しろうるりの裁判傍聴記

しろうるり

しろうるりの裁判傍聴記

■はじめに


 これは筆者がご縁あって傍聴した裁判の記録です。

 といっても、記録も記憶もあまり正確なものではないので、そういうものと思ってご覧になってください。

 裁判の内容は、いわゆる海賊版サイトに関して、「作品を違法アップロードされた方がサイトの運営者に対して、損害賠償を求めて訴訟を起こした」というものです。



■大前提


 筆者は原告代理人と面識があります(というかつい最近依頼しました)。

 なるべくフラットに書いたつもりですが、わりと肩入れしている自覚はあります。


 また、以下の記述は、筆者が法廷で雑に取ったメモから起こして要約したものです。

 抜けや漏れ、聞き間違い、要約ミス等で元々の発言の趣旨と異なっている可能性があります。


 こういう意図だろうな、という推測が入っていたりもしますが、推測はあくまでも推測です。

 筆者は原告代理人にも被告にも被告代理人にも一切の確認を取っていません。


 そのような前提で読んでいただければと思います。



■前提と予備知識


・海賊版サイトに自作の漫画をアップロードされた人が原告

・海賊版サイトの運営者と目される人物が被告


・原告は公衆送信権の侵害によって受けた損害の賠償を求めている。

・原告の主張によれば、当該海賊版サイトの広告収入はハワイ州の法人に集約されている。

・原告の主張によれば、ハワイ州法人の代表者は被告であり、したがって被告は当該海賊版サイトの運営者である。

・被告は当該海賊版サイトと自身との関わりを否定している。


・当日は被告への尋問が行われた。



■なんでしろうるりが傍聴してるの?


 原告代理人のスドー先生(@stdaux)こと平野弁護士に声をかけていただいたからです。

 仕事はそこまで切羽詰まってないし、休暇は余ってるし、個人的にちょっと興味もあったので傍聴してみました。



■オープニング


 法廷、新しくて綺麗。

 傍聴席は50弱くらいはあったと思う。

 マイクとか大型モニタとか、そういうものが備え付けられている。

 法廷内は裁判官席に向かって左が原告、右が被告。


 13:30開廷。裁判官が3人入廷。合議事件だったんですかこれ。

 傍聴人は20人いないくらい。メモ取る人とかイラスト描く人とか(裁判所内は録画録音写真等禁止です)。筆者は絵心がないのでメモ組でした。


 被告は最初傍聴席にいて、裁判長に呼ばれて証人席へ移動。なぜそういう動きをしたのか、理由はわからない。

 被告の本人確認、宣誓後の虚偽供述に関するペナルティ告知、宣誓(宣誓文の朗読)で開始。


 まず裁判長が本日の流れを確認。


①被告側による尋問(主尋問)

②原告側による尋問(反対尋問)

③裁判官による補充尋問


 だそうです。なるほど。



■被告側(主尋問)


 当該海賊版サイトについて、ハワイ州の法人について、その口座について等々を被告代理人が質問。


 被告の応答は概ね「海賊版サイトについては知らない」「ハワイ州の法人の口座については知らない、使ったこともない」「その口座からの送金をしたことはないし、自分の口座への入金等もされていない」等。


 ハワイ州法人については「作ったあと実体的な事業は行わなかった」「知人男性(本名不明の日本人)に譲った」「名義変更の手続き等もすべて当該知人男性に任せた」「今回の訴訟で名義が自分のままと知った」「ハワイで法人に関する税金等は払っていない」「小切手への署名はしていないと思う」「会社の年次報告書への署名はしたかどうかわからない」「代表者の住所変更の手続き等もしたかどうか記憶にない」等々。


 主張の基本線が「関わりがない、知らない」で、(広告収入を集約されていた)ハワイ州法人については「作ったあと他人に譲ることにして手続きも全て任せた。あとのことは一切知らない。訴訟を起こされるまで、代表者が自分のままになっていることも知らなかった」という趣旨っぽい。


