固有魔法③

 『伝説の魔法使い』。多くの偉業を成し遂げたライグランド王国一の魔法使いであり、王族さえも一目置く存在だ。その魔法使いは今、世界有数の教育施設である国立魔法学園アテナで校長を務めている。


 そして僕は今、その魔法使いの目の前で頭を抱えて座っていた。その理由は明らかだ。


 ―――君は固有魔法を得ることができない。


 校長であるノトス・アンヴェルデが僕に放ったこの言葉が原因であった。


「僕だけ固有魔法無しって、とんでもなく不利じゃないですか……。これからどうすれば……」

「ユーリア君、そう悲観することでもない思うぞ」

「でも、偉業を残す者達は皆固有魔法を所持していると言いますし……強力な力を僕だけ得ていないというのは、あまりにも……」

「確かに、固有魔法は強力無慈悲な力じゃ。だが、君のその“力”もかなり強力なものであるはず」

「僕の“力”は全能力値が平均値で固定されること。これのどこが強力なのでしょうか」


 ついノトス先生に対して不満げな口調で質問してしまう。今気が付いた。きっと僕は、僕の身に起こっているこの“現象”、この“力”に嫌悪感を抱いている。ゆえに、その不満が思わず態度に出てしまったようだ。

 何故嫌悪感を抱いているのか。その理由は、この“力”があまりにも残酷だからだ。だってそうじゃないか。仮説が正しければこれから僕がどれだけ努力をしたとしても、僕の能力値は平均値から変動しないのだ。

 どのような原理で能力値が平均値に収まるのかは分からないが、自身の可能性を、未来を制限されるに等しいこの“力”は酷く残酷なものだ。


「そうじゃのう。まだ検証をしていないため可能性の話になるが、強化魔法や祝福、加護を受けられないというデメリットはあるものの、弱化魔法や呪いを受けないというメリットがある」

「……まぁ、確かに……」

「また、全能力値が平均値であるならば、全ての分野において人並の働きができるということじゃ。もし体術や武術などの戦闘技術さえも平均的であるならば、総合的な能力はこの国でもトップクラスに食い込むかもしれない。まぁつまり、悲観的になるのは検証が済んでからじゃな。もしかすれば、全ての武器を扱え、全ての武術を習得できるかもしれない。人並に、という条件付きじゃが」

「……全ては使い方次第ってわけですか。となると、検証が必要ですね」


 正直まだこの“力”を受け入れることはできない。努力を否定されるこの“力”に納得することはできない。……だけど、まずはこの“力”と向き合うところから始めてみよう。


「……ありがとうございます。お忙しいところを、これほどご教授してくださって」

「礼を言う必要はない。それが教師の務めじゃ。君の“力”の検証には付き合うことができなさそうだが、何か困ったことがあれば儂かBクラス担当の教師……たしかスイレン先生じゃったかの、に聞くといい」

「はい、困ったことがあればぜひ頼らせていただきます。では、失礼します」

「うむ。君の学園生活が充実したものになることを祈っている」


 そうして、僕は校長室を去った。固有魔法の付与ができないという最悪な結果と、能力値が平均値と一致しているという謎の力を伴って。




 食堂で昼食を取り腹が良い具合に膨れた僕は、とりあえず寮に帰ることにした。だが、ただ一直線に帰るのも面白くないと感じたため、地形の把握もかねて偶に大通りから横道に逸れながら歩いていた。

 そして現在、寮の近くの小道にて、僕は後悔していた。なぜあのとき、一直線に自室に向かわなかったのだろう、と。


 時は五分ほど遡る。


(この小道は初めて歩くな。寮の近くにこんなところがあったなんて……)


 何となく横道に逸れ、何となく入った小道。その周りには、様々な種類の花が咲き誇っていた。ゆらりゆらりと草木が揺れるその光景は、まるで天国かのように暖かく心が癒される。その美しさを味わうようにゆっくりと小道を進んでいると、前方から同年代の男が歩いてきた。


(あれは……)


 魔人デビルの特徴である角、暗い紫色の短髪、赤く輝く瞳、鋭い目つき。その外見は間違いなく――。


(――あっ、陰謀論者(仮)の人だ)


 僕と同じBクラスであり、教室で固有魔法に対して個性的な持論を述べていた魔人デビルの男――たしか名前はザカリアス・アルベック――であった。

 この学園における同クラスの人間との接し方をまだ定めていないため、ザカリアスに声をかけようか迷っていると、ふと彼と目が合ってしまう。妙な勘繰りをされないようにすぐ目を逸らすも、時すでに遅し。彼は驚愕したかのように大きく目を見開いていた。


(いったい何に驚いているかは知らないけど、触らぬ神に祟りなし。軽く会釈だけして帰らせてもらおう)


 そして僕はザカリアスに軽く会釈し、彼の隣を通り過ぎようとしたが、気が付けば両肩を彼の腕に掴まれていた。恐怖を感じながらも、僕は彼に問う。


「え、あ、あの……なんですか?僕に何か用でも?」

「…………同志」

「え?」

「同志よ!!我が同志よ!!」

「えぇ!?……ど、同志?僕が?」


 ……いやいや、そんなことを言われる心当たりなんて全くないし、彼の同志になった覚えもない。


「その、僕はあなたの同志になった覚えなんてないんですけど」

「いや、間違いない!あなたは我が同志!隠さなくてもいいのですよ!僕はあなたの味方です!!」

「はぁ……あのですね。そんなことを言われても困ります。僕はあなたの同志ではありません」

「いやいやいやいや!!あなたが我が同志であることに間違いはないはず!神が告げています!あなたは同志であると!!だって、だってだって―――」

「だってもなにも……」

「だってだってだって!あなたは僕と同じく―――固有魔法の付与を断ったのでしょう!?」

「……はぁ?」

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魔法学園アテナ 雨衣饅頭 @amaimanju

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