わざわざ全世界に向かって憎しみの表明

肥後妙子

第1話 なーこれ(何これ)

 SNSに疲れを感じていたものの、その日の午前中にも私は習慣として☓のポストを見ていました。

 すると突然目に飛び込んでくる憎しみの言葉。

「自分を苦しめた相手には死にたくなるほどの苦しみを与えたい」的な文。

 あーそうですか。憎しみはみんな心の中に持ってますよね。でもなんでそれを私に?いきなりそんな文を見せられても怖いんですけど。っていうか、午後から出かける用事があって午前中にやらなきゃいけない事があるのに時間を使ってわざわざSNSを見て不快感を得ている私は馬鹿みたいじゃないですか。いや、馬鹿みたいというよりもう馬鹿じゃないですか。


 その時の状況をこう思ったんですよ。

 なーこれ(何これ)


ああ、やはりこうなるのか……。とがっかりしましたね。実は私、以前にも一度SNS疲れでTwitter(当時)をやめてるんです。でも、また始めたのには理由があります。

 好きなアーチストさんやマンガ家さん、ゆるキャラの皆さんが主に☓を使ってお仕事の情報発信をしているから、ファンとしては☓がないととても不便なんです。

 それでこのザマだ……。

 

 ☓に再挑戦する時に以前の失敗を踏まえて、なるべく追うポストを制限しようと決めていました。見るのはフォローしている方だけ、おすすめ機能は使わない、トレンドは無視!でもアカンかった……。


 前述した「苦しみを与えたい」的なポストは引用ポストとして相互フォローしている方が見せてくれてしまった(変な日本語)のです。その相互フォローさんは栄養学系のポストを時折していて、勉強になるのでポストがあれば見逃さないようにお知らせが来るようにしていたんです。相互フォローさんは引用した内容に同調したわけでは無く、ネタとして茶化すつもりだったようですが、この引用ポストは見逃したかった……。


 そんなこともあり、せっかくの面白いポストを見逃さないためのお知らせ機能を、オフにしました。オフにしたのはXを使う時間を減らすために名作絵画の投稿botとこの相互フォローさんの二つです。


 ところで「苦しみを与えたい」的内容のポストには15万近くのイイねがついていました。大バズりですね。でも、調べてみると日本のX利用者は6600万人を超えるそうです。その中の15万人弱……。多いかどうか分からんです。

 でも投稿した人は、自分の意見に共感する人がこんなに沢山いる!と思ってるのかなあ。


 ここからは私の考察というか、憶測になるのですが……。

 

 この「自分を苦しめた人間に死にたくなるほどの苦しみを与えたい」的な内容、その苦しめた本人に言ってやったぜ!というポストだったら、そんなにバズらなかったと思うんですよね。「自分を苦しめた人間に、お前が死にたくなるほど苦しめてやりたいって直接言ってやった!」というポストだったらおそらく、「ふーん」「そうなんだ」という感じの反応が多かったのではないのかと思います。「だから何?」とか言われそう。

 または、「自分を苦しめた人間を実際に死にたくなるほど苦しめてやった!」という内容をポストしたとします。それだと犯罪行為の告白の可能性があるので、速やかに通報されそうな感じ。


 つまり、憎しみのような負の感情をポストしてバズるのって、負の感情を現実にぶつけないで、あくまで自己の内面に入れたまま、いわゆるチラ見せ状態にしておいたからこそ件のポストはバズったんだと思います。

 

 では、なぜ負の感情はチラ見せ状態だとウケるのだろう、と私なんぞは思ってしまうのです。それは結局負の感情が、見せてはいけないことになっているけれど、誰にでも共感できるものだからではないでしょうか。負の感情は誰にでもありますし、共感するのはタダです。匿名ならイイねを押しても損をする可能性は低い。

 現実には「死ぬほど苦しめてやりたい」とむやみに言って歩いていたら不審者ですけどSNSを通せば本音を全世界に発表できてる人になれるんですね。


 でも、私にとっては負の感情なんて自分自身のものを見慣れているのでこれ以上イイよという感じです。十分間に合ってます。

 

 イイねを押した人達にとっては、負の感情を持っているのを見せてくる人は本音をはっきり表明している勇気ある正直者ように見える存在だったのでしょうか。憎しみを持たない人なんていないのに、憎しみをありがたがっているように見えてとても不思議でした。わざわざ見せられると新鮮に感じるのでしょうかね。

 だとすると、何を考えても自由だけど、それを表に出すのはちょっとひかえてほしいという要求するのは、そういう人達にとっては本音を発表している勇気ある人の行動に水を差す綺麗事としか認識されない気がします。


 あるユーチューバーの方が、SNSの数字は当てにならないとお話されていました。海外である有名インフルエンサーの方が講演をしたのですが、会場がガラガラだったことがあるそうです。


 なんかSNSって何なんだろうなあという感じです。X以外で純粋にアーチストさん等の近況報告やお仕事についてのお知らせにふさわしい仕組みのものができたらいいなあと思っています。

 

 以上SNSについてのボヤキでした。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

                           おしまい

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