第3話 魔を持たざる者


後日の朝、いつものように学園へ登校途中の幼馴染三名。

昨日の事件があったにもかかわらず、学園は平常運行ならしい。

正直、休みたい。あの骸の魔物からの傷跡が今でも響く。


「先生たちは無理せず登校してって言ってたじゃん?なのに、デールおばさんったら成績のために行けって。魔族説が有力」

「そんなこと言ったらまた殴られるよ?あーちゃんの成績は少学校の頃からひどかったから、仕方ないよ」


愚痴をこぼすアリスに、なだめるゆい。

そんな会話をよそに、ヴィンは昨日の事件に関してのニュースを、スマホで視聴していた。


「次のニュースです。昨日の昼頃、都立ニューマリア学園の敷地内に突如として魔物の大群が出現。けが人も多数ででおり....現在は....」


学園を襲った悲劇の大事件。

魔物の軍団が突然、学園内の体育館に出現し、人々を襲った。

出現方法も目的も分かっておらず、鎌を持った巨大な骸の魔物は「スカルセンティピード」と名付けられた。

事件の後、アリスたち三人は警察に保護され、病院へ運ばれた。

けが自体、命に係わるものは無く、治療が終わり次第、帰宅した。

ヴィンだけは事情聴取のため残り、遅くに帰宅。

身体より心の疲弊が激しかったため、アリス自身に起きたあの現象も考えられず、

全員倒れるようにベットへ落ちた。


ネットニュースを見た後、しばらくして学園に着いた。

校舎、校庭諸々崩れた学園は、現在もなお、修復が進められていた。

魔法技術先進国の技術力はすさまじく、明日には元の通りになるらしい。


そんな日常が戻りかけているこの学園だが、昇降口に入った時点で、生徒たちがあちこちでざわついていた。

どうやら、誰がスカルセンティピードを撃破したのかという話題で持ちきりだった。


「昨日の襲撃事件。警察が遅かったら俺ら終わってたかもな」

「あのでかい骸の怪物やばかったよな…。あいつ倒したやつ知ってる?」

「それだれかに聞いたぞ!確かあのヴィンっていう最年少で特殊警察に入った」

「私は氷姫様だって聞いたわ!」

「俺はあの魔を持たざる者マナレスターだって聞いたけど…」

「「それはない」」


噂話で盛り上がっていた生徒たちは、口そろえて言い切った。

その魔を持たざる者マナレスター本人が倒したが?なにか問題でも?

不服な気持ちでいっぱいだが、信じてもらえそうにないので黙っておく。


魔を持たざる者マナレスター


魔素マナの扱いができない者を総称した呼び名。

昔は蔑称として使われていたが、今では魔法物マジックアイテムの進歩により、魔法無しでも活躍できる時代。

侮蔑のイメージを払拭しつつあるが、今でもある程度残っているため世界的に問題視されている。


すると、スカルセンティピード打破の候補者に気づいた生徒たちが、三人の周りを囲んだ。


「倒したのは氷姫様ですよね!」「いーや!最年少警察のお前だよな!」

「えーと…。その…。」

「いや。俺たちではない」


鬼気迫る勢いで聞いてくる生徒たちに、冷静に返すヴィン。


「そっそうなの。私たちじゃないんだ」

「ええーー?じゃあ一体だれが…」

「特殊警察副隊長、朱莉あかりさんだ」

「そうだったのか…みんなに伝えてこようぜ!」


嬉々とした表情の生徒たちは、早速噂を広めに行った。


「よかったのか?あんなでまかせ言って」

「ああ。既に許可はもらった。そもそも、お前が倒したと言っても信じる者は少ない、お前自身に起きたあの現象の説明もできないからな」


あの時、内から湧き出る力の奔流を感じた。

今まで経験したことのない、あふれるほどの力に戸惑ったが、

あの強力な障壁を破るほどの能力に、期待と未知への不安があった。


そんな心境でも、時間は進む。

昨日の事が嘘のように授業は開始した。


その日の昼時、いつものように三人で食堂の席に座り、いつものようにゆいのごはんの量に驚きながら食事を取っていた最中だった。

ヴィンの元に一人の男子生徒が、恐る恐る訪ねてきた。


「あのぉ…少しよろしいでしょうか?」

「確か君は…」

「....こんにちは、ジョイです。同じクラスの。実はどうしてもヴィン君にしか頼めない用事があるんです…。こんな暗い僕じゃ多分信用してもらえないし、あの有名な特殊警察の君の時間を奪うのは申し訳ないし…」


