作者さんが元ライターの評論家とのことでそれなりに期待して読み始めました。
本作は広大な世界観や多層的なテーマを志向はしているという点では、作者さんの熱意が感じられる作品です。帝国の分裂、魔法、異種族間の対立といった要素が設定に盛り込まれており、作者さんなりに「大きな物語」を描こうという意図は明確でした。強いていうなら、設定とストーリーの粒度をもう少し揃えられれば良いかなと思いました。
導入部から中盤にかけてかなり説明が多めで、人物たちの感情や目的がふんわりとしたまま話が進むため、もう少し感情移入や共感をしたいなと率直に思いました。会話文もどちらかというと説明の補助手段としての側面が強めです。
設定面については、世界観の広がりや用語の創出に非常に熱が入っていることは伝わりました。魔法、宗教、帝国制度、異種族文化など、多くの要素が同時に登場する一方で、それぞれの関係性はかなりあっさりめです。また、固有名詞や造語についてはそれっぽい音や雰囲気を大事にしすぎる反面、いくらか意味が掴みづらいところはありました。
また、軍記ものとしての側面はもう一歩踏み込んで読みたいところだなと思いました。帝国の分裂という重大な事象に対して、社会的背景や内部構造がややあっさり描かれていたのでもう少し具体的な政治構造の裏付けで現実味や深みを感じたいなと思います。
全体として、設定資料集っぽい作品でした。設定を“背景”ではなく“意味”として活用する方向にすこしシフトすれば、深い物語へと成長していく可能性を秘めていると期待します。