トライアングル 1
葉月が怪しい男に襲われそうになっている所を、後先考えずに車から飛び出して助けてから一週間…… 無事と言えるかは分からないが俺は生きている。
男と揉み合いになった時に、脇腹から背中の方にかけて刃物で切られてしまい、更に頭を打って気を失い、葉月が救急車を呼んでくれて病院まで運ばれたみたいだ。
そして病院で色々治療や検査をしてもらったが、頭に異常はなく、切り傷も長さは三十センチくらいあったみたいだが、深い傷ではなかったので縫合してもらうだけで済んだ。
それは良かったのだが、問題は揉み合いになった時、右足の足首を骨折してしまったこと。
あの男は太っていたし、倒れた時に足に重みがかかったと思った瞬間、激痛が走ったことまでは覚えているんだが…… とにかく一ヶ月くらいは歩くのも大変になりそうなんだ。
幸い手術までは必要ないみたいでギプスで固定しているのだが、頭を打っていることや切り傷もあるので、しばらくは安静にしていろと病院の先生に言われてしまった。
そして家に警察が来て事情を聞かれたりと色々と忙しいのだが…… それよりも俺が頭を抱える原因になっているこっちの状況の方が…… 精神的に大変だ。
「パパー! おくすりのじかんだよー!」
「ああ、ありがとな、穂乃果……」
「えへへー、どういたしましてー、パパはゆっくりねててね!」
幸い穂乃果は事件を直接目撃しなかったおかげで『パパがケガをした』というショック程度で済んでいるみたいで、今こうして献身的に俺の面倒を見てくれている。
それはとても嬉しいんだが…… 俺が困っている理由はそうじゃないんだ。
「大樹さーん、今一緒にご飯を作ってますから、もう少し待ってて下さいね?」
「あ、ああ…… ありがとう」
「きょうはねー、シチューなんだって! ほのか、ママのシチューだいすき!」
「あたしも手伝ってますからね……」
ママのシチュー
そう…… 今、この家には、葉月と…… 楓もいるんだよ……
…………
…………
病院で治療や検査を終えた後、俺が処置してもらって一時的に寝かせてもらっていたベッドがある部屋に、母さんと穂乃果、そして葉月が駆け込むように入ってきた。
「うわぁぁん! パパぁぁぁー!」
「大丈夫かい、大樹!」
「だ、大樹さん…… 良かったぁ…… 良かったぁぁぁー!!」
穂乃果…… 無事で良かった。
咄嗟のことで車に置き去りにするような形になってしまった…… 今考えたら恐ろしい事をしてしまったが、どうやら葉月が穂乃果を連れて来てくれたみたいだ…… 本当に良かった……
その葉月はというと青白い顔をしながらボロボロと泣いているけど…… 怪我はないみたいだな。
そして母さん…… こんな遅い時間に病院まで駆けつけてくれて…… 心配をかけてすまなかった。
「葉月…… あの男は?」
「大樹さんが気を失ったのを見て…… 逃げて行きました…… 穂乃果ちゃんはグッスリ眠っていたので大丈夫です…… あとは警察に事情を話しました……」
そうか、あとは警察が何とかしてくれるはず…… それよりも恐い思いをした穂乃果や葉月は…… 大丈夫なんだろうか?
「パパぁぁぁ……」
俺の手を握り泣いている穂乃果を、身体のあちこちが痛いが痛みを堪えながら抱き締めていると、母さんが涙を流しながら
「心配をかけるんじゃないよ! まったく…… うぅっ…… アンタに何かあったら穂乃果ちゃんはどうなるか分かってるの!?」
「ゴメン、母さん……」
「ごめんじゃ済まないわよ! 犯人に気付かれなかったから良かったものの、穂乃果ちゃんがもし危険な目に合っていたらどうするつもりだったの!! 大樹は昔から後先考えずに動くんだから!! うぅぅ……」
久しぶりに怒られてしまった……
本当に申し訳ない…… 冷静になって考えれば、あの男がもしも穂乃果を…… と想像したらゾッとしてしまうような事を俺はしたんだ……
そして…… 泣いている穂乃果をなだめながらふと廊下の方に視線を逸らすと、そこには…… 部屋の入り口に申し訳なさそうな顔をしながら立つ…… 楓の姿が見えた。
「…………」
何で…… 楓がいるんだ?
「……楓ちゃんは母さんが呼んだの、怒らないであげて」
いや…… 驚いているだけで怒ってはいないが…… ここには葉月がいる……
葉月が襲われそうになったのを助けて病院に運ばれたんだから、葉月がここにいて悪いということはないんだが……
『見られてはいけないものを見られてしまった!』という気分になってしまっている俺がいる。
「大樹くんが刺されたって聞いて…… いてもたってもいられなくなって…… 来てしまいました…… ごめんなさい……」
「……ママ?」
穂乃果が不思議そうな顔をして楓を見ている…… そうだ、ここには穂乃果もいるんだよ……
「心配かけてゴメンなママ、来てくれてありがとう……」
「あっ…… うん…… 心配したんだから……」
楓もその事に気付いたのか、すぐに話を合わせるように返事をした。
その後、病院の先生から怪我の状態や検査の結果を聞いていると……
「すいません、警察ですが……
「はい…… あたしです……」
「先ほどのお話の続きを聞きたいので時間よろしいですか?」
「分かりました…… 大樹さん、また後で来ますので……」
葉月は事情の説明のためになのか、警察と共に部屋を出ていき……
「大丈夫そうなので、私も…… とりあえず今日は帰ります」
楓も少しうつ向き気味だったが、帰宅すると告げて部屋を出ていった。
そして、その日は一日病院に泊まり、次の日に帰っても大丈夫と言われたので、穂乃果と母さんと共に帰宅した。
帰宅すると家に警察が来て、俺にも事情を聞かれたが…… 知り合いが刃物を突き付けられていたから咄嗟に助けるために動いただけで、男は知り合いではないと、正直に答えておいた。
……あの男が、葉月とどういう関係なのかまでは分からないからな。
ちなみに…… 犯人の男はその二日後、山奥で遺体で発見されたらしい。
警察の調べだと現場の状況から自殺の可能性が高いとの話だが、その事について再び警察が俺の家に来たが…… 特に俺から話すことなく、犯人が死亡しているので不起訴になると思うという事と、犯人には家族などもいないので…… という話をして、すぐに帰っていった。
そして犯人が死亡したという話を聞かされた更に二日後、母さんが俺の家に葉月と楓を呼び出した。
「葉月さん…… だったわよね?」
「はい…… 挨拶が遅れてすみません、大樹さんの友達の…… 小林葉月です」
へぇー、葉月の苗字って『小林』なんだー、と現実逃避をしていると ……
「初めまして大樹の母です、あと…… 楓ちゃん?」
「はい……」
「大樹が怪我をしてしまったんだけど、穂乃果ちゃんの保育園の送り迎えとか生活のこともあるし…… 大樹や穂乃果ちゃんの事、二人に任せてもいいかしら?」
母さんがとんでもないことを言い出した。
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妻に不倫されて離婚したシングルファーザーの俺と、大人のお店で出会った彼女と…… ぱぴっぷ @papipupepyou
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