第6話

▶第3話のシナリオ



◼️場所(寮/リビング)


ソファーの上で風呂場で出くわしたことを思い出し、恥ずかしくて真っ赤になるみちる。(しっかり服を着ている)


みちる<最悪……!!>


風呂から出たハルカが、メガネをかけ、腰にタオルを巻いた状態でみちるの前に現れ、気まずそうに声をかける。


ハルカ「……あの、みちるさん」

みちる「なによ……って、服を着なさい服を!!」

ハルカ「ああ、すみません、すみません」

みちる<なに考えてるのよ!! バカ!!>


慌てて服を着るハルカ。


みちる「……それで、どこまで見たの?」

ハルカ「み、見てませんよ! ほ、ほら、その湯気でよく見えなかった……っていうか、俺、視力悪いんで!! コンタクト外してたんで、ほとんど見えてないです!!」

みちる「そ、そうなの……?」

ハルカ「そうですよ! っていうか、みちるさんの方こそ……その……」


ハルカ服を着終わり、みちるの前で土下座する。


ハルカ「あんな粗末なものを見せて、すみませんでした!!」

みちる「そ、そま……っ!?」

みちる<何言ってるの!? 粗末なものって……ご立派————ええい!! 何を考えてる私!!>


みちる真っ赤になって首を振り、咳払いをする。


みちる「私も、悪かったわ。確認しないで入っちゃったし……と、とにかく、こういうことはその……二度とないように! ね、だから、その顔上げて」

ハルカ「ごめんなさい。本当に……すみません……」


ハルカゆっくりと顔をあげ、みちるを見上げるが、みちるを直視できずに顔を真っ赤にして、背ける。


みちる<いや……何この反応……顔真っ赤だし……泣きそうになってない?>


ハルカ「そ、その……あの、あまり見ないでください」

みちる「なんで?」

ハルカ「だ……だってその…………俺……」

みちる「?」

ハルカ「と……尊すぎます」

みちる「えっ?」

ハルカ「ファン……なんです。みちるさんの……だからその、あまり、見ないでください。推しに見つめられるとか、無理です……っ」


みちるが目を合わせようとすると、ぎゅっと目を閉じて見ないようにするハルカ。


ハルカ「やめてください……! 恥ずかしいんで……見ないでください!!」

みちる「いやいや、だって信じられなくて……本当に?」


みちる<な、何この生物……なんか可愛いんだけど>


ハルカ「本当です! 俺、デビューする前に何度か練習が辛くて逃げ出そうと思ったことあって……でも、みちるさんの歌ってるの見て……元気もらって…………それで、その……」


ハルカ急に立ち上がり、自分の部屋に行くがすぐに戻って来てみちるのサイン入りCDを見せる。


ハルカ「握手会にも行きました……覚えてないと、思いますけど……」

みちる「あ、あぁ……ありがとう」


みちる<全然覚えてないわ……!>


ハルカ「その……なので、あまり、俺を見ないでください。俺のことは、置物だと……その辺にころだってる石だと思ってくれていいので!」

みちる「いや、そこまで!?」

ハルカ「ととととにかくですね!! えーと、お風呂、どうぞ。空いてます。あ、でも俺の後とか嫌ですよね!? 掃除してきます!!」


風呂場に行こうとするハルカを、慌てて止める。


みちる「大丈夫だから。ありがとう」


ハルカの様子が面白くて笑ってしまうみちる。

ハルカみちるの笑顔を直視してしまい、腰が抜けたようにヘナヘナとしゃがみこむ。


ハルカ「俺を殺す気ですか? やめてください」


みちる<あらら……これは、重症だわ。でも……こんなに私のことを推してくれてる人に会ったの、初めてかも>





◼️場面転換(寮/ダイニング(翌朝)


ダイニングテーブルの上に朝食(ごはん、味噌汁、卵焼き、焼き魚、きゅうりの漬物)が置かれている。

『昨日のお詫びです』と書かれたメモを見ながら、みちる朝食を食べる。


みちる「美味しい……」

みちる<歌もダンスも私よりできて……その上、朝食まで作れるの? この卵焼きおいしすぎるんだけど>


テレビをつけると、朝の生番組にハルカの姿が映る。


みちる<……本当に、別人ね>


昨夜のハルカの様子を思い出して笑うみちる。


みちる<私も騙されたけど……まさかハルカが女装男子だったなんて————>


画面を羨ましそうに見つめていると、今年一年の音楽ランキングのトップ10内にハルカの曲が3つも入ってる。

みちるは悔しくて箸を折る。


みちる<去年は私も入ってたのに……!!>


スマホに矢作から今日の練習メニューが送られてきた。


みちる<ボイトレにダンスもあるのね……ふん……やってやろうじゃないの!!>

みちる「見てなさいよ! 絶対、このまま負けたままでなんていないんだから!!」

みちる<女装男子に、本物の女子が負けてたまるもんですか!!>




◼️場面転換(練習室→廊下)


汗だくで仰向けに倒れこんでいるみちる。


みちる「鬼だわ……鬼コーチ……さすが……大手事務所ね……はぁはぁ……」

みちる<前の事務所じゃ、こんなことなかった……。オーディションで受かったあと、ちょっとだけ練習みたいなことして、そのあとすぐデビューだったし……>

みちる「天才だと思ってた自分が恨めしい」


無理やり体を動かして、這いつくばって部屋の隅においてある荷物に手を伸ばす。


みちる<ダメだ……喉乾いて死にそう。自動販売機って……あったよね?>


起き上がって、練習室のドアを開けると、見覚えのないスポーツドリンクが置いてある。


みちる<ん? あれ……?>


通りかかった事務所スタッフ二人に尋ねる。


みちる「あの……これって……」

スタッフA「ああ、それね、ハルカちゃんから」

みちる「ハルカから?」

スタッフB「ちょっと! それ言っちゃダメだってば……」

スタッフA「えっ……そうだっけ?」

スタッフB「恥ずかしいから言わないでって、言ってたじゃない。ごめんね、知らなかったことにしておいてあげて!」


スタッフ二人去って行く。

みちる、喉の渇きに耐え切れずにペットボトルを開けて飲む。


みちる「美味しい……」




◼️場面転換(寮/リビング/夜/外は雨)


ソファーに座り、テレビを観ているみちる。


みちる「遅い……まだ収録終わらないのかしら」

みちる<お礼言いたくて待ってるんだけど……>


チャンネルを変えると、ハルカが出ているCMが流れる。


みちる「あ……これ、去年私がやったやつ……」

みちる<本当、全部、ハルカに取られてるな……>


悔しく思いながら、慣れない練習の疲れでつい眠ってしまうみちる。

リモコンが床に落ちている。

そこへハルカ帰宅。


ソファーで寝ているみちるを見て、持っていた鞄を落としそうになる。


ハルカ<危ない……!! 起こすところだった>


ハルカそっと鞄を床に置き、ブランケットをみちるにかけようと手を伸ばす。


ハルカ「……っ!」

ハルカ<ダメだ……恐れ多くて直視できない>


ハルカ顔を背けて、ぎゅっと目を閉じながらブランケットをかけるが、リモコンを踏んでしまい、驚いてバランスを崩す。

みちるに覆いかぶさる形になる。

みちる、目を覚ます。


ハルカ「あ……」

みちる「え……っ?」


その瞬間、雷が落ちて停電になる。



(第3話 おわり)

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HARUKA〜美少女アイドルの正体が女装男子とか聞いてない〜 星来 香文子 @eru_melon

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