第15話 おまけ 少しくらい話をしてあげてもよろしくてよ
あら、あたくしの話が聞きたいの? 猫語を話すなんてあなたも猫? え、猫型セイブツ。そう? まあ、大きいわね。
でも、あたくし暇じゃないの。今度ね。
なによ、その段ボール。ちょうどよいサイズじゃない!? そ、それは、あたくしの……。
いいわ。少しくらいはお話してあげる。先にそのカリカリをよこしなさい。歯ごたえのあるものは大好きなのよ。下僕には黙っていてくださる? ダイエットとか言い始めてうるさいったら。
人の話はわかるのかって? あたくし、生まれも育ちもヒトの家ですの。それくらい理解しますわ。発音器官の都合で話せませんけどね。
天才? 兄弟も同じように理解していましたのよ。まあ、褒められるのは良いけれど。
そう兄弟がいましたの。今もどこかに散らばっていると思いますわ。毛が長いのはあたくしだけでしたけどね。
子供のころに別の家にもらわれていき、大事にしていただきましたわ。その下僕も老齢には勝てず、孫という新しい下僕のところに行ったのですけどね。新しい下僕の結婚相手が猫アレルギーで結婚かあたくしかと悩んでいたらしいの。
あたくしは誇り高い猫ですもの。ちゃんとわかって、ほかの家に行くことにしましたわ。
ここはそれほど広くないけれど、快適よ。時々無作法に吸われる以外は。あれなんなのかしら。毛づくろいでもしてほしいのかと舐めるとびっくりした顔するからそういうつもりじゃないのよね?
そういう儀式? 癒し? わからないわ。
それなら爪でも砥げばいいのに。イライラしても少しは気が紛れましてよ。
いらいらするようなこと? ああ、今度同居する予定の兄弟がやんちゃですの。顔合わせはしたのですけど、もう、野蛮。あたくしのことをまず威嚇するんですの。
まあ、可愛いわねぇといってやりましたけどね。
ふふっ。あんな坊やたちにはお姉さんとして振舞ってあげなくてはいけないわ。
ただ、下僕が、デレっとした顔するのが、腹が立つんですのよっ!
おお、天国って、あたくしがいるだけで極楽って言ってたのにっ!
天国も極楽もちょっと違う? どうでもよいことよ。問題はあたくしだけでいいわけではないと! ……ちょっと取り乱したわね。
新しい同居人のほうはどうだって? 大きいわね。
それだけかって? 親しくないのだからほかに言いようがないじゃない。でも、会えばきちんとレディとして扱ってくれるから嫌いではないわ。そっけないようで、あたくしの気に入りのおやつをお土産に持ってきてくれるし。
それに下僕も嫌いではないみたい。最初はあの野郎とか言っていたのだけどねぇ。それからしばらくして困惑した顔で、あの人どうしたんだろと呟いていたし。
新たなる罠!? といっていたけど、嘘はなさそうよ。長年の経験と勘で嘘つきはわかるの。
そう、嘘つきは。
あら。焦るなんて、悪い子ね。
大丈夫よ。あたくしの声は下僕には届かないもの。
なにかダメそうなら、ひっかいてやりますからね。覚悟してらっしゃい。
まあ、そんな感じかしら。
つまらない話ばかりした気がするわ。
あたくしこれからお昼寝するの。ほら、その箱をよこしなさい。中身? あとでいいわ。新鮮な箱の良さ知らないの? あなたも猫型セイブツならわかるでしょ? きゅっと入り込むあの感じ!
あ、おやつの袋は持ち帰りなさいよ。下僕に見つかるとごはん減っちゃう。自分のおやつは減らさないで、増量したって嘆くくせに、あたくしが増量したらおやつは減らすんだから。
ふああ。おやすみなさい。
「エカテリーナちゃんはなんて?」
眠った猫を確認して鈴音は彼に尋ねた。勝手に同居を決めたものの本当は嫌だったりしないだろうかと気になってしまったのだ。
物は試しと猫語が話せるか知り合いの動画配信者に聞けば、ある程度はといわれたので自宅に招いた。
でかい猫から半人くらいに戻った彼は少し口元を緩めている。
「同居は嫌じゃないそうですが、ほかの猫にデレデレするなだそうです」
「響さんは?」
「レディとして扱ってくれるから可。
で、下僕はあの人好きなの? と」
「……どうでしょうね……。まだよくわからないかな。
他には?」
「あとダイエットおまえもしろ」
「……辛辣」
身に覚えはなくもないので鈴音はそれ以上は言えない。
「部屋から出ないからです。顔が丸くなってきてますよ」
「くっ。ジムとか行くし」
「まあ、頑張ってください」
「言われなくても」
「ああ、そうだ。うちの姉さんがオススメのジムがあって、紹介するとお互いに特典があるって」
「そこにするわ」
というところから番様に遭遇、憔悴しきっていて拾うことになるとは思わなかったのである。
この度めでたく番が現れまして離婚しました。 あかね @akane_haku
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