沖縄の島の山火事騒動

森川海守 もりかわうみまもる

沖縄の島の山火事騒動

沖縄のとある島の山の麓に、小型焼却炉があったとさ。あっ沖縄たとさ。

ある時、二階の窓から外を眺めていた一人の男が叫んだ。

「火が見える!燃えている!あれを見ろ!」


男の叫びで、同じビルに合宿中の大学院生が数人、

窓に集まってきた。

見れば、焼却炉の近くでごみが燃えている。


数人の男たちが、火を消そうと動き回っている。

でも、乾燥した灼熱(しゃくねつ)の天気で、なかなか火は消えない。火は消えない。


そうこうするうちに、火は草木に燃え移り、燃え移り

火勢は強まるばかり。加勢に無勢だ!火勢に無勢だ。


その時、拡声器の放送が流れてきた。

「山火事です。山火事です。手の空いている方はバケツを持って集まってきてください」


大学院生たちも、手に手に、バケツを持ち、かけ参じた。かけ参じた。

皆が手渡しで、水の入ったバケツを渡し、火に水をかけた。水をかけた。


でも、もう誰も止められない。火勢に無勢だ!

火勢は勢いを増し、広がっていく。


その時、ヘリコプターの音が聞こえた。

自衛隊が火消しにやってきた。やってきた。

何やら、上空から白いものを撒く。

しかし、火勢は衰えない。

もう誰も止められない。多勢に無勢だ!


暗くなっても、バケツリレーは続く。

でも、火はこうこうと燃えている。

やがて、火は海岸まで達した。

そうしてやっと火勢は衰えた。

闇夜に、海岸の森の中、あちこちで、赤い火がくすぶり出す。

くすぶり出す。

こうして火は消えた!火は消えた。


翌日、二階の窓から外を見ると、

山が一山燃え尽きて、黒いススが山を覆っていた。覆っていた。


自衛隊のヘリコプターの火消しも、

住民によるバケツリレーの火消しも役に立たなかった。


見ると、二人の白装束(しろしょうぞく)の女性が、黒くなった山を登っている。

登っている。

見ていると、山のてっぺんで、ひざまずき、天にもろ手を上げて祈っている、祈っている。


先生と大学院生達も、黒くなった山を登ってみた。登ってみた。

燃え残った木の周りに、

とぐろを巻いた黒焦げのヘビ、そこかしこで見る。


やはり、「夜は出歩かない、毒蛇が待ち構えているから」

との忠告は本当だった。本当だった。

サンサンと、今日も沖縄の太陽が降り注ぐ。

黒焦げの山に降り注ぐ。降り注ぐ。


〈作者のコメント〉

大学院生の時に、ゼミの合宿で、沖縄の渡名喜(となき)島(じま)に2週間泊まった時に発生した山火事を詩にしました。最初は、小型焼却炉の近くで発生したものが、あれよあれよという間に、島を一周、海に達してやっと鎮火しました。詩の中に出てくる白装束(しろしょうぞく)の女性は、沖縄や奄美で、若い時より、霊的能力があるとされる、民間霊媒師(シャーマン)で、人々の相談に応じるユタ、祈祷師です。女性がなることが多い。

 大学院生の合宿はその後も事件が続いた。本土に帰る前日に台風が到来、翌日の港は台風一過、静謐(せいひつ)そのものでしたが、本土からの定期船は、前日の台風のうねりが残っているからなのだろう。入港直前、我々の目の前で踵(きびす)を返して本土に帰ってしまった。先生は、本土で講演の用があると言って、独自にボートを調達、本土に帰ってしまわれた。先生以外は、それから1週間、島に滞在する羽目になってしまった。持参した食料が無くなる直前、良くしたもので、こういうことはよくあるものと自給自足している島の人々が食料を分けてくださり、飢餓(きが)を免れた(まぬがれた)。島の人々には今もって感謝である。




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沖縄の島の山火事騒動 森川海守 もりかわうみまもる @morikawa12

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