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ナリとロキの激しい親子試合が行われた夜のこと。兵士専用の食事場にてナリは負けてしまったというのに、いや負けてしまったからなのだろうか、酒に呑まれて兵士達とどんちゃん騒ぎの宴会を繰り広げていた。それを遠目で、今日だけは暴れさせてあげようと微笑むナルとそれを見守っている豊穣の兄妹やトール達。
ロキはというと――宴会の騒ぎ声が微かに聞こえる、優しい月光が降り注ぐ中庭の石座にいた。酒瓶を片手に、満月浮かぶ素晴らしい夜を肴にして穏やかな時間にしっぽりと浸っていた。
「ナリ君と飲まなくていいのかい?」
そんな彼の元にバルドルが木盃片手にやってくる。
「ナリは今回の主役だからな。ボクが邪魔していいもんじゃねぇよ。それに……ナリとは別にここじゃなくても飲める」
ロキの言葉に微笑んだバルドルは「そうかい。じゃあ、隣。失礼させてもらうよ」と言って、彼の隣に座り込んだ。そして、自身の木盃をロキへと向ける。
「それじゃあ、乾杯」
「あぁ、乾杯!」
コオンッと木盃と瓶が当たって軽い音が鳴る。互いに一口飲み、「はぁ……!」と酒の余韻をもらす。
「で? どうだった? ナリ君との試合は」
バルドルが優しげな笑みでロキに問いかける。
「あぁ……ひっさしぶりに楽しかったわぁ!」
そんな問いかけにロキは満面な笑みで腕を振り上げて、喜びを大袈裟に表現する。瓶に入っていた酒が空に飛び散るほどに。それほどまでに彼はあの試合が楽しかったのだろう。バルドルはその飛び散った酒が少し顔に触れたものの、それでも楽しそうな親友に水を差すことが出来ずに、軽く頬を拭う。
「それは良かったな。……ふふっ」
「んあ? なんだよ、笑いやがって」
バルドルの笑みに、ロキは首を傾げる。
「いや、なんだ……君が……こんなにも楽しそうにしているのが、嬉しくてだな」
親友の言葉に「はぁ? なんだよそれぇ」とロキは訝しげな表情を見せる。そんなロキの様子など見向きもせずに、バルドルの意識は花が咲き乱れる中庭へと懐かしげな目を向けられていた。
自分とロキが出会った日のことが、バルドルの目から中庭の風景に映し出される。
◆
『私は、貴方を認めないからな』
光の神バルドルには珍しい怒りに満ちた表情で、神の国に入り込んだロキを睨みつけている。
『へーへー、どーぞご勝手に! というかさ〜。あんま怒ると、皆に愛されてる顔が台無しだぜ? 光の神さん』
そんな彼に、木の上から煽っていくロキ。その言葉に、光の神の美しい顔がどんどんと歪んでいく。
『――っ。貴方のような方は、嫌いだ』
『おぉ、そりゃあ良かった。ボクも君みたいな奴は大っ嫌いだよ』
◆
「……ふふっ」
「まーた笑ってら。気持ち悪りぃ」
「気持ち悪いとは失礼な。……君と初めてここで言葉を交わした事を思い出したんだ」
バルドルがそう言うとロキは「……。あー、そういやここだったか? 忘れてたわ」と苦笑いを見せる。
「随分とまぁ懐かしい」
「あぁ、とても懐かしいよ。……それから君が神族の仲間となって、こうやって」
バルドルは再びロキの瓶に自身のグラスを当てる。
「君と友達に……親友になれた。傍から見たら不思議だし、私自身も不思議だけれど……。君とそうなれて、とても嬉しいんだ。だから、親友の楽しそうな姿を、私はとても喜ばしく思っているんだよ」
バルドルがあたたかな笑みをロキに見せる。ロキはそんな彼の言葉と笑みに、ほんの少しこそばゆく感じたのか、頬をかきながら「なんだよ改まって……恥ずかしい奴」と小さく呟く。
「ボクも……うん。君と親友になれて良かったと思うよ。……ありがとう」
ロキもまたバルドルのグラスに自分の瓶を当て、ニカッと太陽に負けない眩しい笑顔を見せる。そんな笑顔に釣られ、バルドルも滅多にしない歯を見せた笑顔をほころばせる。
「「……。あっはははははは!」」
中庭に響く程に大きく、とても楽しげな表情で彼等は笑い合い、再び酒を飲んでこの時間を楽しんでいく。――そんな彼等の様子を、シギュンはボロボロの日記につらつらとその光景を綴りながら笑みを浮かべて眺めていた。そして楽しげな光景を書き終えたその日記を、彼女は優しく胸元で抱き締める。
「あぁ。なんて楽しくて……幸せに満ちた日々かしら」
シギュンはうっとりと緩んだ瞳をしながら、視線の先にある我等の母――世界樹へと語りかける。
「ねぇ、お母様。私は……貴女にとっては失敗作で……ロキと共に生きることを反対されたりもしたけれど……。この運命を選んだ私は、幸せなのよ。とってもね」
次の更新予定
暁光のレムレス−邪神ロキは最愛の妻を救うため、記憶喪失の兄妹を保護します− 夜門シヨ @kuro-usagi
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