれど、彼は『このプロジェクトには何か裏がある』と言っていました。彼がそれを掴もうとしていたのかもしれない…」


健一はこの話が非常に重要であることを感じ取った。健太が何かを知り、そしてそれが命に関わる事態に発展した可能性がある。健一と直樹は、より深く調査を進める必要があると感じた。


「ありがとうございます、山崎さん。あなたの情報はとても助かりました。」健一は礼を言った。


その後、健一は佐藤に新たな情報を伝え、彼女と一緒に健太の死の背後にある真実を掴むための計画を立てた。健太が直面していた問題や、そのプロジェクトの詳細を明らかにするため、彼らはさらに調査を続けることにした。


数週間後、健一たちは事件の核心に迫る手がかりを見つけた。そのプロジェクトは、表向きは新しい技術の開発を謳っていたが、裏では不正が隠されていたことが分かった。そして、その情報を掴もうとしていた健太が命を落とした理由が浮かび上がってきた。


最終的に、健一は佐藤と共に警察に情報を提供し、調査が進む中で、健太の死は自殺ではなく、他者の関与によるものであると立証することができた。事件の背後にあった真実が明らかになったことで、健太の死は無駄ではなかった。


事件が解決し、佐藤は安堵の表情を浮かべた。「本当にありがとうございます、真田さん。兄の死の真実を知ることができて、少しでも心が軽くなりました。」


健一はその姿に心が温かくなるのを感じた。「佐藤さんが兄を思う気持ちが、真実を掴む手助けになったんだ。これからも前に進んでいきましょう。」


直樹もその様子を見守りながら、自分の成長を感じていた。探偵としての活動が、他者の人生に変化をもたらすことができると信じられるようになったからだ。


健一は、直樹との出会いによって自らの過去を乗り越える力を得た。そして、この事件を通じて、彼は新たな人生の章を描く準備が整ったのだった。


こうして、健一と直樹はそれぞれの道を歩みながらも、共に成長していくことを決意した。過去を乗り越え、未来を見つめる彼らの心には、希望が灯り続けていた。

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