第4話

「おい(おれ)も知らんやった。夜中、仕事上がりに帰ったら、ラッキーが死んだて知らされた。夜中やったらお前、寝とるやろ? 今日教えればよかと思うて……」


 そこまで言うと、千歳は黙って歩き出した。おれは彼女の歩き方に合わせてゆっくり歩を進めた。もうおれの家はすぐそばだ。


 一軒家で、小さな庭がついている比較的新しいおれの家は、少し離れた隣家に比べて一際陰気であるような気がした。多分錯覚だろう。玄関のポーチに入ると、千歳は慣れた様子でドアを開けた。おれもそれに続く。


「こんにちは」


 一応挨拶をしているが、入りながらだ。千歳は人の気配がする仏間の引き戸に手をかけ、耳を澄ませていた。


「あんた犬のためにそこまでせんでもよかやんね」


「今は犬も人間並みの時代よ。おかしかことでもなかろ?」


「うちは全くわからん。犬のためにそがんお金かけんでよか」


「あんた、他人んちのことやんね。あんたにしろと言うとるわけやなかとよ」


「犬なんてそこらに埋めときんしゃい」


「昔やなかとよ。そこらに埋めたら顰蹙(ひんしゅく)買う」


「あんたねえ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る