事実と妄想、現実と夢の境界を行き来する女子高生の成長物語
- ★★★ Excellent!!!
【紹介文】
主人公の視点で読んでいるといい意味で騙される作品です。一度読んだ後もう一度読むことをおすすめします。「ここはそういうことだったのか」と驚かされます。
特に終盤は読んでいると不思議な感覚に陥り、「この違和感はなんだろう?」と気になって次へ次へと読み進めてしまいます。
ジャンルとしては恋愛作品ではありますが、それ以上に一人の女子高生が自分の世界の殻を破る成長の物語でもあると思います。現実から逃げた彼女が現実に戻るまでを描いた優しい物語です。ぜひ読んでください。
【ネタバレあり感想文】
当初、ケイに無言で付いていくヤシマさん。
「こわっ!」と思うところを、心地いいと受け入れたのは不可解なことを好む感性を持ったケイちゃんだからなのかなと思いました。このカップルはこの二人でないと成り立たないだろうと感じる部分が多く、その唯一無二感を永遠に推しています。
この作品を初めて読んだ時はケイより年下だったのですが、大人になってから読むとケイのことを親目線で見てしまい、一巻では16歳の女の子が酷い目にあっていることが非常に悲しく、「シュウ、貴様……」と歯ぎしりしていました。でもケイがヤシマさんに助けられた時や、ケイがシュウに抱いていた優越感を知った時には切なく涙が出ました。ケイの人間臭いところがまた好きです。
そしてやってきましたケイの誕生日。
ヤシマさん、誕生日プレゼント花束!?おうち花屋さんだからなのでしょうが、花束をプレゼントするところがロマンチックすぎてむふふとなりました。
細かい胸きゅんポイントとしては『よく分からない話』を読み切るのがもったいないと言ったケイにヤシマさんが「いい。何年でも待ってる」と言ったところです。一体何年先までケイに会いに来る気!?と(この時点では付き合ってなかったので)いい意味でおののきました。さすがヤシマさん、ナチュラルに愛が重いぜ……。
そして『よく分からない話』に出てくる「男」はおそらくケイの本来の状況を暗示しているのかな……と思いますが、他の方の考察なども見てみたいところです。
ヤシマさんがかなり謎めいている+ケイ自身が色々誤解しているので初読時は「ヤシマさんは何を考えているんだろう。ケイの姉が好きなのになんて男……」と探る気持ちで読んでいましたが、二度目以降はヤシマさんを応援するような気持ちで読んでしまいます。一度読んでいるのでヤシマさんからケイへの激重感情は把握しており、ヤシマさんがケイを初詣に誘う場面では行け!オヤッシー!!とヤシマさんを全力で応援していました。
しかしそんな一途ヤシマさん、キスした直後に「もう二度と会いたくない」とケイにふられてしまう始末……。可哀想で可愛いです。私ならそんなに自分とのキス嫌だったかな?と不安になりますが、ヤシマさんはどうだったのでしょうか……。この後のヤシマさんの心境が気になりすぎて夜も眠れません。
途中からケイがシュウのことをすっかり〝あの人〟と呼び出すあたりで、じわじわ違和感というか、ケイの普通ではない部分が浮き彫りになってきて、ミステリー小説を読んでいるような感覚に陥ってきます。気になってページをめくる手が止まりません。
薬を飲んだケイが無意識に頼ったのがヤシマさんだったところが胸熱です。ヤシマさんがケイの世界を壊したシーンも胸熱です。「俺を頼れ、ずっと傍にいただろう」というセリフも胸熱です。ケイがヤシマさんに「ここから連れ出してください」と言うシーンも胸熱です。ラストスパートの怒涛の胸熱展開、映画三本観た後のような満足感に震えます。ありがとうございます。
最後にヤシマさんの目を見れるようになったケイに感動して拍手しました。
ユウさんの作品の主人公はどの女性もそうなのですが、ケイも例に漏れず「幸せになってくれてよかった」と思える主人公でした。
ヤシマ&ケイカップル、末永く幸せに――。
このカップルの家の壁になりたいです。
初読時はまだ12歳でした。書籍を全巻揃えて何度も読んでいました。
大人になってからカクヨムでこうして読めることを幸せに思います。
大人になって読むと、登場してくる言葉たちに当時とはまた違った感慨を覚えました。
誰しも現実から逃避するけれど、遅かれ早かれ現実には戻らなきゃいけない、というのは確かにそうですし、個人的には特に『よく分からない話』で男が女将に言われていた「嫌だと思っても帰らなきゃなんねぇのが家ってもんだろ。結局最後はみんな家に帰るんだ。帰るしかねぇんだよ」というセリフが今月家族に会わなければならない自分に響きました(笑)
マサムネの「人生楽しめよ!」も好きです。
ユウさんの小説は、必ずどこかに人の思いやりがあって、読後はいつも温かい気持ちになれます。素敵な物語をありがとうございました。これからもずっと好きでい続けます。