遺品整理

柳 一葉

遺品整理

私は手に取る。

何これ?

遺品整理の時に写真に手を取る。その時私は。

祖母が亡くなったのは、私が二十二歳の誕生日を迎えた次の日だった。

その日大学の課題をしていた時、母から

「おばあちゃんが」

と涙ぐんだ声で知った。私はその日は夜だったから、翌朝の電車を二回乗り換えて地元、実家の最寄り駅に着いた。十時を過ぎた頃だろうか、車のクラクションが鳴り私は顔を上げた。

父が迎えに来てくれた。急いで軽トラに乗り込む。

「迎えに来てくれてありがとう」

「こんな形でお前が此処に帰ってくるとはな」

そこから沈黙が続く。

「おばあちゃん最後何か言ってた?」

「ああ【もう、この世に未練はないけん。ゆっくりと父さんと顔を合わせるのが楽しみばい】だとさ。それと、巴にも会いたがってたぞ」

「流行り病が怖くて中々帰って来れなくてごめんなさい」

「それは、ばあさんの顔見て言いな」

十五分程で実家に辿り着く。

「お母さんお疲れ様」

「おばあちゃんにも挨拶してきなさい」

「はい」「あ、お数珠も渡すね」

田舎で家族葬。おばあちゃんが照れ屋だからそれで良い。

「家族に見守られて行くのは安心ばい」

私は決心をして、おばあちゃんの顔を見る。私は不意に綺麗だと呟いた。

花に包まれて囲まれてるおばあちゃん。本当はまだ寝てるだけなんじゃないかなと錯覚する。

今までの思い出が頭を巡らす。

小さい頃一緒に桜を見たり、お盆の提灯を組み立てたり、お彼岸の団子作ったりした事。

私の頬に大粒の涙が通る。角層まで浸透していくかのように。そう流れていく。

「最近会えてなくてごめんなさい。またこの前またくお茶飲みながら、おじいちゃんとの過ごした時の事聞きたかったよ。次からお盆の提灯一人で作らなきゃいけなくなったな。寂しいよおばあちゃん」

巴は幼少期からおばあちゃん子だった。両親はどちらも仕事で帰りが遅くなるからと、二人でよくご飯を作ってテレビを見ながら過ごしていた。

そんな巴は友人と喋る時、あまり聞き慣れない方言を使うからとバカにされて、帰ってくるや否やおばあちゃんへと抱きついて、泣いて泣き喚いた。そんな時に

「おばあちゃんが若くないからね。ごめんね巴。あんたに迷惑掛かるならおばあちゃんは畑仕事でもするかね」と次第に巴とおばあちゃんである、真知子が過ごす時間が減っていった。

巴が十八歳となった頃、真知子に病気が降かかる。

ガンだった。それもかなり蔓延していて完治は難しいと。母からは言伝で聞いた。

大学も決まり一人暮らしに夢を持っていたが、巴はずっと気がかりだった。もう少し過ごしたかった過去。悔いてもしょうが無い。

バカにされても私を貶さずにずっと話を聞いてくれた優しいおばあちゃん。

ひとまず私は地元から少し遠いと都市へと引っ越した。

私は月に一回おばあちゃんに手紙を送った。病院宛だけど無事に届いたかな?読んでくれるかな?

二週間後の事。アパートのポストに赤と白のストライプの封筒が届いていた。もしかするとおばあちゃん?と手紙を受け取り、自室のある五階へルンルンと階段を駆け上がる。

ドアを開けて、手を洗ってやっと読めると思い、封筒の封を切っていく


巴へ

巴、おばあちゃんだよ?お手紙嬉しかったよ。ありがとう。おばあちゃんあんまり目が良くないから、文字間違ってたらごめんね。今の所安静にしてるからあんまり心配しなくてもいいよ。大学生活頑張ってね。それがおばあちゃんが一番に思っているよ。友達も作って一緒にお花見たり、色んな所へ遊んでおいで。また手紙書いてくれたらお返事するからね。いつも気持ちは傍にいるからね。巴、あなたの小さな頃の写真を入れて置いたからね。よかったら飾ってね。

真知子より


おばあちゃんからの手紙に私は涙した。おばあちゃんへの親孝行頑張るからね。おばあちゃんも一緒に頑張って治そうね


私は大学の荷物を片付けて、返事のお便りを書く。


おばあちゃんへ

早速手紙読んで、そして返してくれてありがとう。頑張って大学生活送るから、友達も作って日々の写真を今度また便箋と共に封筒に入れて送るね。私を小さな時から守ってくれてありがとう。またお見舞いに行くからフルーツも持っていくから待っててね。大好きだよ。

巴より


その手紙を読む前におばあちゃんは亡くなった。私の誕生日で友達とパーティをしていた。夏生まれだから、夏休みと被る。勿論その日の課題も終わらせた。

そして次の日あの電話が掛かってきた。


おばあちゃんへとお焼香もあげた。体も焼いた。仏様も取った。

私は無心で事を終わらせる事に精一杯だった。

通夜もお葬式も終えた。次の日は遺品整理だった。

昔編んでくれたニットが出てきた。懐かしむ気持ちでいっぱいだ。

授業参観も両親の代わりに見に来てくれた。その時付けてたブローチもあった。何種類もあった。

母にこのブローチを貰ってもいいと聞いたら

「もっていっても大丈夫よ」

「ん?これは何?」

ふと本棚に手を伸ばす。

「そこは詩集だったり、日記帳のはずよ」

「見てもいいかな?」

「うん、おばあちゃんを少しでも感じられたら良いね」

日記帳を開くと一枚の写真が出てきた。

そこには明らかに二人居るが、一人がハサミか何かでくり抜かれている。

「あっ」

これって、え? 昔一年に一回楽しみにしていた桜の木の下で、私とおばあちゃんと撮ってた写真じゃ。

でもそこには、私はいない。そう切り抜かれていたのは私だった。

「なんで…」

「巴どうかした?」

「ん〜ん何にも」

おばあちゃんは今桜の木の下で寝ている。

「そっか おばあちゃん 私の事」


死人に口なし​───────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遺品整理 柳 一葉 @YanagiKazuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