無題
蠱毒 暦
エッセイを書いた事がない奴がエッセイを書いた結果
思えば…『恥の多い生涯を送ってきました。』
太宰治の代表作 『人間失格』より。
01
シェイク。誰しもが一度くらいは飲んだ事がある冷た〜い飲み物。高校生のとある夏に父に某ファーストフード店へ連れられてまさに今、私は人生初のシェイクを飲もうとしていた。
「……」
…飲みにくい。味とかは普通に美味しいけど、給食に出ていた牛乳パックに付属していたストローを軽く噛んで飲む癖がある私にとって…それはかなりの難敵だった。
「美味しいね!」
「う、うん。」
父のシェイクは半分以上無くなっているのに私のはと言えば、ほぼほぼ減っていなかった。
(待たせちゃうのも申し訳ないし……っ!?)
瞬間、私の脳に電流が走った。
何をストローで飲む事に拘っているんだ。こんな飲み物。フタを開けて、直接飲めばいいじゃないか!
私は…内心、自分の才能が恐ろしいなとほくそ笑みながら、シェイクのフタを開けた。
——ブツッ
ここから何故か開けた後の記憶がないが…気がつけば、私のシェイクの中身が机全体に盛大にぶち撒かれていて…証拠隠滅をするべく、必死に机を小さいハンカチで拭く私に気づいた父が必死に笑うのを堪えながら、店員さんを呼んてくれていたのだけは…覚えている。
その後。無茶苦茶、家族に爆笑された。
02
——絵は、好きか?
そう言ってよく笑う人だった。
岡山にいる母方の祖母が亡くなった。
「……え。」
怪我もなくいつも通り、憂鬱な高校から帰って来た私は、父の言葉を聞いて…絶句した。
詳しく話を聞いてみると、どうやら今猛威を振るっているコロナウィルスの所為ではなく、天寿を全うした…そうだ。
普段は明るい母も、気丈に振る舞ってはいたが暗い表情をしていたと思う。葬式はコロナウィルスが落ち着くまでは延期になった。
ショックではあったけど…100歳以上も生きたのだから仕方がないと割り切ろうとしたけど。
入浴中にあの言葉が脳裏に過ってしまい…泣いてしまった。
泣き言は割愛する。みっともなく後悔をただ永遠とブツブツと呟くだけだったから。その結果で普段、早風呂な私がこの日は長く浸かりすぎたんだろうな。
「……?」
どうせ鼻水だろうと腕で拭うと、腕が真っ赤に染まっていた。
「……っ!?」
浴槽に血が落ちないように、急いでお風呂から上がって、頭や鼻をシャワーの冷水でひたすら冷やす。
「…なんで…ああもう、悲しんでたのに!!」
この突発的なトラブルに、よくないとは分かっていても何故か笑ってしまう。だって、祖母に「こんな事で悲しむな」 と言われたみたいだったから。
03
コロナ禍での大学受験 当日。
筆記試験や面接といった誰しもが緊張するであろう、人生における一つの節目とも言えるイベント。
だが私は不思議と恐怖も…緊張感もなかった。ここに来るまでに、他にも色んな事があったからなんだろうか?確かに沢山の試練があったのは認めるが…これに関しては違うだろと心の中で今の自分にツッコミを入れた。
チャッコ、チャッコ。
「エレベーターはこっちにあります。」
「あ、どうも。」
ピシッとした服装の受験者でひしめく中、ただ1人、ダボダボの高校指定の緑色のジャージを着て、心なしか体調が悪そうな表情を浮かべながら松葉杖で歩く怪我人。てか、最早変人。
それが…私だった。
グリーン?フフッ…それは我が忠誠の名前。
……な訳がなく、ただの汚名である。
私の人生において2度目の十字靭帯損傷。しかも体育のバトミントンで運動が苦手な癖して、つい気分が乗ってバックステップを決めようとしたらこれだ。
しかも、受験日当日の4ヶ月前にやらかしたのもタチが悪い。一度、手術をしようという話が持ち上がりはしたが手術の後遺症の事を考えて、自然治癒の方向で落ち着いた。
でもそのお陰で、今まで怠けていた学業に必死に手をつけてクラス内では真ん中以下だった順位が2位まで伸び、学年順位では30位くらいまで上がった。これが本当の『怪我の功名』って奴なのだろうか?
「体調はどうですか?」
「え、はい元気です。」
……嘘である。実は受験日の数日前にコロナウィルスでダウンしていて昨日の夜、母に頓服薬を飲まされて無理矢理、熱を下げてやって来たのである。体が少し怠く、喉には違和感があって喋りにくいが…ここまで来れば、ただの些事である。
恐らく人類史上初、クソダサジャージ&松葉杖&コロナの3連コンボでの大学受験。読んで字の如く、極限の戦いにして…私の完全必勝パターン。
だからもう何も怖くなかった。ここに来るまでに既に、大学受験のプレッシャー以上の羞恥心や病で塗り潰されている私には。
指定された面接会場の階に到着して、ゆっくりとエレベーターの扉が開く。
——結果は、ここで語るまでもないだろう?
了
無題 蠱毒 暦 @yamayama18
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