第54酒:竜討祭4・十二使徒第9番目・冷閃のアレイスト。
教会は正式名称をゴルディアス真聖教会という。
世界三大宗教のひとつであり、信者数は世界最大だ。
この大陸でも帝国の国教となっていて、同じように国教指定している国は多い。
教皇。大聖女のツートップ。
その次に4人の枢機卿。
そして1名の大司教。複数の教区司教。9人の聖女。十二使徒。沢山の司教。沢山の司祭。もっと沢山の上級神官。もっともっと沢山の下級神官。
数え切れないほどの信徒だ。
シスターや修道士は下級神官の部類に入る。
十二使徒。
武闘司教や司祭。神官戦士といった教会戦力の最高位である。
心・技・体に優れた選ばれし十二人しか成れない。
神の祝福を受けた黄金の鎧を身に纏う。ゴルディアス真聖教会の最強戦力。
冷閃のアレイストは十二使徒の第9番目の使徒である。
彼は典型的な教会人間だった。
信徒を見下し、女子供を見下し、冒険者を見下し、庶民を見下す。
十二使徒としての実力が申し分ない為、彼はそれらが全て許されていた。
もちろん。彼は自分が最強とは思っていない。
彼より強い十二使徒もひとりやふたりじゃない。
それでも彼は自分が強者側だと疑わなかった。
だから見た目どうみても木っ端チンピラの雑魚なんか一瞬だ。
「おせえ」
冷閃剣を絶対零度の一撃をアレイストは常人では到底見えない速度で放った。
だがそれは常人ならである。
所詮は亜光速ならまだしも音速にすら達していない速度。
ヘンリーにとっては止まって見えた。
「ごぱあああああぁんんんっつつっっっっっ!!!???」
アレイストはヘンリーに顔をぶん殴られた。
大絶叫で厨房の分厚い壁を派手に突き抜け、中庭で盛大に転がり、外壁に当たる。
「ふぁ、ふぁ、ふぁんは…………?」
歯が折れて頬は腫れてうまく喋れない。
アレイストは急いで腰のポーチから聖霊水を出した。
飲むと頬と歯が元に戻る。
ハイポーションとファイナルポーションの中間に当たる回復薬だ。
「相変わらず妙なもん飲んでんなぁ。酒を飲め」
「貴様はいったい何者だ」
「ヘンリーだ」
「―――認めよう。貴様は強い」
アレイストは立ち上がるとポーチから何か取り出した。
「あ?」
「だから必ず殺す」
取り出したのは青白く光る水晶だ。それが割れると眩い光がふたりを包む。
ふたりの姿が消えた。
ヘンリーは気付くと、山の中にいた。それも火山である。
真っ黒いゴツゴツとした岩の地面。
溶岩がグツグツと沸騰しながら河のように流れ、遠くで噴火の音がする。
空には火竜が群れで飛び回り、溶岩の中から六つの大きな瞳がふたりを見ていた。
あちらこちらから黒い煙が吹きあがっている。
端的にいえば地獄だ。この世に現存する地獄の光景である。
「転移水晶か。チッ、なんだよ。酒がねえじゃねえか」
言いながら高級貴腐ワインをラッパ飲みする。
「ここならば誰にも邪魔されず貴様を殺せる」
アレイストの頭には黒く曲がった角が生えていた。
黄金の鎧も黒い禍々しい何かに浸食され、右手に妖刀の冷閃剣。
左手に赤黒い眼玉がズラリと並んだ脈打つ生きた醜悪な魔剣を手にしていた。
ギョロリとヘンリーを見ている。
「おいおい。十二使徒がしていい恰好じゃねえぞ」
アレイストの背にコウモリに似た翼が生えた。
「死ネ」
シンプルに言うと突っ込んできた。
亜音速でヘンリーの眼前に迫ると絶対零度の剣撃と赤黒い闇の剣撃をクロスに放つ。
「だからおせえ」
ヘンリーはクロスされた二つの剣撃のたった一瞬の交差点を剣で突いた。
たったそれだけでアレイストは吹っ飛んだ。
「!?」
「よっと、ノーベンバー」
11重撃をアレイストの醜悪な魔剣に叩き込んで破砕する。
更に踏み込んで、渾身の一撃をアレイストの胸に撃つ。
「ゼス・スラッシュっっ!!」
重い一撃が黄金の鎧を破砕し、アレイストは溶岩の河に落ちた。
ヘンリーは剣を仕舞って、ぼやく。
「あ? ったく、どこな」
「いったいどこなんだよここは!?」
「ん? 今の声は」
振り向くとテリが居た。
黒髪ショートがややおかっぱになっているテリ=マルタンだ。
淡いピンクのボタンて留めるタイプのワンピース姿で可愛い私服である。
テリもヘンリーに気付く。心底から嫌な顔をした。
「オッサン! ここはいったいどこなんですか!?」
「なんでおまえが居るんだ?」
「それは、その、休みなんですよ。それで最近まったくツイてないので礼拝しに来たんです。そうしたら最悪なことにオッサンとディンダさんとルークさんと、あと悪趣味な金ぴかが居て、それなら気になるじゃないですか。だからこっそり後をつけて、そうしたらなんか青白い光でピカっとして、気付いたら此処です。ここどこですか地獄ですか!? もう地獄としか思えないんですけど! なんで私はいつもこんな目に合わないといけないんですかっ!」
「いや自業自得だろ」
「それはそうですけど、それでもこんな展開は予想しないですよ!」
「それもそうだな。まぁとりあえずあっちから酒の匂いがするから行くぞ」
「酒の匂い? そんなのしませんよ?」
「する。こっちだ。来い。ちっこいの」
「あっちょっと、なんか強いのとか怖いのが出たら倒してくださいね!」
「いいから行くぞ」
かくしてヘンリーとテリは火山を行く。
一方その頃。ジークフォレスト聖堂。聖女の部屋。
「……ルークっスか」
「久しぶりだね。レリア」
ホークの集い最後の仲間。レリアと再開を果たした。
酒浸りのろくでなしオッサン、絶対に働かないと言ったら妹に村を追い出されたので旅に出る。 巌本ムン @takaom
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