固有魔法①

 金髪の普人間ヒューマン――ミューヘンと白髪の猫人キャット・ビースト――メナスの言い争いや、教師である元S級冒険者【銀剣アル・スパーダ】――スイレン先生の全てをさらけ出した号泣など様々な騒ぎが起こったものの、学園の教職員から齎された情報によって事態は収束へ向かった。

 その情報とは、固有魔法の付与である。Aクラスへの付与は既に終了しており、次はBクラスへの付与が始まるようだ。その知らせを聞いたスイレン先生は何とか平常心を取り戻し、少しふらつきながらも教壇に立った。


「どうやらBクラスの番が来たようだ。では、先ほど言った通り、ここからは名前を呼ばれた者から一人ずつ校長室へと行ってもらう。そして、校長室でノトス先生から固有魔法を付与され次第、今日は解散とする。そのまま帰宅してもらって構わない。では、一人目。アリス・ルーウェン」

「はい」


 遂にBクラスへの固有魔法の付与が始まった。




 数十分が経った。あれから次々と生徒が呼ばれていった結果、もうこの教室には僕とスイレン先生しかいない。どうやら僕の順番はBクラスで最後だったようだ。


「次――ユーリア・ファンブル」

「は、はい!」


 名前を呼ばれた僕はぎこちない動作で席を立つ。すると、スイレン先生は僕の様子を見て微笑んだ。


「緊張しているようだな。ユーリア君」

「え、えーっと……はい。ものすごく緊張してます」

「ふふっ、そうか。まぁ緊張することが必ずしも悪いというわけではない。だが、過度な緊張はパフォーマンスに影響を及ぼす。今はいいが、今後は自身の緊張を和らげる方法を確立しておくといい」

「緊張を和らげる方法……。ありがとうございます!参考になりますっ!」

「……君はあの子達と違って素直だな」

「あ、あはは……で、では失礼しまーす……」


 哀愁漂うスイレン先生の姿を見てられず、僕はさっさと校長室へと向かった。




 校長室。その室名札が貼られた扉の前に僕は立っていた。この部屋の中には伝説の魔法使いと呼ばれる男、この学園では校長を務めるノトス・アンヴェルデが待っている。

 その事実は僕の体を岩のように硬くし、扉をノックするさえ不可能にさせる。だが、このまま立ち尽くしているわけにもいかない。この時間が長いほど、多くの人間を待たせることになるからだ。

 僕は深呼吸をし、覚悟を決める。そして、目の前の扉を数回叩いた。


「入っていいぞー」

「し、失礼します!」


 扉を開き、室内へと足を踏み入れる。


(ここが、ノトス・アンヴェルデの校長室……)


 校長室は『伝説の魔法使い』の部屋にしては案外質素な作りとなっていた。それでも、一般的な観点から見れば十分に豪華だ。部屋の左右には様々な資料が大量に置かれた棚が二つ。奥には普段事務作業に使われているだろう机。そして、中央には大きなソファーが向かい合うように二つ、そのソファーに挟まれるように机が置かれている。

 ノトス先生は奥側のソファーに座っており、その目の前の机には大きな水晶玉が置かれていた。……状況的にあの水晶玉が固有魔法を与える魔道具のようなものなのだろう。


(あの大きさで、それほどの力を秘めているのか?そんなことが果たして可能なのだろうか……)


 その思考を遮るようにノトス先生が口を開いた。


「まずは名前を教えてくれるかのう?」

「は、はい!1年Bクラス所属、ユーリア・ファンブルです!!」

「……そうか。君が『例の子』か」


 その言葉に違和感を覚える。


「え?れ、例の子……って、ど、どういう意味ですか?」

「まぁその前にとりあえず、そこのソファーに座りなさい」

「は、はいっ!失礼します!」


 僕がソファーに腰を下ろすと、ノトス先生は語り始める。


「この学園にはライグランド王国民の中から類稀なる才能を持っていると国に認められた人間のみが入学することができる。つまり、君にも認められた才能というものがあるわけじゃのう……。その才能とは何か分かるか?」

「い、いえ、それが見当もつきません。どうしても僕がこの学園に招待されたのか、全く分からないんです」

「それも仕方がない。君の才能はちと特殊じゃ」

「と、特殊?」


 特殊な才能?そんなものが僕にあるとは到底思えず、さらに見当がつかなくなった。


「さて、そろそろ答えを言うべきじゃな。君の特殊な才能とは、国が認めた君の類稀なる才能とは、それは――類稀なる『平凡さ』じゃ」


 その言葉に僕の頭は真っ白になり、その直後に急速に色づく。疑問という色に、思考が染められていく。


「ちょ、ちょっと待って下さい!平凡であることが才能なんですか?僕にはそう思えないのですが……」

「それに関してはこちらも充分に議論した。その末に才能として認められたんじゃ。それに、君の『平凡さ』は正直異常だ」

「平凡が異常って、矛盾しているように聞こえるんですけど……」

「身長百六十センチメートル、体重五十八キログラム、魔力値二十七、魔法適性は全属性、属性適正値は【火】が三十、【炎】が十、【水】が四十、【氷】が三、【土】が三十七、【木】が十三、【風】が二十、【雷】が二、【光】が二十二、【回復】が五、【闇】が十七、【毒】が四、【無】が二十六、【空間】が一」

「それって僕の能力値、ですよね」


 突如能力値を並べ始めたノトス先生に対して僕は戸惑う。しかしその直後、驚くべき事実が伝えられる。


「いや、違う。儂は今、全ライグランド王国民の平均値を並べたのだ」

「……え?」

「それを君は、儂が君の能力値を語っているように感じた。つまり、そういうことじゃ」

「え、あの……え?」

「簡潔に言おう。君の全能力値が、全ライグランド王国民の平均値と一致していることを、国は確認した。ゆえに、君の才能は類稀なる『平凡さ』なのじゃ」

「……はいぃい?」

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