第2話

「よし…いざゆかん、プールのはるか彼方!我らが夢に向かって走り出そうじゃないか!」


 そうだ。ここから始まるんだ。俺たちの夢が走り出す。こいつならきっと水の上だって走り切れる。俺は固く拳を握って優斗を見つめた。こいつの一世一代の大勝負、そのすべてを余すところなく目に焼き付けるために。


 プールの淵から足を延ばし、優斗はついに水面に振れた。モーターが起動する。水面を毎秒四回、秒速三十メートルでたたきつけるパワーを持ったその器具が作動する。そうして優斗はついに水の上を走り出し—。


 溺れた。



「よく考えたら当たり前なんだけどさ。その規模のモーター付けてたら重さも増えるし重心の位置やらも変わって最初の条件以上の動力が必要になるんだよな」


「うん、そうだな。俺もさっき水に踏み出した瞬間にそれ理解した」


 やっぱりこいつ馬鹿だ。そして俺も馬鹿だった。プールで優斗に肩を貸したままびしょ濡れになっている自分を認識して、俺はそう認めざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男子高生は水面走りの夢を見るか?めっちゃ見る さめしま @shark628

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る