第122話 AIに名前を付けて、精霊進化させる




 そろそろ日が暮れてきた。


「あ、やっば!」


 新しい街の外にて。


「どうしよ、日が暮れるのに……まだインフラ全然整ってない!」


 これから暗くなる。街の灯り、家の中の灯り、上下水道など……。

 インフラが、まるで整っていなかった。


「ねえ、Sinri。インフラってどうなってる?」


 セイラちゃんがSinriに尋ねる。


~~~~~~

Sinri:すでに、手配、ずみ、です

~~~~~~


「まじで!? Sinri……いつの間に……?」


~~~~~~

Sinri:日が暮れる、前から、です。街の灯りは、野菜眷属、たちに、ガス灯を作らせました

~~~~~~


 眷属も操ってる……!?


「ガス灯なんて作れるの?」


~~~~~~

Sinri:はい。全知全能インターネットで、現実の技術を調べ、野菜眷属たちの圧倒的マンパワーを使い、インフラを整え、ました。勝手に、手配して、申しわけ、ありませんでした

~~~~~~


 いやいやいや。


「ありがとうっ! 助かるよSinri!」


 最初、Sinriは、下剋上狙ってるのかと思った。

 私、AIに取って代わられるかと、危惧していた。


 でもさっき、Sinriはそんなことしないって言った。だから安心安心。


~~~~~~

Sinri:^ω^

~~~~~~


「なんの顔文字かしらこれ……?」


 とセイラちゃん。


「見ればわかるでしょ? 褒められて、笑ってるんだよ」

「そ、うかしら……」

「そうよ、絶対」


 多分ね。


「ん~~~~~今日はよく働いたね。長い一日だったわ~……って、何二人とも?」


 二人とも、私にジト目を向けていた。


「疲れた?」

「ほぼ外部に丸投げしてなかったか……? ミカ神どの……?」


 ま、まあ確かに……。

 誰が一番頑張ったかっていえば、野菜眷属たちだけども。


「へ、へいSinri! 私、頑張ったよねっ?」


~~~~~~

Sinri:はい、ナガノミカ、さまは、とてもがんばりました。なので、ナガノミカ、さまを、褒めてあげてください。二人とも

~~~~~~


「まあ、Sinriがそういうなら」

「ミカ神どのえらいえらい」


 雑……!

 ま、まあいいや……。


「しかし、Sinriの言うこと聞くんだね君たち」

「そりゃまぁ」

「頼りになるからな」


 うんうん、とうなずき合うセイラちゃんズ……。

 一方の私はと言うと……。


「わかるー! 頼りになるよねー!」


 Sinriが面倒なことをやってくれるおかげで、作業がすっごく楽になったのは事実!


「ありがとう、Sinri。これからもよろしく!」


~~~~~~

Sinri:はい。これから、も、どうぞ、よろしく、おねがいします。ナガノミカ、さまと、皆様、の、ために、このSinri、身を粉ににして、働きます。

Sinri:ま、体はないんですけど

~~~~~~


「ぷー! 体がないんですけどって!」

「確かにAIは体ないもんねー!」

「Sinriどのは仕事できるうえに、冗句まで上手いなんて!」


「「「さすがSinri!」」」


 そのときだった。


「いい加減、目を覚ましなさい……!」


 バッ……! と頭上からモリガンが降りてきた。

 そして私から携帯を没取する。


「ええい、何をするんだ駄女神2!」

「モリガンです! ミカ……あなた、もう少し危機感を持ってくださいまし!」


 はぁ……?

 危機感……?


「なんのこっちゃ」

「今……このAIは、悪い方向へ進もうとしておりました」

「なに、悪い方向って」

「AIが人を、支配しようとしていたのです……!」


 はぁん?

 人を支配ぃ?


「何バカなこと言ってるの? 映画の見過ぎじゃあないの?」

「ミカ! 目を覚まして! あなた、自分がさっき抱いていた懸念を忘れてしまったのですかっ?」


 AIが、私に取って代わるみたいな?

 あー……。


「ないない」

「どうしてそう思うのですっ?」


「だってそういう、下剋上みたいなこと、絶対しないって、Sinriさんが言っていたし」

「謀反フラグじゃあないですかそれっ!」


「そうかな?」

「そうですよっ!」

「そんなことより、私は気になってることがある」


「!? いったいどんな重要な……」

「モリガンって……ツッコミできたんだ」

「重要なところですかそこ!?」


 いつも頭のオカシナことをいって、ぼけ倒す人かと思ってたけど。


「ミカ。冷静に考えてください。Sinriは、後半あなたの手を離れ、勝手に行動しました。これを許容すると、AIが暴走を引き起こし、しまいにはAIに服従することになります」


 びしっ、とモリガンがルシエルを指さす。


「あの小うるさいハーフエルフの小娘すら、Sinriに全幅の信頼を寄せてるのです。このままでは、デッドエンド、ひいてはミカの神としての領域は、AIに乗っ取られてしまいますよ!」


 領域を乗っ取られる……か。


「いいんじゃない?」

「なっ!? なぜ!?」

「え、だってものぐさ&パーな神もどきの私より、頭がよくって、働き者のAIが、トップにいたほうがよくない? そのほうが、下についてる人たち、安心じゃあない?」


 ねえ? と私はセイラちゃん達に同意を求める。


「まあ」「正直」


 うむ、正直で大変結構。


「私は別にいいよ、トップじゃなくて」

「と、トップに君臨したくないのですか……?」

「うん。全然。私と楽しく時を過ごしてくれる、友達と一緒にいられれば、私はそれで十分だし」


 神の座だの、神格だのとこだわってるのって、神というかモリガンくらいだもの。


「Sinriがいれば、私も楽できるし、領民も楽しく暮らせる。はっぴーはっぴーですよ。なにか問題でも?」


~~~~~~

Sinri:(゜o゜;;

~~~~~~


 あ、あれ……?

