ダンジョンキラー〜殺し屋を辞めた彼は楽をしながらモンスターを片っ端から殺すことにした〜

たれぞー

第1話

「うわー、なんか死ぬ気で戦ってるねー」


 俺が今いるのはダンジョンと呼ばれる穴蔵。辺りはコンクリート壁とは違った土塊で固められた壁で囲まれ、壁面には火の灯った松明が辺りを照らしている。爪先で足元を叩くと、地面が何層にも重なっているのが音から理解できた。


 色々あって体は調整されてるからね、まぁ職業柄肉体スペックが高ければ高いほど俺の価値は増すってもんだから五感の底上げは当然されている。


 十数m離れた先では数人の男女が化物相手に大立ち回り。遠距離と近距離、中距離まで揃っててバランスがいいね。


 近距離の男戦士二人と中距離の槍使いクール系美女一人が勇猛果敢に二回りは大きい怪物相手に攻め立てている。


 でもあの感じだと数分保つか保たないかってところかな。疲れてるし、動きも粗い。


 死んでもらうのは困る。人手が減ると、自分でわざわざ正面切ってあんな怪物と戦わなくちゃならなくなるからねー。


「ちゃちゃっとやっちゃおうかー」


 ギリギリ俺のことは勘付かれてないみたい。遠距離タイプ弓使いの黒縁眼鏡の女の子がどうやらあのパーティの中で周囲の索敵をやってるみたいだけど、その範囲から少し外れた場所にいるお陰でこっちのことは眼中になし。


 これなら一撃で仕留めれば何となりそうだ。


「んじゃ、位置について。よーい……どんッ!!!!」


 背中に得物が入った長細いアタッシュケースを担いだまま、駆け出す。地面に足跡が刻まれるよりも、影が写し出されるよりも速く疾走する。


 そして、眼鏡の子がこちらを認識するよりも先に、牛と人を合体させたような怪物────ミノタウロスとかいう奴の背後へと回り込む。そのまま戦ってる奴らの死角でアタッシュケースから引き摺り出した折り畳み式の刃で八つ裂きにした。


 蛇腹剣ってやつで扱いは難しいけど、慣れたら鞭のように振るって不意打ちでバラバラに出来るお手軽便利な武器。


 んしょっ、と。


 で、胸の辺りにある魔石を素早く抉り取る。怪物共には必ずこれがあって、強ければ強いほど高く売れる。死体は数分もしたら消えるから、手短かつ早めに取っておかないとチャンスがなくなる。


 あいつらは生き残れたんだし、報酬としては安いもんでしょ。


 臭い血飛沫を浴びるつもりはないので早々に退散。彼らの瞬きよりも早く離脱し、欠伸を噛み殺しながら事の顛末を見守る。


「な、何だ!? や、やったのか……?」

「やった……俺達で、俺達だけで倒せたんだ……ッ!」


 歓喜に満ちるパーティ。やったのは俺だけど、まぁいいや。別にあいつら弱くはないし、油断とか過信とかしなけりゃ死なないでしょ。


 手元の魔石を掌の上で転がしていると声が聞こえてくる。


「あ、あれ……? でも、魔石ないよ?」

「え?」


 向こうは魔石が俺の手にあることは知らない。そもそも俺があの怪物を殺したことにすら気付いていない。


 気づかれたら面倒だ。さっさと帰ろー。


 返り血をたっぷりと浴びた彼らを残し、俺は音も気配もなく立ち去った。



 あ、そうそう俺元殺し屋ね。手持ちの武器はアタッシュケースの中身全部だよ。

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