 全体的に主張に無理がないかな、そこまでなんも知らずに放置するって結構なリスクだと思うけど、などと思っているうちに主尋問終了。



■原告側(反対尋問)


 スドー先生イケボ。相談したから知ってたけど法廷で聞くとますますイケボ。

 あと体形がわりとスマートで背が高めなので、なんというか法廷映えする。


 たまに被告の応答を受けて、傍聴席側に「今の聞いた?」みたいな感じでニヤリと視線を向けてくれたりしていた。

 あれはファンサだったんだろうか。


 尋問は、まず被告が現在運営している会社に関する質問から。ナンデ?

 次が居住歴。どこからいつどこへ転居して、現住所は……みたいなやつ。再びナンデ?


 被告運営会社は増資をしている。きっかけは?

→「覚えていない」


 平成26年に代表取締役(被告)の住所変更手続きをしている。

→「税理士にやってもらった」

 →「そういうことをしてもらえる税理士がいるんですね」と念押しして次の話題へ。


 ふたたび被告運営会社の事業について、2016年頃に求人を出している。理由は?

→「覚えていない」


 被告運営会社の求人ページにきっかけが書いてある、ということで被告に読み上げを求める。

→「広告で収益を上げる自社サイトがあるのでその事業強化のために云々」

 今回争点になっている海賊版サイトは広告で収益を上げるスキームだが、これに関係する求人だったのでは?

→「そのサイトについては知らない」


 平成23年以前の活動についての質問。某アダルトサイトについて知っている?

→「知らない。聞いたことがない」


 当該サイトはワンクリック詐欺のサイトである。2004年のwebアーカイブを提示して当該サイトの利用料の支払先口座の名義の読み上げを求める。

→(被告の名義)


※たぶん「被告は従来から違法あるいはグレーなwebサイトを運営しており、それによって収益を得ていた」(=そういうことをする人物である)かつ「この被告の『知らない』は信用できませんよね」ということを示したかったのだと思われる。



 ハワイ州法人について、本件訴訟とは無関係のO氏に60万円ほどお金を借りて設立した?

→「はい」

 当時の被告にとって60万円は大金だったのでは?

→「はい」

 ハワイ州法人はO氏が100%株主、被告が代表取締役ということで間違いない?

→「はい」


 ハワイ州法人について、知人男性に手続きを任せたとのことだが、株主でもなく、代取でもない知人男性には登記ができないのでは?

→「わからない」

 被告が現在運営する会社の増資の手続きはちゃんとやったよね?

→「わからない」


 2023年に訴訟を起こされてハワイ州法人の名義が自分にあると知ったということだけれども、2022年に原告代理人から書面が届いたよね?

→「覚えていない。読まなかった」

 同じ年に裁判所からも書類が届いたはず。特別送達という特別な郵便で、訴訟のお知らせがあったのでは?

→「覚えていない。読まなかった」


 被告は訴状が届いたあとも、ハワイ州法人に関して何ら対応をしていない。被告代理人や税理士に相談しようとは思わなかった?

→「思わなかった」


 ハワイの銀行について、原告代理人はハワイ州で訴訟をして情報の開示を受けている。小切手について、サインした記憶は?

→「ない」

 ハワイ州法人がハワイの銀行に開設した口座から、小切手が振り出されている。振出先の名義を読み上げるよう求める。

→(被告の名義)


 再び被告の住所変更履歴。平成27年に現住所に転居したようだが、2005年は?

→「わからない」


 ハワイ州法人を譲った知人男性と、その後連絡は?

→「取っていない」


 直近で振り出された小切手について、振出先の住所の読み上げを求める。

→(被告の現住所)


※連絡を取っていないのであれば幾度か転居をしている被告の住所を知人男性は知らないはず。

 最初の方の居住歴に関する質問はここへの伏線だったかー、というところを理解したあたりで反対尋問終了。



■裁判長からの許可を得て、被告側が再度尋問


 小切手について、署名は被告のもの?

