第51話
【最終章】p51🌠最終話🌠
宇宙の心の深さ偉大さ、魂の神秘、私を圧倒する存在全てに敬服し、頭を垂れ、感動で打ち震えた。
「うまく彼と結ばれた時には、私が罪を償っていた時に流れた歴史と別な歴史になるのですか?」
「その時には全く違った歴史が育まれ、それに伴ってこの宇宙の歴史も変わってくる。
最初のビックバン以前の全魂が救われ、その後の宇宙自体が別の形で存在するようになる。
君が今タイミングを外し、少しでもホワイトホールに飛び込むのが早まれば、君の、つまりロピウスとジュリアの魂は複数に分裂して、その総ての魂がジュリアの魂を見つけ出し、それぞれが結ばれなければならなくなる。
それは不可能なことだろう。
悪夢のような輪廻を繰り返し、行く末は君自身も超巨大人の細胞の一部となって、再び同じ犠牲を強いられることになっても、もう救済者は居ないのだ。
そしてもし飛び込むタイミングが遅れてしまえば、ロピウスとジュリアの魂の関係に歪みが生じて魂の救済が出来ないために、永遠の混沌となる。
その時は私も消滅する。
この重い責任を果たすことが、君の成すべき最終試練となる。
私は大きく溜め息をついた。
「分かりました……でも恐い!
上手く飛び込めるかの不安と、生まれ変わって新しい命を授かっても 、あの苦しい人生という時間の流れを生き抜いていけるか。
全宇宙を救うなど私に出来るのか恐くて………」
神の顔の下方で雲のような空間の揺らめきが起こった。
マーブリング状の模様から次第にリアルな形の巨大な右手が表れ、ゆっくりと私の方へ差し伸べられた。
神の超越した魂が感じられた。
神は穏やかな笑みを浮かべ優しく言った。
「恐れることは無い……
君の魂はあの強靭なロピウスとジュリアである宇宙の子の魂なのだ。
もう分かっておろうが、死は『目覚める』ことだ。
夢は思うに任せないものだが、無理に目覚めようとすると夢と覚醒の間の悪夢に囚われてしまう。
いい目覚めが出来るよう、苦しみや悲しみも含めて『人生を味わう』のだ。
さぁ、安心して『眠りの世界〈夢〉』に旅立ちなさい」
急に、懐かしい研治さんの魂、つまりロピウスの魂への激しい想いに襲われた。
早く会いたい!今度こそ結ばれたい!
「有難う神様!有難う宇宙!」
私は音声として発せられることの無い声を限りに叫び、光速を遥かに超える超スピードで真っすぐブラックホールへ向かった。
途中まで送って来てくれた二人の天使達は、突然ブラックホールの手前で静止し、その澄んだ思慮深げな瞳を悲しそうに見合わせた。
「そんなに慌ててはいけない~!」
神の悲痛な叫び声が宇宙中にコダマした。
そして神は、この世に存在する全ての苦しみを背負った表情を浮かべ
ブラックホールは喜怒哀楽の壮絶な混沌だった。
終始地響きのような轟音に包まれ、魂がどんどん清められていく感覚を得た。
不思議なことに、轟音とともに流れていたシューマンの【トロイメライ】が、少しづつ大きくなってくる。
遥か遠くに、白く輝く点が見え始め、ホワイトホールであることが分かった。
ホワイトホールの光が広がっていく。
それとともに【トロイメライ】の音量も近づいてきて次第にグワ~ングワ~ンと鳴り響き、音の総てが【トロイメライ】に支配された。
そして私の記憶が薄らいでいくのを感じた。
最後の記憶は、ホワイトホールの眩い輝きに飛び込んだ瞬間だった。
「オギャア~オギャア~オギャア~………」
「おめでとうございます!
お二人目は女の子さんですよ。
まぁ、なんて可愛らしい双子さんなんでしょう!」
西暦2007年10月24日の朝、東京都内の産婦人科病院分娩室で、男の子と女の子の双子が産まれた。
二人共、左胸にはそれぞれ赤と黒の珍しい星形痣を持っており、二人揃った瞬間からしっかりと小さな手を握り合っていた。
この病院では、院内放送でシューマンの『子供の情景【トロイメライ】』を流していた。
完
皆様、長い間お付き合い下さいまして本当に本当に有難うございましたm(__)m
心から感謝申し上げます🌹💐
最後の2007年10月24日の日付は、この『彼方』を書き終えた日に致しました。
挿し絵です↓
彼方 藍香 【主に SF ファンタジー小説】 @mritw-u
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