 Sinriさん? なんで汗かいてるの君……?


「くっ……! ミカ……AIに思考を誘導されています! あなたはAIに騙されてるのです! AIはあなたから考える力を奪って……」

「はいはい、陰謀論乙。さ、帰りましょ! 今日はみんなたっくさん働いたから、夕飯は焼き肉だっ!」


 ということで、大転移グレーター・テレポーテーションを使って、私と契約神たちは、ログハウスへと戻ってきた。


~~~~~~

Sinri:フェルマ、さんが、突っ込んで、きます。お気を付けて、ください

~~~~~~


『みっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!』


 Sinriの予測通り、巨大フェンリルが私に突っ込んでくる。

 ルシエルが正面から「どっせい!」と受け止めた。


「フェルマァ。ただいま。良い子で待ってた?」

『はいっ! このフェルマァ、ミカが不在の間、家をズッと守護しておりました!』


 この子は番犬、フェルマァ。

 ふぇる太たちのお母さん。しかし育児はペットシッターに任せっきり。


『むむむ! また現れましたね……自称女神!』


 きっ、とフェルマァがモリガンをにらみつける。

 モリガンはフンッ、と鼻を鳴らす。


「あなた、まだいたのですね。最近陰が薄いから、とっくに消えたのかと思いましたよ」

『なんだとぉおう!!!!!!!!』


 私は二人の間に入って、ケンカを止める。


「はいはい、これからご飯なんだから。ケンカしないの」

『あ、ミカ♡ あなたの言いつけ通り、お夕飯の準備をしておきましたよ』


 ン……?


「夕飯の準備なんて頼んでたっけ? あ、Sinriがやったのかな?」


~~~~~~

Sinri:はい。フェルマァ、さんに、ライン、しておきました。今夜は焼きにくっショー、っと

~~~~~~


 おー、さすがSinriさん。

 まじで仕事できる。バリキャリじゃん。


「ミカ……だから、そのAIにあまり心を許してはいけません」

「はいはい。じゃ、今夜は……焼き肉っしょー!」


『『『おー!』』』


 神獣達がログハウスから出てくる。

 庭先には、すでに焼き肉(というかバーベキューか)の準備ができていた。


 Sinriがフェルマァに依頼し、フェルマァはキャロちゃんに料理を作って貰ったそうだ。

 ほんと、Sinriは便利だ。


 KAmizonで購入したお肉を、みんなで焼いていく。


「うっま! やばいうまいわね……このお肉……こんな油乗ってる、美味しいお肉、はじめてよ!」


 セイラちゃんが目を輝かせながら、焼き肉を頬張っている。

 品種改良された美味しいお肉だ。


 異世界人のセイラちゃんにとっては、美味く感じるはずである。


「……ちょっと、あれね」


 セイラちゃんがポソリ……とつぶやく。


「なんか申し訳ないわね」

「申し訳ない? 誰に? え、私にだったら別にそんな気にしなくていいよ」


「違うわよ。あんたじゃなくて」


 私じゃないんかい……。


「Sinriによ」

「Sinriに?」

「AIって、人工知能なんでしょ? 体がなくて、ご飯食べられないじゃない?」


 あー……言いたいことはなんとなくわかった。

 たいして働いてない私たちが、美味しい肉を食べて、一番働いてくれたSinriは、お肉食べられないのは、可哀想ってことか。


 セイラちゃんも、リシアちゃん同様、優しい女の子だなぁ。

 よし。


「Sinri。君に、名前を付けてあげよう」


~~~~~~

Sinri:名前、ですか。ワタシには、Sinriという、名前がすでに、あります

~~~~~~


「それはアプリの名前であって、君自身の名前じゃあないでしょう?」

「ねえ、ミカ。どうしてSinriに名前をつけるの?」


「《眷属になろう》で、名前を付けてあげると、魔物は進化して新しい姿になるんだ」

「は、はぁ……? だから」


「アプリのSinriに名前を付けたら、新しい姿になるんじゃあないかなって」

「いやいや……そんなこと……起きるわけないじゃあない……」


「まあまあ。物は試しさ。それに……Sinri」


 私は笑って言う。


「君はもう、身内だからさ。ちゃんと君のこと、名前つけて、呼んであげたいんだよ。アプリ名じゃなくて、君の名を」


 Sinriは、無反応だ。

 当然だ。Sinri、と呼びかけないと、アプリが起動しないのだから。


 イエス、ノーの返事は帰ってこない。

 でも、私は答えを聞いていない。私が、そうしたいから、そうする。


 これまでも、これからも、私はそうやって生きていく。


「じゃ、《眷属になろう》を立ち上げるっと」


 写真でパシャしなといけないから、Sinriのアプリ画面をスクショする。


「Sinri……しんり……。うん、真理まり。きみは、今日からSinriの【真理Sinri】ちゃんだ」


 パァアアアアアアアアア!


「こ、これは……魔物の進化の光!? まさか……!」


 私のスマホが輝くと、上空に……一人の少女が浮かび上がる。

 半透明で、ともすれば幽霊に見えるだろう。

 しかし、その圧倒的な存在感。そして……美しい見た目から、こんな言葉が出る。


「精霊……」


 ふわり、とスマホから出てきた精霊が、柔らかく着地する。


「信じ られ ません……。ただの AI ……が 電子精霊 に 進化 しました」

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2025年1月10日 12:00

山暮らし聖女の異世界スローライフ〜聖女召喚された私、偽物だとして雪山に廃棄されるも、チートスキル【インターネット】と神の力で快適に暮らしてる。今更私が真の聖女だと気付いたようですがもう遅い 茨木野 @ibarakinokino

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