体は中学生ほどの身長、丸眼鏡の似合うぱっつんな黒髪。そして分厚い何かの本を抱えている。まさにオタクらしい見た目の同学年。ジョイ・ローツであった。


「大丈夫。今は学業に専念するため、任務は休止しているんだ。同じクラスのよしみだ。助けになろう」

「あっ、ありがとうございます!では早速なんですけど…実は…。

ゆ、幽霊がでたんです!」

「「え?」」


みんなして何事かと強気な心構えをしていたものの、その中身はオバケ事件だった。

最初は拍子抜けしたが、興味津々な青年がいた。


「幽霊って本当にいるのか!よし、この俺が行ってやろう!」

「アリス君じゃダメです…」

「よし、何がダメなのか聞こうじゃないか」


腕をまくって今にもおっぱじめようとしたアリスを全力で止めるゆい。


「おっ落ち着いてください!この幽霊、人を攫うんです!」

「「人を攫う??」」

「はい…」


その後も話は続いた。

どうやらここ最近、生徒たちの間で噂になっている校内のいたるところで生徒が消える事件。

現場はいつもランダムで、分かっているのは時間帯のみ。夕方、最終下校時間帯の午後六時の五分前に起きる。

先生たちは事を大きくしないため公にはしていないが、どうやら既に二人の生徒が被害にあっているようだ。

そこで、この学校のオカルト部唯一の部長兼部員のジョイが事件を解決して、部員を増やそうという魂胆らしい。


「確かに最近よく聞く噂だが、いささか危険だ。しかし、早く解決しなければ被害が増えるか…難しいな」

「おいヴィン。困ってる人を見捨てるのか?お父さん、そんな薄情な子に育てた覚えはありません!」

「お前は俺の父親じゃないし、こういった物騒な件はADAMSに任せればより安全だということだ」

「そっそうだよ!安全じゃないわ…やめましょう!」


今まで黙って聞いていたゆいが、顔を青ざめて話した。


「そういえば、ゆいはホラー系苦手だもんな笑」


アリスが嫌味な笑みでからかう。


「ちっ違うよ!お化けなんて非現実的なものを信じてないだけ!

どうせ魔物とかそういうのでしょ。わかってるんだから!」

「しかし、魔物にそんな知性あるのでしょうか。襲われた場所には一人もいなかったと聞きましたし…やはり心霊現象の一端かもしれません!」


膨れた顔のゆいに反論するジョイ。

視線を合わせると、二人との間に激しく火花が散る。

氷姫vsオカルト部の長との戦いに幕が上がろうとした矢先、締めくくるようにヴィンが割って入った。


「分かった。この前の戦いにもある程度知性のある魔物と遭遇したケースもあるし、国家の中でも厳重な学園内に侵入できる人もそうはいない。被害者も出ている以上、無視できない事件性の高い案件だと考える。よって解決と再犯防止、そして攫われた生徒の救出という名目から、俺は手伝おうと思う」


「ええ~!?」

「ありがとうございます!!」


ジョイの勝利によって終戦。しかし、ゆいは不服そうにこちらを見る。

なんとかしてオーラ出しまくりだが、残念。俺は行きたいから。


「では放課後に部室に来てください。作戦会議といきましょう!」


そういってジョイは食堂を後にした。


その後は昼食を取り、午後の眠気に耐えられなかったアリスが怒られてること以外、何事もなく授業は終了。約束の放課後となった。


三人そろって例の部室の前に着くも、黒い雰囲気漂う部屋に唖然としていた。

スライドドア両サイドに置かれた骸骨の模型、「楽しく幽霊を学ぼう!」のキャッチフレーズの看板、部室の窓には黒いカーテンにオバケグッズ諸々が飾られている。部活動の部屋というより、オタク部屋だった。

そんなほぼ自室のような部室を前に立ちすくんでいると、突然ドアが開き、

中からジョイが嬉々として出てきた。


「ようこそ!我が城へ。さあ、お入りください!」


ジョイに誘われるがまま、中に入る。

あの部室の外見だ。中もよっぽどオカルトワールドなのだと思っていた…が、なんということでしょう。

どこもかしこも本の山、積み重なりすぎてもはや図書館とまで言えてしまうほど。

かろうじて埋もれていないテーブルに着くも、いつ雪崩れが起きるかと気が気じゃない。


「今日はお越しいただきありがとうございます。では、作戦会議といきましょう!」


ジョイは満面の笑みで場を仕切る。


「なんであんなにはしゃいでいるの?」

「この部屋に人が寄り付かないからでしょ。部員一人だし」

「そこ!聞こえてますよ!」


ひそひそと小声で話すアリスとゆいに、ジョイは一喝いれる。

そんな中、ヴィンは手を挙げる。


「はい、ヴィン君。意見をどうぞ!」

「ああ。今回、捜索と事態改善を目的とするにあたって、あまりにも情報が少ないと思った。そこで、情報収集がしたい」

「なるほどです。では、被害にあった二人の身辺調査をするのはどうですか?」

「いいね。じゃあ私とヴィンで一人聞きに行くよ!」

「じゃあ、俺とジョイでもう一人だな。よしっ。アリス探偵団、捜索開始!」

「「おお~!」」

「なんでアリス探偵団なんですか!オカルト研究部ですよ!」


こうして探偵団が結成し、いざ身辺調査を開始するため二手に分かれた。

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