家族とは何でしょうか? 血のつながり、長い時間を共に過ごした記憶、それとも……何か別の力によって形作られるものなのでしょうか。『家族怪議』は、地方の小さな村を舞台に、そんな家族の境界が曖昧になっていく不気味な物語です。
駐在員である主人公は、毎朝のように助けを求めてくる老女・美子に困惑しながらも、次第に彼女の言葉に違和感を覚え始めます。そしてある嵐の夜、彼女を家へ送り届けた時に目の当たりにするのは、常識では説明できない光景でした。仏壇の前に並ぶ遺影と同じ顔をした人々。彼らはまるで生きているかのように振る舞い、主人公すらも家族として迎え入れようとします。
最初は戸惑っていた主人公も、やがてその場にいることを疑問に思わなくなり、いつの間にか美子の姿は消えてしまいます。そして、残された言葉――「私たち、家族じゃない」。
この言葉の意味は何なのか? 本当に“家族”とは、何をもって成り立つのか? じわじわと記憶を曖昧にし、気づけば読者の心にまで忍び寄るような静かな恐怖が、この作品にはあります。読み終えた後、自分の身の回りの風景さえ少し違って見えてくるような、不思議な感覚が残る物語です。