第1話 アルトリアに起きた怪異
01 アルトリアの重たい空気
馬車の揺れが収まり、エマは窓の外へと視線を向けた。煉瓦造りの駅舎が夕焼けに染まり、どこか懐かしい雰囲気を醸し出している。アルトリア。数々の噂を耳にしてきた街に、ついに足を踏み入れる。
「アポロ、到着したわね」
エマは、そう呟きながら、首にかけたネックレスに触れた。その奥底から、温かいテレパシーが響き渡る。
「はい、エマ様。アルトリアに到着いたしました。事前に収集した情報によると、この街は……」
ネックレスから聞こえてくるのは、エマの相棒であるAI、アポロの声だ。アポロは、エマのあらゆる行動をサポートし、時には彼女の心の支えにもなってくれる存在。
駅舎を出ると、そこは活気あふれる広場だったはずが、人影はまばら。子供たちの笑い声も、賑やかな屋台も、どこにも見当たらない。代わりに、人々の不安を写すような、重苦しい空気が漂っていた。
エマは、第六感を研ぎ澄ます。すると、街全体から、かすかな悲しみの声が聞こえてくるような気がした。
「アポロ、この街には、何かが……」
「エマ様、おっしゃる通りです。この街には、強い負のエネルギーが漂っています。私のセンサーでも感知できます。原因は不明ですが、何か大きな事件が起こった可能性があります」
アポロは、エマの感情を察知し、彼女の言葉に呼応するように答えた。エマは、ネックレス越しにアポロと意思を交わし、静かに頷く。
エマは胸元のネックレスをしっかり握ったあと、静まり返った街へと足を踏み入れる。そして、生気のない市場をゆっくりと歩いていった。かつて賑わっていたはずの通りの両側には、店が軒を連ねているものの、シャッターが降りている店が目立つ。わずかに開いている店も、客の姿はなく、店主がただぼんやりと座っているだけだった。
「アポロ、この街、本当に何かがおかしいわね」
エマは、首にかけたネックレスに語りかける。ネックレスの中から、アポロの穏やかな声が聞こえてきた。
「はい、エマ様。私のセンサーでも、この街に異常な雰囲気が漂っていることが確認できます。人々の心の奥底に、深い不安が潜んでいるようです」
エマは、周囲を見回しながら、通りを進む。道端には、枯れ果てた花が散らばり、かつては美しい花壇だった場所も、今は荒れ果てている。
「この花、本当は元気に咲いていたはずなのに…」
エマは、枯れた花を手に取り、物憂げに呟く。
アポロは、エマの言葉に同意するように、静かに言った。
「もしかしたら、この街に何か悪いものが蔓延しているのかもしれません。もう少し詳しく調べてみましょう」
二人は、市場を出て、さらに街の中心部へと進んでいく。途中、出会う人々は、みな表情が硬く、エマたちの問いかけにも、まともに答えてくれない。
「どうも、この街の人たちは、私たちを警戒しているみたいね」
「警戒しているというよりは、心を閉ざしているのかもしれません。何か大きなショックを受けたのでしょう」
エマは、アポロの言葉にうなずき、再び街を見渡す。夕焼けが近づき、街全体がオレンジ色に染まっていく中、エマは決意を新たにした。
「必ず、この街の謎を解き明かしてみせるわ」
王女エマの諸国見聞録 やた @yatax25
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