ふみこおじさん

TatsuB

第1話

最後の授業の終わりを告げるチャイムが学校に鳴り響いた。

「やっと、帰れる」

僕はやっと家に帰れるとちょっと、テンションを上げながらランドセルを背負って

校舎を友達と後にした。


いつもの通学路を歩いていると、友達が何かに気付いて声を出した。

「あっ、ふみこおじさんだ!」

「うわ、ほんとだ!」

「ふみこおじさん」と呼ばれた方はこっちを見て話しかけてきた。

「ふみこを知らんか?」

おじさんの顔はこっちを見ているがどうも目が合わなくて、少し気味が悪い。


見た目は30後半という感じで、髪はもじゃもじゃのロン毛の無精ひげでちょっと小汚いおじさんだ、僕が小学校に入学前から「ふみこをしらんか?」と声を掛けてくることで有名で、近所の人たちは「ふみこおじさん」とよんでいた。

この「ふみこ」という人物が誰なのか、誰も知らないらしい、まるで謎めいた人物だ。

しかし10年近くこうして徘徊しているらしい。


僕の学校では定期的に、集団下校を行う。その際に、「ふみこおじさん」に出会うと、生徒達は、アイドルでも目撃してかの様に盛り上がる。

先生たちは呆れた様子で「やめなさい」と言いながらも

万が一のことを考えてか、おじさんの近くの生徒をいつでも守れる距離で自然と歩いていた。

おじさんは、集団下校でもお構いなしに「ふみこを知らんか?」と聞いてくる。

みなな揃って「知りませーん」なんて返事をしている


おじさんは「ふみこをしらんか?」と言うだけで他に特に何も言ってこない。

いつも目線は相変わらずどこか遠くを見ているようだった。


月日が経って「ふみこおじさん」は僕が小学校から中学卒業までの間、変わらず

「ふみこをしらんか?」とぶつぶつ言っていた。


最初は気味悪がったが流石に小中9年間みていれば慣れてくるものだ。

高校生になってからは隣町の学校になり、もうあの道を通らくなったので

必然と見なくなった。


高校卒業後、僕は他県へと就職した。

もう、そのころには「ふみこおじさん」のことなんて忘れていた。


僕は、就職したはいいものそう長くは続かずに2年ほどで仕事を辞めた。

仕事をやめ、とりあえず再就職までは実家に帰る事になり、久しぶりの地元だな

と少し懐かしさを感じていた。就職してからは仕事が忙しく一度も実家に帰らなかったので、2年ぶりになる。


実家に帰り久ぶりに近所を見ようと散歩へと出かけた。

その散歩ルートは、小学生、中学生の時んみ使っていた道を歩いていた。

風景は、当時とさほど変わっておらず感傷にひたっていたら前の方から、

二人組の男女が目に入った。

男は60代半ばで女性は30代くらいにみえた。


僕は男性をみてある人を思い出した、それは「ふみこおじさん」だった。

月日が経って老けてはいたが、確かに面影があったのだ。

女性の方は見覚えは無かった。

「あの女性がふみこって人かな?」と思いつつ二人組とはすれ違った。


しかし、僕は無性に「ふみこおじさん」のことが気になり、声をかけてみようかと思い、また二人が正面からくるように回り道をした。

案の定、二人は正面からやってきた。

とりあえず自然に「こんにちは」と挨拶をしてみた、すると女性の方が愛想よく「こんにちは」と挨拶を返してくれた。


僕は世間話をするかのように「親子で散歩ですか?」と話しかけてみた。

女性は「そうなんです。だん...父と散歩なんですよ」と歯切れ悪く答えた。

すると男性が声を発した「みなみはどこだ?」と


僕は少し困惑した。「あれ?昔は確か、『ふみこ』だったはず...」

そう思いつつまた女性に話しかけてみた。

「僕、昔そこの学校の卒業生なんですよ」

「それで...」と続きを言おうとしたら、女性の方から聞きたかった事を話しかけてくれた。

「父のことですよね?」

「よくこの辺りで『ふみこはしらんか』みたいなこ言っていたでしょ?」

女性は、苦笑いしながら続けた。

「ふみこってのは私の母の名前なんです。でも私が小学生の頃に病気で亡くなって、そこから父がおかしくなっていったんですよ...

母が生きていた時は普通の人だったんですよ?」

「父がおかしくなってからは父の実家で暮らしていたんですが、当時の私はそんな父と暮すのが嫌だったんです。だって外でも『ふみこふみこ』って言って、同級生から私、馬鹿にされてたんです。

「それが嫌で、この地元を離れたくて、祖父母に『将来医者になりたいから、今のうちにいい学校に行きたい』と、苦し紛れにお願いしたんです。」

「祖父母は、なにも言わず、みなみの人生だからって、私の無理な願いを叶えてくれたんです。」


どうやら、ふみこおじさんの妻な名が「ふみこ」でこの女性が「ふみこおじさん」の娘で「みなみ」ということらしい。

そこで、疑問に思ったことがある、さっきおじさんは、「みなみはどだ?」と言っていた。みなみさんは隣にいるのに。

僕は素直に尋ねた。「あれ?先ほど、みなみさんの事を呼んでいませんでしたか?」

みなみさんはちょっと困ったような顔で答えた。

「父は私の事を母のふみこだと思ってるんですよ。きっと父の当時の記憶の母と私を重ねてるんです。きっと父にとって私は小学生のままなんですよ。」

「私もここへ帰ってきたときは、私がみなみだよって何度も行ったんですけど

分かってもらえなくて...私は父の為に、父の前ではふみこでいようってきめたんです。」

そういいながら彼女は目を赤くしていた。

「それは、大変でしたね...」

僕はなんて答えていいのか分からなかった。

「もう、これでいいんです。私も一度、父を見捨てたんですから。

父はもうどこにもいない『みなみ』を今も探しているんです。」

「でも、本当にこれでいいんです。私には父はいますが、父にはもう本当のふみことみなみがいないんですから」

「では、長々失礼しました。」

そういって二人は去っていった。

きっとおじさんは今「みなみ」を探しをしているんだろう。

















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