美しい、美しい、文字の涙、その結晶

 音声や文章を自動翻訳する“翻訳脳”。それを人間が脳に搭載している時代の物語。人類は言語の壁を越え、偉人の日記を読んだ。それだけに飽きたらず、海外のアンティークの手書きの日記、一般人の日記を読み物として愛好するようになった。
 
まず、技術が発展したからこそ、技術が発展していなかった頃のものを求めるという発想が綺麗だと思いました。
 そして、日記が涙をこぼし、それが結晶になる……。
 不思議でファンタジックですらある世界観に、一気に物語に引き込まれます。どうして日記は泣くのか、その答えが示されたとき、納得感と同時に、自分の身を省みて生き方を考え直したい気持ちに駆られました。

 テクノロジーの発達や便利さにあぐらをかいて、わかったつもりでいて、何もわかっていないことなんて……たくさんあると思います。わかろうともしていなかったかもしれない……。
 主人公の職人の溢れる想いが、抱えきれなくなった涙が、その結晶が、とてもとても美しいと思いました。