6話 溶けて弾けて、溢れて
ナイトウォーカーの中には当然、人間に友好的な者もいる。留学生としてやって来たり、人間の領域で生きることを選ぶ者も少なくない。他にも居るのである、何故彼が重宝されるのか。
地位? それも
だが答えは彼の持つ血、その濃さである。
夜の国では純血か、混血か――これらが地位や力の強さを決める重要な要素なのだ。
混血種は混ざった血の数だけ力が薄まるが、その分だけ複雑な感情や、感性を得る。人間の領域で暮らすものの大半がそうだ。まるで人のように笑い、悲しみ、生きている。
反対に純血種であるが、吸血鬼、人狼、水魔が挙げられる。
神話達が夜闇の中混ざり合い、今やこの三種族のみが純血を維持し、夜の国を支配していた。
ライリーは混血とはいえど、血筋の純度が高く、かつ対話――意思の疎通が可能な貴重な存在なのである。
人間を資源や胎として見ているものが多い上位種の中でも、彼は人間との対話を楽しみ、理解を試みる傾向にあるのだ。
特に華やかな女性を好み、いつも違う女性を連れていることは有名な話である。
「なあ、先生」
「
だと言うのに、澄がしきりに同行者を気にする理由とは何か。
「……」
心なしか青くなった顔色――この歓楽街そのもの答えだった。
人体を変異させる薬物。グリモアが世界で最も
世界が覆る前はほんの小さな区域だった街は、今や都市と言っても過言ではない規模に成長を果たした『歌無城町』
かつての文字を歌舞伎町という。この街は欲望と悪夢の坩堝だ。
「――いや、僕だけじゃない。
僕だけじゃないんだ……誰にだってあれは悪夢だ。そうであるべきなんだ」
自分自身に言い聞かせるように、澄を安心させるように、夢梯は笑った。
「そっか」
微かに震えた声に気づかないふりをして、澄は夢梯と共に街を進む。
ネオンの光を潜り抜け、配管だらけの深部、それも裏通りだ。
「ネオンの誘惑は毒まみれの皮膚。なら配管は? 血管か。その先は? 腐りきった肉。
触れたら? 食べたら? もう終わり!
売ったり買ったり大忙し。無価値なやつもここじゃあ金さ」
どこからか歌が聴こえる。
「溶けて弾けて、廃人だらけ、どいつもこいつもろくでなし」
それを拾って現れたのは金髪の美女だった。
長い髪を結ってまとめ、赤いベストにパンツスタイル、ヒールを鳴らして絢爛豪華な賭博場の前へと歩み出た。
扉の前まで進むと彼女は一礼し、二人を出迎える。
「おはよ、レティさん」
「お久しぶりね、澄ちゃん。後ろの方は――はじめましてかしら」
「あ、ああ。はじめまして、夢梯舷佑と申します」
「
「舷ちゃん……?」
「あたしはレティ。レティ三矢元。
ここのディーラーよ」
「先生、レティさん男だから固まらなくていいよ」
「男……!?」
「あら、どうかしら?」
美女――もとい、レティは確かめてみる? と悪戯っぽく笑った。確かに背は170あるかないか――背の高い女性とも、細身で小柄な男性とも取れなくはない。服でうまく色々と隠しているのかも――病院に籠りっきりの生活、そうでなくとも夢梯の用な人間では凡そ関わることがないであろう世界に属するレティを前に困惑し、思考の海へ落ちていく夢梯。
きっと理解が追い付いていないのだろう、誂い過ぎた? 澄は肩をすくめてレティに目だけで語りかけると、彼女は手袋で隠された手を赤で彩られた口元へ持って行き、それに応じた。
「あの人に用事があるんでしょう? ここに来るって事は」
「いる? ってか今平気?」
「どうかしら。ウサギちゃんたちのスケジュールは今の時間は……
皆フリーね、イレギュラーがない限り」
「じゃ、いつもの部屋に呼んどいて」
「はぁい。先に鍵、渡しておくわね」
「ありがと。ほら、先生。
いつまで置物になってるの! 行くよ」
「はっ……あ、うん。
レティさん、また……あの、後程」
「ええ、またね」
――無事に帰れたらいいけれど。
私たちの未来がこんなに残酷で、無理ゲーなはずがない!出荷不可避な世界を生き残る方法 Bom-🧠寺 @bombrainbom
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