私の上司は魔王様

@akahara_rin

私の上司は魔王様


 かつて、この世界には魔王がいた。

 その圧倒的なまでの武力により、世界を手にするまであと一歩。そこを今は英雄と呼ばれる勇者によって討ち取られた。要は敗北者である。


 私は、魔王様の部下だ。

 だった、ではない。今も私は部下である。

 何故なら、魔王様は遂に復活したからだ。


「おい! 人間の国を攻めに行くぞ!!!」

「無理ですよ。まだ魔王軍は私一人しかいないじゃないですか」

「ばか! 我とお前で千人ずつ倒せば良いだろ!」

「上手く行ったとして、その後どうするんですか?」

「その時考える!」


 何か、ちょっとおバカになっているが。


 ◆


「いいか、あの勇者が死ぬ前に攻めるんだ!」

「死ぬの待った方が良いじゃないですか」

「ばか! お前は何も分かってない! アイツを倒さないと意味ないだろうが!」


 おかしい。

 私の知る魔王様は、知的とまでは言わずとも、もう少し深くものを考える人だったのに。

 あれか、死ぬ時に散らばった魔王様のパーツ、全部集めたと思っていたが、足りないものがあったのかもしれない。具体的には頭のパーツとか。


「ともかく、まずは配下を集めないと」

「むぅ、必要か?」

「当たり前です」

「お前がいれば良いだろうに……」


 さらりとこちらの心臓を弾ませて、魔王様は嘆息した。


「で、誰か候補はいるのか。昔のやつらは皆死んだのだろう?」

「はい。天雷山の魔人を配下にしましょう」

「よし、案内しろ!」




 数時間後。


「何してるんですか!?」

「む? 加減したのだがな」

「どこが!?」


 天雷山の標高は、明らかに数時間前より低くなっていた。


「あの魔人、絶対死にましたよ!」

「この程度で死ぬようなやつを配下にしても仕方がないだろう」

「あんなもん私でも死にます」


 戦術級の爆裂魔法なんかをまともに受けて生き残れるのは、魔王様とあの勇者くらいだ。

 私だってそれなりには強いが、魔王様は格が違う。


「というか、適度に痛めつけるって話でしたよね!?」

「だからそうしただろう」

「これは痛めつけるじゃなくて消し飛ばすなんですよ」

「だってアイツムカついたしな」

「本音!!」


 いかん。本格的に頭のパーツを探す計画を立てなければならない。後から拾って来てくっつくものなのかも分からないが、このままでは駄目だ。


「細かいことは気にするな。ほら、次の候補は?」

「えぇぇぇ……このまま行くんですか?」

「当然だ。今日中に二人は連れて帰るぞ」


 ――中略。


「あぁあああああ!?!? 首刎ねちゃ駄目ぇええ!!」

「む? このくらい再生するだろう?」

自分化け物基準で考えるのやめてください!」


「心臓をぶち抜くのは……!!」

「こ、これくらいならお前でも再生するだろう?」

「この魔人は硬度特化で再生は苦手って言いましたよね!?!?」


「ほら! 今回は上手くいったぞ!」

「頭脳が長所だったのに、傀儡化の魔法を使うのは……」




 何と言うか、散々な結果である。

 一日掛けて得たのは、ひ弱な傀儡が一体だけだ。


「むぅ……」

「……まあ、仕方ないですよ。当時とは魔人の強さも違いますから」


 魔王様が討たれた後、魔人も多く勇者に狩られた。

 今の魔人の殆どは、戦争を経験していない若い魔人だ。昔に比べれば、弱いのは仕方がない。


「明日からは、私が配下を集めます」


 だから、この役目は私が適任だ。

 というより、魔王様が直々に勧誘しなければならないような魔人はもう、この世界にはいない。


「それは」

「適材適所です」


 話を打ち切って、私は席を外した。


 ◆


 天雷山の山頂で、私は魔人の遺体を探していた。

 まず確実に死んだだろうが、一部でも残っていれば魔法の触媒に使えるかもしれない。


「うーん、見事に消し飛んでる……」


 そもそも山頂が残っていないのに、遺体だけなら残っていると思ったのが間違いだったか。

 仕方なく帰ろうとしたその時。


「死ねェ!」


 死んだ筈の魔人の魔法が、私に迫った。

 雷の魔法だ。雷速の閃光は、見てから避けるには余りに速すぎる。


「全く」

「へ?」


 だが、いつの間にかそこにいた魔王様が、魔法を握り潰していた。


「ついでだ」


 そして潰された魔法が編み直され、報復のように魔人の手足を消し飛ばした。


「ま、魔王様?」

「どうだ、あれなら良いだろう」


 魔人の方を見れば、手足を失い藻搔いているのが見えた。あれなら私でも治せる範囲だし、すぐに死ぬこともないだろう。


「……そうですね」


 自慢気な表情。

 どうも少しおバカになってしまった上司だが、頼り甲斐があることだけは間違いない。

 昔と何も変わらない背中を見つめて、私は一つ溜息を吐いた。

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