第2話

「よっ! いつものように魔石の買取してー」


 俺は町外れにひっそりと店を構える魔石商店へと出向いた。警察上層部ともそれなりに密接な関係を築いているお陰か、この店が警察組織の手によって検挙される可能性はゼロ。


 いやー、真っ黒い世の中だよねー。


 大きな声を出して店主を呼ぶとすぐに来た。


「うるさい。二日酔いだから静かにしろ」


 ナイフも一緒に飛んできた。多分、ダンジョン内のドロップアイテム。時々ダンジョンに出向いては死体漁りして取っていくとか話を聞いてる。


 だから、当たったら即死のやつとかも偶にあるから怖いんだよねー。


 ま、当たらないけど。


 振り返ると壁に剣山のように突き刺さった刀剣の類が。


 おおーこわっ。ちょっとでも掠めてたら呪われる刃物まであるし、的確に急所を狙ってきてるしで殺意高いなぁ相変わらず。


「危ないなぁー。当たったら俺死んじゃうよ?」

「死ね。さっさと帰れ……それで何の用だ?」


 店の奥から姿を現したのは耳の長い美女。


 金髪ではなく、黒の長髪。艶のある髪質はまるで鴉の翼のよう。切れ長の瞳に凛々しい顔立ちだけど、笑うと可愛い。


 俺に笑みを向けてくれたことはほとんどないけどねー。


 あと容姿だけど、髪色の違うエルフ亜種みたいな感じ。だけど、これはそんな夢あるファンタジーなものじゃない。


 耳長病。つい最近確認された病で、日本人と日本人以外の者の間で子供を設けた時に宝くじに当てるよりも低い確率で生まれてくるとか。


 必ずしも美少女に生まれてくるわけじゃないからエルフじゃない。


 まぁ、目の前の彼女は美人なんじゃない? 俺の美醜感覚がまともなら、だけど。


 あと巨乳。


「さっきも言ったでしょ。魔石を売りに来たんだってば」

「また人様の物を勝手に……」


 頭痛を覚えたかのように頭を抱える宵宮ヨイミヤ。なんか本名はないらしい。まぁ俺も色々過去に後ろめたいこと(世間一般の目から見て)あるし、そういうことなんでしょと納得してる。


「でも、宵宮もダンジョンから人様の物を持って帰ってきてんじゃん。あれはアリなわけ?」

「死んだ人間がどうこう出来るもんじゃなし、せめて生者が有効活用したほうがいいだろう?」

「うわー、ずっる」


 しらーと呆れた眼差しを向けても宵宮の顔に動揺も焦りもない。本気で言ってるんだろう。俺も大概だけど、彼女もだいぶヤバいわ。


「それで、何の魔石を売りに来た?」

「ミノタウロス」

「ああ、あの雑魚か。お前、もっと上のやつを持ってこいよ。お前の実力ならドラゴンくらいは屠れるだろうに……」


 今度は宵宮が呆れた目を向けてくる番だった。ターン制とは驚きだ。


 ただ俺からしてみれば買い被りすぎだ。ドラゴンって強いイメージしかないし、俺って一応人間だからね。無理無理。


「いやいや、無理でしょ。俺、これでも人間だから。まともに攻撃受けたら死んじゃうよ」

「死ね……と言いたいところだが、そもそもの話、お前に攻撃を当てられる奴が想像つかない。殺し屋組織がムキになって重火器兵器なんでもアリで、束になってかかってきたとしても返り血も浴びずに無傷で皆殺しにしたような奴がドラゴン如きに梃子摺るのか?」

「人間とドラゴンはレベル違うでしょ。俺はあくまで人間レベルだから。あと返り血を浴びなかったのは洗濯面倒だし。一人暮らしって意外とやること多いんだよ? 知ってる?」

「知るか」


 宵宮の疑いの眼差しが飛んでくる。そんなに俺って強そうに見える? むしろヘラヘラしてるから弱そうだと思うし、体つきもゴリッゴリのマッチョマンじゃないからヒョロそうな印象を持たれそうだけどなぁー。


「……言っておくが、強い奴は少なくともお前と戦おうとは思わないぞ? お前、自分の強さを理解してないのか?」

「いんや、自分が死ぬほど強いのは分かってるけどさ、それはあくまで人間が相手ならって思ってるだけだよ。ドラゴン相手に人間と同じように戦えるかって言ったらうーんって首を傾げざるを得ないし」


 宵宮はやはり俺の発言に納得がいってないのか、ずっと渋面を作っていた。


 ただ魔石の買取自体は手早くやってくれたので日銭で懐が温かくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンキラー〜殺し屋を辞めた彼は楽をしながらモンスターを片っ端から殺すことにした〜 散漫たれぞー @ptra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