固有魔法②

「簡潔に言おう。君の全能力値が、全ライグランド王国民の平均値と一致していることを、国は確認した。ゆえに、君の才能は類稀なる『平凡さ』なのじゃ」

「……はいぃい?」


 あまりの衝撃に素っ頓狂な声を上げてしまう。


「……俄かに信じがたい話ですね。僕の全能力値が平均値と一致って……果たしてそんなことがあり得るんですか?その……伝説の魔法使いと呼ばれるノトス先生のことを僕は尊敬しています。しかし正直に言うと、僕は今……あなたのことを疑っている」

「うむ、それも仕方のないことだろう。私も調査報告書に目を通したときには驚愕したものだ。だが、れっきとした事実である。君の能力値はこの国の平均値を表しているのだ。身長体重などの身体に関する数値、魔法適正などの潜在的数値、そしてコミュニケーション能力や学力などの変動的な数値でさえ、平均値と一致している」

「……平均値ってどのように算出しているのですか?」


 全ての能力値が平均値。その事実をなんとなく受け入れたくなかった僕は、なんとか否定する材料を探す。


「ライグランド王国には全国民の能力値を把握する術がある。その情報より平均値を導出しているのだ。ちなみに、その術に関しては国家機密であり、教えることは出来ない」

「そこに疑う余地はないということですか……。でも、全て平均値と一致なんて、どうして……」

「報告書によると、君の能力値は十三歳の時点から平均値と一致し続けている。平均値が変動することがあれば、それと同時に君の能力値も同じように変動するようじゃ。君が十三の年に何かあったのか、それとも自然と“そう”なったのか。また、君の能力値が国の平均値に吸い寄せられているのか、国の平均値が君の能力値に吸い寄せられているのか」

「十三歳のときに特別な出来事があった記憶などありませんし……これじゃあ分からないことだらけじゃないですか……」


 僕の体には正体不明の力が宿っている。得体の知れない力が病魔のように僕の体に入り込み、至る所に巣食っている。そう考えると気分が悪くなってきたような……。


「確かに君の言う通り、分からないことだらけじゃ。だが、理由に関して気にする必要はない。君の能力値は平均値と常に一致している。そういう星の下に生まれたのじゃろう」

「そういう星の下に……生まれた……」

「この世界の全てに理由があるわけではないのだ。もちろん、物事の原因を考える慎重さは必要じゃ。が、答えのないものを追い求めることは時に猛毒になり得る。偶には理由がなくとも納得する寛容さを持つべきだ」


 その言葉によって、僕の濁った思考がスッと澄んだ気がした。

 そうだ。国が調査しても僕に起きている“現象”について答えが出なかったんだ。ならば、どうせ僕がいくら考えても答えは出ない。少なくとも今は、この“現象”について考えることをやめてしまおう。


「自分なりに納得できたようじゃな」

「はい。まだ理由を知りたいという気持ちはありますが、今は考えることをやめておきます。きっと疲れてしまいますから」

「良い判断だ。……さて、君の才能についての話はここまでにして、さっさと固有魔法を付与することにするかのう。まだまだ多くの生徒が待っておるしな」

「は、はい!」


 そうだった。固有魔法を貰えるのだった。僕に起きている“現象”があまりにも衝撃的過ぎてすっかり忘れていた。しかし、思い出したら緊張してきたな……。いったいどうやって固有魔法を付与するのだろうか。おそらく、机に置いてある水晶玉を使うのだろうけど……。


「では、そこの水晶玉に手を置いてくれ。水晶玉が輝くと同時に固有魔法を与えられるはずじゃ」

「えっ……そ、それだけで貰えるんですか」

「うむ。偉大なる魔道具師が簡略化してくれたのだ」

「な、なるほど……で、では、触りますね」


 僕は緊張で震える手を水晶玉へと伸ばした。


(これを触れば、固有魔法が手に入る)


 手を伸ばす。


(一騎当千の力。英雄の力が―――)


 手を伸ばす。


(―――来いっ!固有魔法っ!!)


 そして、水晶玉に手を置いた。


「…………」


(来いっ!固有魔法っ!!)


「…………」


(来てくださいっ!固有魔法様っ!!)


「…………」


(お時間あればお越しになっていただけませんか!!固有魔法殿っ!!)


「…………何も起きないのう」

「こ、これはどういうことですか?僕、何か間違えてました?」


 水晶玉はうんともすんとも言わなかった。

 何故固有魔法が貰えないのか。その理由に見当もつかず、僕は自身の行動が原因なのではないかと不安になってしまう。だが、その線については否定される。


「いや、水晶玉に手を置くだけで固有魔法は付与されるはずじゃ。君の行動に落ち度はないはず。だが、事実として固有魔法を付与されなかった。いったいなぜ……」


 ノトス先生の考え込む姿を見ることしか僕にはできなかった。


「……もしかすると、君の身に起きている“能力値が平均値と一致する現象”が原因かもしれないのう」

「どういうことですか?」

「君の能力値が平均値で固定されていると仮定すると、君の各能力値は平均値が変動しない限り、全く変わらないことになる。つまり、内外からの影響を君の体は受けないのかもしれない。あらゆる強化魔法、あらゆる弱化魔法、呪いや加護、祝福、固有魔法の付与でさえ、君の体が受けつけないとすれば、納得できる」

「そ、それってつまり……」

「残念だが、君は固有魔法を得ることができないということになるのう」

「ま、まじですか…………」


 僕の学園生活は、今終わったのかもしれない。

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