再会の日が訪れた
第15話
小春日和の今日、縁側に一人腰を掛け空を眺めていると、唐突に突風がわたしの髪を掻き乱した。
「おう」
そう言って、突然に現れた者は、大きなライオンのようなたてがみで、真っ白い毛並みの、天使の羽を思わす翼を羽ばたかせ降り立った。
驚いたが、なんでもないように振舞って澄まして言った。
「久しぶりね。クリスター」
地面に着いたと同時に変化で人間の姿に変わると、なにも言わずにわたしを抱きしめた。
わたしは今までの半生を思い浮かべていた。
クリスターに心を読ませるように。わたしの生きてきた時間を共有するために。
人間界でわたしは地球環境について勉強した。
地球温暖化に海洋汚染、水質汚染に大気汚染、森林汚染など人間は地球を壊しながら生きている。
良くないことだとわかっていても、快適な環境を手放すこが出来ずにいる。
わたしは少しだけ環境のために活動することにした。
わたしの行動など、地球からすれば微々たるものだと思うのだが、それでも、少しでもクリスターやブラクリーのためになったらいいと思い、森に木を植える活動や、浜辺のゴミ拾いに参加したりと、休日はそんな活動で充実していた。
仕事は父の事務所を継いで、タレント育成も兼ねた事務所へと進化していた。自社のビルはCO2排出0の電気を使い、自家発電も備えていて環境に特化した活動もしている。
結婚もせず、子供もいないわたしは後継者を育て、今は事務所の最上階を自宅として住んでいる。
今日は父の十七回忌のため、実家に帰って来ていた。
「間に合った」
この日が別れてから初めての再会だった。
もう、白髪が出てきて、そろそろ白髪染めなんかもしなくてはいけないわ。なんて思っていた頃、思いもよらない再会に気づけば涙が頬を伝っていた。
あの世に行くまで会えないと思っていたから、自分はあと半分くらいか? などと父が亡くなった時にも思っていた。
「なに、泣いてるんだ!? 痛かったか」
涙を目にして慌ててクリスターはわたしを抱きしめていた腕を離した。
「なんでそうなるのよ」
「違うのか?」
「驚かすから」
「驚いたら泣くのか?」
「もう、なんだっていいでしょ」
そう言うと、クリスターはもう一度わたしを抱きしめた。
若いままのクリスターと違って、わたしはもう、おばさんになってしまったからつり合わないわね。
「そんなこと気にしてるのか」
また、身体を離してわたしの肩に手を置き、顔を覗き込むと、クリスターは呆れてそう言った。
「だって、可笑しいじゃない」
彼の顔は全然変わってない。仕方がないことだけど、自分だけ歳をとってしまって、あの頃のように初々しさもなくなって、すっかり老け込んでしまっている。
「そんなの関係ねぇよ。お前はお前だろ」
「でも、なんだか恥ずかしいわ」
おばさんに若い男が抱きしめるとか、なんだか介護されてるみたいじゃない。
「なら、これでどうだ」
クリスターがそう言って頭にキスをすると、白髪混じりの髪の毛が若かった時のように赤毛へと変わった。
「えっ?」
「想像しろ。お前のなりたい姿を」
わたしのなりたい姿は……
クリスターと出会った頃の姿。あの頃のようにクリスターとつり合う若さを想像した。
すると、わたしの肌はシワが消え、ハリのある弾力が蘇った。
「どうして?」
「もう、時間に縛られることはない」
そっか。お迎えだったのね。
「契約が解除された。驚いてきてみたら、後ろ見てみ」
縁側に腰掛け息を引き取っていたわたしは、身体を支えることが出来ず縁側に身体を伏せていた。寝ているように穏やかな顔で。
「お前はこのままだと天国に行ってしまう。魔界には来れない。相当、徳を積んだからな」
「あんた達のために頑張ったのよ」
その結果、クリスターの所には行けないのか。皮肉なものね。これで本当に最後の別れなのね。
心が痛む。せっかくの再会なのに悲しみでいっぱいだ。
「卯乃香、俺と一緒に来て欲しい」
「えっ?」
「今ならまだ間に合う。このまま俺と魔界に来てくれ。これからはずっと一緒にいてやれる」
わたしは考える間もなく頷いた。
当然だ。そう願ってた。わたしがこの世を去る時は必ず魔界に行くのだと。
縁側に、後継者にした息子が、倒れているわたしに気づき声を掛けている。
反応がなく、息をしていないことに驚き、周りの者を呼んでいる。人が集まって来て、慌てる皆を眺めていると、
「さあ、行くそ」
変化を解いたクリスターは、わたしを咥えると背中に放り投げた。
騒々しくなったこの世の世界を、後ろ髪引かれながらも、クリスターは待ってはくれず、バサッと翼を羽ばたかせ宙へと浮くと、勢いよく空へと舞い上がった。
さよなら、みんな。後はよろしくね。
また、いつか。
完
クリスタルピアス AYANO @AYANO10311
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