第5話

千歳が引き戸を引いた。中の会話が突然とまる。温かい空気が廊下に漏れ出した。座敷が二つ、奥に向かって並んでいる。奥のほうに仏壇があり、そこにぐるりと三人の男女が集まっていた。祖母と琴美さん、それからおれの弟の修(おさむ)だ。


「おばあちゃん。ラッキーはこの家の犬やけん、美津子さんたちの好きにさせんしゃい」


 千歳が琴美さんに言った。琴美さんが不満気に顔をしかめている。彼女は千歳の祖母だ。おれの祖母である美津子の妹なので、おれにとっては大おばになる。なのでもちろん祖母は千歳にとって大おばになる。つまり、おれと千歳はまたいとこ同士だ。

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酒田青 @camel826

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