違和感に気付いた方のみ読んで下さい




 

 祖母が亡くなってから1週間後、親戚の叔母の1人から連絡がありました。その叔母とは御葬式以来だったため、何だろう?と思いながらもスマホの通話ボタンを押しました



 

《もしもし、ごめんねぇ、急に》

「いえ、大丈夫ですよ?お久しぶりです」

《心配してたのよ、何だか御葬式の時は……ほら、様子がおかしかったから》

「…………」


 

 わざわざ、そんなことを話すために連絡してきたの?随分と暇なんだな、と笑ってしまいそうな顔をぐっと堪えて話の続きを待ちました。


 

《まあ、元気そうで良かった。あ、そうそう、ちょっと知り合いから凄い話を聞いちゃったのよ〜》

「すごい話?」

《ほら、貴方のおじいちゃんが入院していた病院あるでしょ?彼処、もしかしたらニュースになるかもしれない事件があったらしいのよ!》

「はあ……」


 

 私の声のトーンで、興味がないことが分からないのだろうか?ああ、違うか、ただ自分が話したいだけなんだろうな。私は心ここに在らずといった調子で、右から左に流しながら話を聞き続けました。


 

《なんか、いりょうよう麻薬?の間違いらしいんだけどね》

「…へぇ、じいちゃんが使ってたやつだ」

《え、そうなの!?》

「うん、使ってたよ。息が楽になるんだって」

《そうそう、それよ多分。その麻薬を規定量の10倍は投与しちゃった患者さんがいて、それが原因で亡くなった可能性が出て来たのよ!》




 《あ、可能性というよりも、ほぼ確定らしいんだけどね。ほら、うちの子、看護師してるでしょ?その友達から……》と、私の反応など気にせず叔母はぺらぺらと、やや興奮気味に話し続けます。


 

「何で今更、気付いたの?」

《それがね、その患者さんの死亡確認をした研修医が見ちゃったらしいのよ!規定の倍量に設定されてた機械を!けど、上の先生に黙っとけって言われてたらしいわ〜》


 


 《ドラマみたいよね〜!》と言いながら、ボリボリと煎餅を食べる音がスマホ越しに聞こえてきました。この話、いつまで続くんだろう、と思いながらも、私はTVを付けました。夕方のニュース番組が流れましたが、あまり興味の湧く内容のものはありませんでした。



 

《新人の看護師さんが、その担当だったらしいけど、ちゃんと訪室してなかったんだって。だから点滴チェックを怠ったんだー!って、うちの娘がカンカンに怒っててね〜》

「面倒くさい患者だったんじゃない?」

《ああ、そうかもね〜!》




 ……あの看護師さんは、よくやってくれたと思います。出勤日には必ず担当だった看護師さん。五月蝿い祖父の話を一生懸命に聞いて、頻回なナースコールに対して、無視することなく必ず来てくれました。けれど、心は疲弊していったのでしょう。最期の方では、祖父の血圧とかを測るだけの、必要最低限の関わりしかしていませんでした。


 


 だから、気付かなかったのでしょう。


 


 今でも思い出します。夜中に起こされて「苦しい、苦しい……!」と唾が出るほど怒鳴り散らかす祖父の相手をする毎日、痛み止めはこれ以上無理だと言ったら、テーブルにあるコップや雑誌を投げつけ暴れられて、けれど誰も、来てくれなくて。


 


 心の大切な何かが、徐々に擦り切れて、壊れていって何も感じなくなって。


 


 ある日、頭の中で何かが切れる音がしました

真夜中の2時、相変わらず苦しいと怒鳴る祖父の五月蝿い声を、これ以上聞きたくなくて、眠たくて、早くどうにかして寝たくて、気付いたら私は、点滴が繋がっている、チカチカと光っている機械のボタンを触っていました。






 聞いたことのない機械音と共に、薬の投与量が上がる光景は、今でも鮮明に覚えています。




 

 ピピっ ピッピッピッピッピっ






 そう、今でも鮮明に、覚えているのです。

 




 

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じいちゃん 辰砂 @Sinsyasan

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