最終話
「叔父上も同じことを考えておられたとは」
「ヒルス帝国との戦は避けられそうになかったからな。しかしあの火をおこす魔道具が武器として役に立たんとは」
「シャルルド子爵も同様でしたよ」
「あの小物子爵がか!?」
「屋台で大量に購入しようとしたら断られて、それで直接ハルトシの許を訪れたようです」
「ハルトシとはあの屋台の店主のことか?」
「ええ。お会いになられましたか?」
「儂のことを一目で貴族と見抜きおったわ」
「まさかご身分を明かされたので?」
「いや、さすがに市井で公爵家を名乗るわけにはいかんからな。濁しておいた」
王都ファーガスの王城の庭で、国王シミオン・ファーガス・ラビレイと彼の叔父、アリアノール・クリント・スマイサー公爵は二人だけの茶会を楽しんでいた。もっとも給仕係のメイドと二人の護衛が周囲に控えている。
「儂はヒルス帝国との戦にもあの店主が絡んでいたのではないかと考えておる」
「ハルトシがですか? 確かに合点はいきますが、アレは戦争を忌避しておるのですよ」
「ならばなおさらだ。敵味方双方で出た犠牲者の数は王国史上まれに見る、いや、恐らくこの世界全体で見ても少ないだろう」
「言われてみれば戦いそのものも一日もかからずに決してしまいましたね」
「帝国の侵攻は止めようがなかった。戦争を忌避するというのであれば、いかにして短時間で最小限の犠牲で終わらせるかと考えるはず」
「今思い出しましたがハルトシは以前、我が王国そのものを滅ぼすほどの兵器もあると申しておりました」
「なんだと!? それが真の言だとするならば、敵将のみを狙い討つ何かがあってもおかしくないとは思わぬか?」
「彼はこうも言っておりました。王都民の数を一人単位での数字も出せると……」
「どうだ、儂の推測もあながち間違いではなさそうだろう?」
「叔父上のご慧眼、恐れ入ります」
「うむ。ならばあの店主との敵対は愚策。そんなことをすれば国が滅ぶぞ」
「肝に銘じておきましょう」
二人の茶会はその後もしばらく続くのだった。
◆◇◆◇
「
珍しく
夕陽に染まる王都の街並みはより一層オレンジ色を濃くしており、俺はこの世界に来て初めてそれを美しいと感じていた。恐らくそんなことを考える余裕もなかったのだろう。
「何がだ?」
「シャルマン子爵のことだよ」
「ん? アイツがどうした?」
「いや、お前の言葉で処刑されたようなものだから凹んでるんじゃないかと思ってな」
「なんだ、そういうことか」
「そういうことかってお前……」
「正直に言うと猛暁の言った通り多少は堪えてるさ。デルリオ男爵は使用人を救えたとはいえ一族は根絶やしにされたからな」
「あ、ああ……」
「しかしシャルマン子爵は些細なことで平民を何人も無礼討ちにしている。当時は男爵だったデルリオが寝返りを実行していたら多くの兵士は死んでいただろうし、王国民は帝国に蹂躙されていただろう」
「まあ、そうだな」
「前にも言ったと思うけど、俺は百人を救うために一人の命を奪うのが正義とは考えない。だから俺のしたことは決して正義ではないだろう。でも苦しまなくていい人が苦しまずに済むなら甘んじて悪の
「そっか。遙敏お前、かっちょいいな」
「かっちょいいとか言うな」
俺は寿命や病気以外で人が死ぬことを忌避する日本人だ。しかし俺たちが飛ばされたこの国は封建制で成り立っている。つまり君主たる国王の言葉一つで人々は生かされ殺されるのだ。人が死ぬのは見たくない、嫌だと言っていたら、いつか自分が殺される側に回ってしまうかも知れない。
だとすればだ。デルリオ準男爵の逆心を国王に伝えた結果、準男爵家は取り潰されたが王都邸の使用人の命だけは救うことが出来た。その使用人の息子には横暴なシャルマン子爵から命を救われる結果となった。これが因果応報と言わずしてなんなのだろうか。
そう考えることで、俺は心のバランスを保つことにしたのである。
「ま、オレも洋平もお前と一蓮托生だと思ってるからな。お前が地獄に堕ちる時にはオレらも一緒ってことだ」
「
「ったりめえよ! さ、可愛い嫁さんといちゃこらしに戻ろうぜ」
「ああ。まだ嫁じゃないけどな」
心強い仲間たちだ。そう思うと力が湧いてくる気がする。俺も猛暁も洋平も、すでに元の世界に帰るのは諦めた。いや、むしろもし帰れることになっても帰ろうとは思わない。俺はロイレンとブリアナを悲しませたくはないし、猛暁もアレリを置いていくことなど考えていないと言っていた。洋平は厨二病の重症患者である上にあの性格だから明確に帰らないと断言している。
だから俺はこれからもこの世界で生きていくと心に決めたのである。そしてその夜、俺は初めてロイレンとブリアナを抱いたのだった。
〜fin
――あとがき――
ご愛読ありがとうございました。
男三人で異世界転移。〜物質転送装置で何でもお取り寄せ。よ、嫁さんも!?〜 白田 まろん @shiratamaron
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