日本の皆さん、お疲れ様です。
平葉与雨
未知
「ウソボ。ウムニニアイルクアチサミシ」
「エアモアハアカバアカ」
「エザナウセデ」
「ウチオコアハニズテベアダ」
僕の目の前には明らかにこの世のものではない物体がふたつ。
人間のように見えなくはない。だが、四肢の長さや頭の大きさは完全に異星人のそれだ。服を着ていないのは、性別という概念がないからかもしれない。
僕はいま嫌な夢でも見ているのだろうか。
そう思ったが、感覚がある時点で現実であると認めなければならない。
両手両足は見たこともない物質で縛られて身動きが取れない。
口はなぜか開けられない。タコみたいに突き出してみると——特に何もない。得体の知れない力が働いているのだろうか。
僕がこうして普通でいられるのは、あまりにも現実離れした空間にいるからだと思う。目の前にいる存在が極悪人であったほうがよっぽど怖い。
外が見えるわけではないが、ここはずっと少しだけ揺れている。おそらくUFOにでも乗せられているのだろう。
息はできるから酸素はある。わざわざ僕のために用意したのか、はたまた自分たちも必要なのか、それはわからない。
ひとつわかることとすれば、僕はまちがいなく連れ去られたということだ。
「イザノオアカオユセデ」
「オアカエカダアダ。イマカナアハウアギチ」
「オドフラナ、ネサミムス。ウチオコアクサミスオド」
「アナヅオソ……」
さっきから何か話している。口も動いているし、言葉も聞こえる。ただ、何を言っているのかがまったくわからない。日本語でもないし英語でもない。他の言語はよくわからないが、宇宙ではあたりまえの言語なのかもしれない。
「ウオイチアマタオヲアクリミ」
「アチサミラカワ」
てっきりテレパシーでやりとりするものだと思っていたから意外だった。だがそんな固定観念が消えたからといって、特に何も得るものはない。
僕が無事に帰ることができるなら、そして今の状況を忘れずにいることができるなら、人類にとってかなり有益な情報となるかもしれない。
たまたま拉致されたのだから、人類のためにどうにかしたいなんて気持ちはみじんもないけど。
「イミミイニエロコオヲオレリ」
「イアハ」
な、なんだ?
耳に何かを入れられた気がしたんだが……。
まさか、イジられるのか……?
「オモソモソエザナイルオソアガウオユチヒウセドナナ」
「アクオソアチエテルサウィイ。イルオソアハエラウェラワオノウオヨゴニニルタヤアダ」
「オドフラナ、アサネキキエテアクセデ」
「アヅオソ」
「……」
「……」
あれ……?
急に何も聞こえなくなったぞ。
いや、待て。そもそも意識も……。
*
「はっ、いつのまにか寝落ちしてた」
でもなんだろこの感じ。
今まででいちばん目覚めがいいな。
なんか頭も軽い気がする……。
「やべっ、もうこんな時間!? 終電ギリギリじゃん!」
やばいと思いつつ、顔は笑っているような気がした。
僕も社畜の仲間入りか。
日本の皆さん、お疲れ様です。 平葉与雨 @hiraba_you
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