突然やって来た後輩

もち雪

第1話

 ある日、山奥に住む俺の所へある男が訪れた。


「こんな所で、こんなに一人で野菜を作って世界の食料難でも、解決しょうとしているんですか? そうでないなら、僕の前から突然消えた事はゆるしませんよ」

 

 俺は、脳科学者として、一時期とても名の売れた存在だった。そんな俺の前に後輩の真壁まかべが、今日突然現れたのだ。


 そして唖然と見つめる俺など、無視をして話を進める。


 「先輩は10年後の未来、いや1000年後の未来を引っ張って行く科学者なんですよ。なのに……、こんな山奥にこもってしまうなんて……この山に登る為に僕がどれだけ一生懸命に、この山に一緒に登ってくれる女友達候補を、探したと思っているんですか?!まず、合コンする為に醸造アルコールを、作ろうとして酒類製造免許をまで取ろうとしたのに……でも、税務署に届けるためには……まず製造所が必要なんですよ! そんなお金があれば普通にお酒買うか、梅酒作りますよ!」


 真壁は、いっきに俺にそうまくしたてた、一緒に山に登ってくれる女友達ってのは一時期流行ったCMからきている。そのCMの最初の設定条件である。女友達を作る為の合コンは、やっぱりテレビで見た偏った知識から来ているのだろう。

 酒造アルコールについてはもうわからん。もしかしたらこれもテレビの影響なのかもしれないが……、そこまで意味はないだろう。結局、俺に関わる大切な情報と言えば……。


「で、結局お前は一人で来たんだな……」


「そうです……なんか友達と山に登ったら帰りに……恋人が出現する。そんなシチュエーション憧れてたのに……それは儚い夢と化しました。先輩のせいですよ!!脳科学の力で、ちょいちょいと僕の事好きになって貰おうと、思っていた僕がバカみたいじゃないですか! そもそもここは山奥だし道は蛇行しているしで、車酔いで耳の中の感覚器はバグっていろいろな所がシャットダウン寸前なんですよ! もう! 携帯までもが通じないのでおもいきり、指でポチポチ押していたら腱鞘炎になるわ、本当にたまったものではないです!」


 この情報の中で、拾える意味は……。ここへ来るために大変でしたか……?



 真壁は、この通り一見馬鹿だが、実際もばかだ……。だが、脳科学のという面だけで言うと彼は天才だった。


 いや、鬼才とって言っていいだろう。


 彼を、前にした普通の研究者は。ランサムウェアに攻撃された企業サーバーの様に、今までの尊厳や実績がまたたくまに破壊される。こいつの前にいる凡人は、地に落とされ踏みつけられる。


 それをおそれて……俺は、有名大学の教授と言うブランドを捨てた……、それを俺に与える為に家族が提供してくれた資金や労働を、すべてどぶに捨てる事となったのだ。



「なんで……おれの前にまた、現れようと思った……言ったよな!? 俺の為の送別会の夜、もうお前の顔はみたくないって。もういい加減に俺を解放してくれよ……」


 それからは、言葉が続かなかった。俺はただ頭を抱え……こいつが帰るのと言うのを待った。


「でも……僕にはわかっていたんです。先輩と一緒に研究すれば本当に未来は変えられるって事が。僕は、少しちゃらんぽらんに、皆さんから見えるかもしれません。でも……研究の事だけはそうでありたくないんです。その為には先輩は必要なんです。先輩は感じませんでしたか、? 僕と居れば掴める……僕は、本当はただ……それが知りたくてきました。答えてください! 佐々木ささきひろし先輩!」


 ただ吠えている真壁前で、いつもの様にこいつの本当に言いたい事を考えた。


 今度は俺の未来の為だけに、山暮らしの生活の意味を考える。


 敗北者として山で暮す日々の中では、俺は、俺自身にしか負ける事はなかった。


 俺に懐いている後輩が、キャンキャン吠える事もない。正直、見下している後輩が、俺より偉大な功績を遺す事も無ければ、後輩の思考の中に眠る、ダイヤの原石を掘りだそうと躍起になる事も無かった。


 山奥にでも、俺の求めていた知識的欲求を満たすものは、何もないわけではなかったが……。


 だが、俺のより強く求めているは別のもので、それはどうすれば手に入れられるか痛いほど考えていた……。いや、その方法は知っていたが、別の方法を探し求めていた。


 研究者には、悪魔と取引してでもその先の真実を、知りたい奴がいる。おれは決してそんな偉大、いや……研究に命を懸けたりしない。でも、目の前に未知の真実が知る事の出来る扉、それが置かれていれば、先など考えずに俺は開けてしまう人間だったようだ。

 

 今日、真壁を目の前にした時に感じた、それは本当に頭が痛くなる結論だった。


 だが、扉のが、『真壁』。こいつならば……彼の手、いや頭脳を、自ら求めなければならない。。


「わかった……真壁お前の勝ちだ……俺と一緒に研究をしてください。お願いします」


 こうして頭を下げる事によって、勝手だが俺なりの礼儀はしたつもりだ。真壁は、悔しくて、呆れるが、目を輝かせて俺の返事を喜んでいるようだ。


「やっぱり先輩の相棒は、ボクっ娘の僕しかいないですよね。どちらかと言うと、後輩でかわいい属性の僕は最強です!」


「いや、真壁……、ボクっ娘は一人称がボクのかわいいって意味じゃないから……」


「えっ?」


「一人称がボクのの事だから……」


「えっ?」


「これはもう……おわりだ……」




      おわり

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

突然やって来た後輩 もち雪 @mochiyuki5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