第三章 その日、その時 ⑤
「なあ、あの薬屋への拷問、パルムス様が独り占めしちまうのはずるいよな、せっかく若い生意気そうな女だ、俺達にだってちょっとくらい…」
「そんなこと言ってる場合じゃねえ!元老院の控室にも、本人の屋敷にもウェド・カークの姿が見当たらねえって話だ!」
「なんだって!」
「都に戒厳令が出された!兵士は一般家庭だろうが店舗だろうが自由に出入りして捜索できる!急げ急げ!」
「おい、金品は盗むなよ!営倉行きだぞ!」
「つまみ食いくらいいいだろう!?」
「知るか! 行くぞ!」
兵士たちは帝都中に散っていった。
「フム…」
その頃、パルムスは怪訝な顔をして宮殿内の厩舎にいた。
「我々が来たときには既に…ウェド・カークの愛馬アルファ号と黒鮫号、そして牽引される馬車も…」
パルムスは空を見上げた。日は既に陰り始めていた。
「仕方ない…今日はもう遅い。明日捜索隊を組んで城外(※)を捜索しよう。人員は帝都内の全兵力の三分の一までだ。今は皇帝陛下に加え第一皇子までが不在となっている。魔族、魔物や蛮族が都を狙ってくるかもしれない。警備を緩めるわけには行かぬ」
「はっ」
「兵士たちは今日のところは守備隊を除いて兵舎に戻せ」
―――
その頃、コンジェルトンとウェド・カークはアレニアの北東部、山岳地帯を馬車に乗って進んでいた。コンジェルトンはウェド・カークの弦楽器を借り、弾き語りをしている。
「このアニメの、あらすじを、キミだけに、おしえましょう。勇者の一行が、魔王を、やっつけて、都に、かえってきた。それが、はじまりです。そして~月日は~流れ~嗚呼~~」
ジャンジャンジャカジャンジャンジャカジャン…
「それはグラスランナー族の童謡”
「おめえさんが旅の途中でいつも歌ってたからな。覚えちまったのよ」
勇者ヒルメスたちの一行は、征く先々でキャンプをしながら魔王軍と戦っていた。夜は皆で焚き火を囲み、酒を酌み交わし、歌い踊ったものである。
「なるほど、理解度が高えな。さすがエルフ族は耳が良いってことか」
「思えば長く、過酷な旅だったな…。だが不思議と嫌な思い出は浮かんでこない…楽しかったことばかりだ…」
「ヒルメスは歌も楽器も達者だったな。それに比べてエイデンのやつは…」
「フフフ…、しかし、ずいぶんのんびりした逃亡劇だな。今頃都は大騒ぎだぜ」
「ああ、だがそろそろアレニアとウェリスの国境だ。ここからはちょいとばかり気を引き締めよう…」
しばらく進むと、前方に関所が見えてきた。ここを抜ければ第三皇子ガルフリードが国王として封じられているウェリス国に入ることができる。しかし、今やウェド・カークはお尋ね者である。その姿を関所の役人に見つかるわけには行かなかった。
※ 帝都アレニアをはじめとして大都市の多くは城壁都市である。
【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン 第一部 帝国の分裂 【完全版】 流刑囚 @kyotoishin
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