王女の帰還
六法全書を買い戻した俺は、その重みを手の中に感じながら、ローズにその力を熱弁し始めた。特に刑法の素晴らしさについて、悪人をすぐに裁き、牢獄送りにできることを強調した。俺の言葉にローズは目を輝かせ、心底驚いている様子だった。
「本当にそんな力があるの? アラン、あなたはただの人じゃないわね。これは、すぐにでも王宮に戻って報告しなければ……」
ローズは少し興奮気味に言った。彼女の決意は固まったようだ。俺たちは王宮へと戻ることになった。だが、そんな簡単なことでは済むはずがないと、俺の中には不安がよぎった。
王宮に到着すると、予想通り俺は衛兵たちに取り囲まれた。剣を構えた衛兵たちに両手を押さえ込まれ、まるで犯罪者扱いだ。ローズが必死に弁解しようとするも、彼らは耳を貸さない。
「王様に面通しする。下民が勝手に王女を連れ出すなど、許されることではない!」
俺は何も反論できないまま、強引に王の間へと連れて行かれた。巨大な扉が開かれ、そこに現れたのは玉座に座る王の姿だった。彼の眉間には深い皺が刻まれ、怒りを露わにしている。大広間の空気は重く、威圧感に満ちていた。
「貴様が、我が娘をさらった犯罪者か!」
王の鋭い声が広間に響き渡る。俺はその声に一瞬たじろぐが、すぐに落ち着きを取り戻し、ローズが横で何かを言いかけるのを静かに待った。
「お父様、違うのよ! アランは悪人を捕えるすごい力を持っているのよ!」
ローズは必死に訴えるが、王の表情はますます険しくなるばかりだ。
「そうだとしても、下賤の者を取り立てるわけにはいかない。身分の違いは明確だ。国の秩序を乱すことになる!」
その言葉に俺は咄嗟に動いた。これ以上、言葉だけでは通用しない。俺は懐から六法全書を取り出し、刑法ではなく、憲法のページを開いた。まるで自分でも意識しないまま、本能が導くように指が動いたのだ。
俺の指先が止まった場所――そこには、こう書かれていた。
「すべて国民は、法の下に平等であって、社会的身分によって差別されない」
俺の声は広間に響き、静寂が訪れた。周囲の空気が一変したのを感じる。すると、俺の手の中にあった六法全書が、淡く輝き出した。
書物の具現化。
まさにその力が発動したのだ。俺の言葉が、具現化した憲法の力として王に影響を与える。そして、次の瞬間、王の険しかった表情がゆっくりと和らいでいくのが見えた。
「……法の下に、平等……か。確かに、そうだな」
王は深く息を吐き出すと、重々しく頷いた。
「貴様の力、そして法の精神……今、この国に必要なものかもしれん。貴様を認めよう。だが、ローズを守ることができるのか?」
俺はその問いに真剣な表情で答えた。
「もちろんです。俺はこの『書物の具現化』の力を使って、悪を裁き、国を守る。そして、誰もが平等に暮らせる世の中を作るため、ヒーローになります!」
俺の宣言は広間全体に響き渡った。王は再び頷き、俺に向けて手を差し出した。
「よかろう、アラン。貴様の力、しかと見届けさせてもらう」
こうして俺は、王の認める「ヒーロー」としての道を歩むことを決意した。これからの道のりが険しいことは分かっている。それでも、俺にはこの六法全書と「書物の具現化」という力がある。悪人を裁き、国の平和を守るため、俺は歩き出す。
文章を具現化する力でヒーローに〜六法全書?売りましたが何か?〜 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。