→「確証はない」

 日付はどうか?

→「自分の字ではない」


※つまり日付を入れず、署名をした小切手を別人にあらかじめ渡していた、という話にしたい? それはそれでヤバいと思うけれども。



■裁判官による補充尋問


 右陪席(向かって左の裁判官。格としては次席)と裁判長から、主に居住歴についていくつか質問。

 左陪席は筆者の記憶する限り、開廷から閉廷まで一言も話さなかった。


 補充質問への被告の回答は結構gdっており、裁判官の頭上に?マークが浮かぶのが見えたりも。

 住民票を移さないまま転居を繰り返していた、という趣旨のことを言っており、それはそれでまずいのでは、と思ったけどまあそこは今回の裁判とは関係のない話。



■弁論終結


 裁判長から双方の代理人に、最終準備書面を出すかどうかを確認。

 どちらも出さない、ということで弁論終結。


 裁判長から和解についてのお話があるも、原告代理人は判決を求めた(一応、和解条件によりますが、とは言っていたけれども、相当原告側に寄せた条件でないと呑む気はないよ、という宣言に見えた)。それはそう。


 判決期日は12月、場所は同じ建物の別の法廷だそうです。

 その後裁判長から「あとで和解に関する協議するから双方の代理人は集まってね」とお話があって閉廷。



■見た感じ


※あくまでも筆者が受けた印象です。裁判官の感じ方はまた違うかもしれません。


・被告の弁明はかなり苦しく思える。会社経営者としてそういうことをするか? という部分が多々。

 また、被告が現に経営する会社で普通にやっていることを争点になっている会社では一切せず、弁護士や裁判所からの書面も全く読まない、というのはさすがに不自然さが拭えない。

・連絡を取っていないはずの相手から現住所宛ての小切手の振出があるなどの矛盾もある。

・加えてワンクリック詐欺に関わっていた疑いが濃厚で、従来からそのようなサイトを運営しており、ノウハウを持っているものと疑われる。


・当初意図がよくわからなかった居住歴や被告が運営する会社の話がじつは伏線で、あとで回収される、というのは見ていてめっちゃ面白かった。

「弁護士さん、面白い尋問だ……あなた小説家にでもなった方がいいんじゃないですか?」(推理小説の犯人風に)


・原告代理人の尋問は話題がちょいちょい変わり、それもA→B→C→Dみたいな感じというよりはA→B→C→A→D→Bというふうに、急に前に戻ったりしている。あれも意図的なもの(被告の情報処理能力のオーバーフローを狙っていた)なのかも。


・裁判の内容とは一切関係ないけれども、TRPGerとしての経験が生きてるように思えた(ストーリーを組み立てて尋問しつつ、どうやれば裁判官の心証を望む側に引っ張れるかを、語調や所作のレベルから常に意識しているように見えた)。


・……というあたりをお声がけいただいたお礼がてら、原告代理人(スドー先生)に確かめて答え合わせをしたかったのですが、和解協議の予定がある&別のどなたか(たぶん原告の方)と和やかにお話をされていたので、なんとなくそのまま会釈だけして帰ってきました。


※なので代理人の意図については筆者の憶測に過ぎません。



■おわりに


 他人事として傍聴する裁判、わりと、というかすごく面白かったですね。

 まあ面白くなる場面を選んでお声がけくださった、ということだと思います。


 スドー先生、お誘いありがとうございました。

 創作の参考にできるものかどうかはわかりませんが、少なくとも筆者はたいへん楽しめました。


 法的紛争は日々生じるものですし、誰だっていつ巻き込まれるかわかりません。

 また、クリエイターにとっては、海賊版サイトその他著作権絡みの問題は、あまり他人事というわけでもありません。


 時間的な余裕があるときに、社会見学のつもりで裁判所に行ってみる、というのも悪くないかもしれませんね。



 以上、しろうるりがお伝えしました!

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