第49話 皇帝陛下の恋人②【第一部・完結】

「だから二回目の時からかなり優しくしただろっ。お前も気持ちよさそうだった!」

「な、なんてこと言うんですか!」


 私は慌てて陛下の腕を掴みます。

 大きな声で話す内容ではありません。

 でも胸が甘くむずむずします。だってあなた、私のこと好きすぎじゃないですか!


「……それなら、私のことを考えている時に口に出してくだされば良かったのに。そしたらすぐわかりました」

「それは出来ない」

「どうしてですか」

「…………かっこわるいだろ。そんな、デレデレした溺愛みたいなのは。俺はかっこいい皇帝でありたいんだ。帝国民が誇れるような、そんな皇帝だ」

「陛下……」


 陛下の父親である先代皇帝はあまり優れた皇帝ではなかったと聞きました。その時代を知っているから陛下は帝国民のためのかっこいい皇帝になろうとしているのですね。

 でもね、私にデレデレで、私を溺愛する陛下…………。

 ……うん、好きかもしれません。


「陛下」

「なんだ」

「私は好きなんですけど」

「なにがだ」

「その、……私にデレデレで、私を溺愛する陛下が」

「デレデレはかっこわるいだろ」

「陛下はなにをしていてもかっこいいですよ。初めて出会った時から思っています。今も私を恋人だとおっしゃってくれた陛下はかっこよかったです」

「っ!?」


 陛下が目を見開いて私を見つめます。


「……本当か?」

「本当です。陛下よりかっこいい御方おかたを私は知りません」

「俺こそ、お前より美しい人間を知らない。いつも思っていた。そんなに綺麗で大丈夫なのかと」

「ふふふ、なんですかそれ」

「本気だ。お前は誰よりも美しい」

「陛下こそ素敵です。いつも思っていますよ」

「それは気分がいいな」


 嬉しそうな陛下に私は目を細めました。

 目が合うと、なんだかおかしくなって互いに笑いあう。

 こうして二人で笑いあっていると、乗馬訓練を終えたエヴァンがこちらに走ってきます。


「マリス~! おわったぞー!」

「エヴァン、お疲れさまでした」


 東屋に入ってきたエヴァンが私の足に抱きつきました。

 そして隣にいる陛下を見上げます。


「兄上もこちらにいらしてたんですね」

「ああ、俺も見学にな」

「ふ~ん……」


 エヴァンが私と陛下を交互に見ます。

 少し拗ねた顔になると私の腕をぎゅっと掴みました。


「マリス、こい! ぼくの馬をちかくで見せてやる!」

「ありがとうございます」


 私はエヴァンに引っ張られて東屋をでます。

 その時に陛下が「……あいつ、わざとだな」とエヴァンに目を据わらせましたが、いったいどうしたのでしょうか。

 でもせっかくなので陛下も一緒に来てほしいです。


「陛下もご一緒にどうぞ。一緒に見ましょう」


 そう呼びかけると陛下が笑いだしました。

 そして私の隣に来てくれて、エヴァンに掴まれているのとは逆の手を握られます。


「マリス、愛してるぞ。お前が語る転生や前世のことはよくわからんが、今ここにいるのは俺が愛するマリスだ。俺にとってはそれがすべてだ」

「陛下、私もです……」


 ぎゅっと手を握り返しました。

 互いに交わす温もりに胸が甘く満たされます。


 不思議ですね。前世の記憶を取り戻してからずっと心がじくじくしていたんです。前世の記憶に傷ついて、少しでも自分を救いたくてあがいていました。そのために私は転生したのだと思っていました。


 でもね、今ならわかります。


「陛下」

「なんだ」

「ありがとうございます。これからもずっとお慕いしています」

「俺もだ。出会った時から、今も、これからも愛している」


 そう、私はこのために転生したのだと。



 こうして私は皇帝陛下の恋人になりました。

 喜びのあまり陛下と私は浮かれてしまい、ちょっとしたバカっぷるのようになってしまいました……。

 そのことを宰相のグレゴワールに叱られたり、エヴァンがプンプン怒りだしたりすることもありますが、それでも溺愛の幸せな日々をすごすのでした。




終わり




最後まで読んでくださってありがとうございました!

マリスのシリアス恋愛と陛下のラブコメ恋愛のロマンスです。最後はどう見てもバカっぷるみたいになっていく二人です。浮かれる二人にグレゴワールが苦労します。

そんな浮かれる二人は、また番外編で書ければと思います。


感想やブクマやエールやハートをほんとうに感謝です。

応援が心に染みます。ありがとうございます!


今後、とりあえず番外編で書きたいネタがあるので、それをこの続きから書こうと思います。

陛下が美しいだの綺麗だの言いすぎて、マリスが「陛下は私の顔が好きなのでは?」と疑いを持つ話です。


マリス「私が美しいから陛下は愛してくださるのですね! 私が美しいばっかりに……!(涙)」←シリアスの切なさ

陛下「真実はときに残酷だ。俺はマリスを傷つけてしまう……!(苦悩)」←シリアスの苦悩


グレゴワール「…………頼むから冷静になりたまえ」←頭が痛くなってきた


みたいな話です。

相変わらず陛下のラブコメvsマリスのシリアスですが、恋人になったので陛下のラブコメ優勢ですね。そんな明るい話です。

もう少しお付き合いください。

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毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~ 蛮野晩 @bannoban

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