第2話
2 憑依体験『風鈴』
みなさんには苦手な音はありますでしょうか?
今回は『音』にまつわる話です。
桔梗さんは風鈴の音が好きでしたが、旦那さんの買ってきた風鈴の音だけは好きではありませんでした。
旦那さんの買ってきた風鈴は鉄製で、少し高い音がしました。
その音を聞くと物悲しく、寂しい気持ちになりました。
ある日、桔梗さんが自宅でご先祖さんのお供えのお水を替えているときでした。
お仏壇はありませんが、義父母がお花とお水をお供えしていました。
急に呼吸が苦しくなり、ぜぃぜぃと息が途切れ始めました。
そして頭の中に映像が映し出されました。
桔梗さんは昔の時代の女の子の姿です。
名前は仮に『アキ』さんと呼びましょう。
アキさんはお武家さんのお家で生まれた二番目のお嬢さんでした。
身体が弱く、特に呼吸器の病気になってしまったので空気のきれいなところで養生するようにと、親戚ではないけれどもお付き合いのある大きな農家のお屋敷に引き取られました。
その時九つか十の歳でした。
農家のご夫婦はアキさんのご両親に恩義がありましたので大変親切にしてくれました。
アキさんに離れを支度し、何不自由なく暮らせるようにしてくれたのです。
月日が過ぎ、アキさんは十五歳になっていました。
アキさんは実家に帰ることもなく、また両親が会いに来てくれることもなく一人離れで暮らしていました。
アキさんの生活費として両親は支払いをしてくれていましたので、食事は農家のご夫婦が調理番に言って準備をお願いして上げ膳据え膳。
アキさんは年頃になっても働くことなく、ただ生きているだけでした。
夏の夜、縁側の戸にもたれかかりながら暗い庭を眺めています。
チリーン…リーン…と物悲しく鉄製の風鈴の高い音が響いています。
アキさんの心は空っぽでした。
家を出るとき、お母様から手渡されたきれいな手毬が心の支えでした。
お家に帰りたい、お父様お母様に会いたいと、働くことも外へ出かけることも出来ない自分が生きている意味を考えながら寂しく過ごしていました。
そのうちお料理を運んできてくれる人の冷たい言葉も聞こえてくるようになりました。
いくら農家のご夫婦が親切でも、長期にわたるとお世話をしてくれる人の不満も態度に出てきます。
その後、呼吸が苦しくなり床に伏してしまったアキさんは十七歳で空へ旅立ったそうです。
そこで桔梗さんは我に返り、呼吸も元に戻りました。
寂しかっただろうな、悲しかっただろうな、とアキさんの気持ちに寄り添い鉄製の風鈴は外してもらったそうです。
桔梗さんはアキさんが寂しくないように忘れませんよとおっしゃっていました。
憑依体質の桔梗さん @Yu-ta_kamizono
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